ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Voice of the devil〜悪魔の声〜 ( No.15 )
- 日時: 2010/12/23 18:02
- 名前: 星都 ◆U9Gr/x.8rg (ID: PWqPGq9p)
09
「……寒い」
夕方の6時半。今は秋だが、少し日が短くなったのか、あたりにだんだんと闇に染まっていく。
今日は次郎は居ない。いつもなら嫌な顔をしているのにも気づかずに、顔を間近に迫って絡んでくるのだが。
「……って俺は心配しているわけではないからな」
誰も聞いていないだろうが、何となくそう言ってしまった。
———『悪魔』
悪魔というと、どんなイメージを持つか。
口の端まで避けた真っ赤な唇。長い舌。鋭く、まるで何もかも見透かされているような瞳。
端整な顔立ちをしている。月夜の闇に人間を引きずり込んで、魂を喰いあさる。
しかし、俺が部室であったあの美少女。自称悪魔。確かに人間とは思えないほどの、美しい顔をしていた。陶器と疑ってしまうほどに。
「……あ、着いた」
考え事をしながら歩いていると、いつの間にか家の前に着いていたようだ。
「ただいまー」
家族に心配させないように、わざと明るい表情と明るい声で家に入る。
もちろん、最初に聞こえてくる声は——。
「あっれー?もう帰ってきたの?一生帰ってこなくて良いのにー。あっははは!!」
「……ただいま帰ったぞ、お前の偉大な兄がな」
「はぁ?偉大、ばっかじゃないの?」
昨日の夜録画したバラエティ番組を見て大笑いしてる、品のなに我が妹の罵声であった。
「…もう少しかわいらしいお帰りが言えないものか……」
妹を持つ兄として、一度でも良いから甘えられたいと思うのは、俺の数少ない願いである。
「今日はお袋はバイトか…」
「うん。遅くなるって言ってたよ。だから今夜は二人っきりだね」
二人っきりだね。二人っきりだね。二人っきりだね。
なんだか妙にかわいらしく聞こえる。……って俺はいつから危ない奴になったんだ。
これだと、また妹に馬鹿にされてしまう。
「もともと馬鹿にしていますから、安心しなさい」
「そうかそうか。それならば安心———」
……ちょっと待て。
この無駄に上品な喋り方で、人の神経を逆なでするような言い方。
どこかで聞いたことがある。もちろん、俺の可愛い(そうでもないかもしれないが)妹の香里は、こんな喋り方はしない。人の神経を逆なでするような言い方はするが、こんなに上品ではない。
恐る恐る首を後ろに向かせる。知らず知らずのうちに体が拒否しているのだろうか、それだけの動作なのに首が痛い。
やっとの思いで首を振り向かせると———。
「ちょっと、何なんですの?化け物でも見たような顔をして。これだから人間は」
真っ赤なワンピースを纏い、真っ赤な厚みのない唇。雪のような、陶器のような白くてなめらかな肌。
俺が知る限り、人間とは思えないほどの美少女をは1人しか居ない。
「……ろ、ローズ…ウィンディ?」
「あら、そのすっかすかの脳でもあたくしの名前を覚えててくださったの?
光栄ですわ♪」
そう、あの悪魔であった。
次の瞬間、俺は声にもならない叫び声を上げていた。