ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Voice of the devil〜悪魔の声〜 11話更新 ( No.33 )
- 日時: 2011/01/15 21:24
- 名前: 星都 ◆U9Gr/x.8rg (ID: PWqPGq9p)
12
「「いっただきま〜す」」
「…………いただきます」
くっ。何という屈辱…。
お袋が帰ってきたのは6時半。ガスボンベを取り出して、今日は鍋だという。
しかし…。しかしだな…。
「どうして俺だけ別のテーブルなんだぁぁああ!!」
「うるさいよ良介!」
「そうよぉ。今日は女の子だけの鍋パーティーよぉ」
「乙女同士の会話に割ってはいるなんて、どこまで無粋な男なのかしら」
……もう突っ込む気力さえ失せてしまった。
たしか、今の時代って「男女平等」じゃなかったか?
え?なに。それって俺の中だけだった?今の時代のブームは「男子が奴隷」の時代なのか?
「ま、飯があるだけマシというか……」
「良ちゃん、ビール持ってきてくれる?」
「あ、私ジンジャーエール」
「あたくしは日本茶でもいただきましょうかしら」
「俺の事はもはやしもべとしか見てないよなぁ?!」
酷い……。酷い扱いだ……。
まさか、白飯と梅干しとたくあんだけの食事が出てくるとは思っても居なかった。
「……悲しみを通り越して、自分の小ささを実感するな」
「あら、やっと理解しましたの?」
「鼻で笑ってあげる」
……………………。
「そうですよ、どうせ俺はここにいてはいけない存在なのだな。
これは切腹だ。お殿様、我はいまから切腹してお詫び致します。
ここに生まれてきた故に、他の者に不快な思いをさせてしまった由」
「良ちゃん?せっかくのご飯が冷めちゃうわよ?」
「………………いただきます」
俺はじゃっかん堅いご飯をもそもそと食べる。時間を掛けてゆっくりと。何でって?
だって少しくらいみんなと一緒に食べていたいじゃないか。……たとえメニューが違ってても。
「はぁ。今日はさんざんな日だったな」
一日が終わっていないのに、何故か今日一日で三日間ぐらいの体力を使っている気がする。
「……複雑だな」
ついこの間…いや、今日の朝まではこの退屈な日常が嫌で嫌でたまらなかった。のに、今目の前に現れた非日常的な事を突きつけられて。いきなり人間界を滅ぼすとか言われて。俺はこの世界から逃げ出したくなった。
「……望んでいた世界なのに…な」
先ほどまで粗大ゴミが置かれていて少しほこりっぽいベッドに倒れ込む。
なんだか急に世界が広くなった気がした。
「人間界に悪魔界……」
実は言うと、小さい頃は憧れていた。
この世には人間だけが住むには広すぎると。こんな広いのだから悪魔や死に神、ましてや妖精なんかも住んでいるのではないかと。
しかし、大きくなって受験に成功して。平凡な高校生活を思うと、なんだか急に世界が狭くなっていった。俺が身体的にも成長したせいもあるのかもしれない。幼い頃に比べて目線が高くなり、大人の考えていることが自然と分かってしまって——。
「……いったいいつから、俺は大人になったのだろう…」
…………。
いくら探しても答えは出てこない。嫌気がさした俺は、そのまま枕に顔を埋めた。
こういうときは何も考えずに寝るのが一番だ。
「……仕方ない」
起きてしまったことは仕方ない。今は目の前のことを見つめるだけ。
いつの間にか、俺は深い眠りへと落ちていったのだった。
