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Re: Voice of the devil〜悪魔の声〜 18話更新 ( No.67 )
日時: 2011/03/25 11:41
名前: 星都 ◆U9Gr/x.8rg (ID: p81XYxhw)

19

「あ、あのぉ何か用ですか、佐々山君」

オカルト研究部の部室の前で、俺は戦利品である佐藤武と話をしていた。
——あれは長い戦いだった。
まずあのまま言い争っていても無駄だから、いったん落ち着いて話をすることになった。そう——あの薄暗い独房のような狭い部屋で。そして、俺はこう言ってやった。『俺は……俺の信念を貫く!行くのだ、最恐兵器ローズよ!

「もしもし、急患ですの。病名は中二病、ええ、深刻ですわ」
「ちょっと待て、いや、待ってください!」
「あら、駄目ですわよ病人が暴れては」
「病人じゃない!」

いかんいかん…あの中二病連中の中に入ったら、病気が移ってしまったようだ。病気というものは怖いな…。

「あ、あの…佐々山君?」

……ああ、佐藤の存在を忘れていた。佐藤はクラスでも目立たない方だ。影が薄いというか陰気というか根暗というか…。もともとあまり喋らない人間だ。

「悪い悪い。それでは単刀直入に聞くが、おぬしはここ最近欠席しているな。理由はなんだ」
「り、理由って…。普通に風邪だと思いますけど」
「——思う?」
「あ、えっと……」

しどろもどろになる佐藤。あいつはいつもこうだ。授業で当てられたときにはこのようにしどろもどろになり、話を振られたときにもしどろもどろになる。よく言って引っ込み思案。悪くいって面倒な奴だ。

「……………………」
「……あの、もしもし。ローズさん?」
「……………………」

佐藤がまだしどろもどろになっている隣で、ローズは拳をわなわな震わせていた。
……どうかしたのだろうか?

「…………あぁぁぁあああああ!!!!もう、じれったいですわね!男ならしっかりしなさいよ!悪魔界ではねぇ、こんな男は女の尻に敷かれるタイプですのよ!」
「なるほど、男が女の尻に敷かれるのは世界共通なのか」
「良いですの!?男という者は将来一家の大黒柱と成らなければならない、とても大事なのですわよ!その男がなんですの!?一家の大黒柱どころか、裁縫途中のまち針ほどの威厳もありませんわよ!」
「まち針に威厳もへったくりもないだろうに」

なるほど、今の時代はまち針にも威厳というものが求められているのか。
それとも何か?縫い針を待っている間、きちんと布を抑えているよ所に威厳が必要なのか?

「あ、あの…。話を元に戻したいんだけど……」
「だったらさっさと話しなさいな!!!」

さすがの俺もツッコミにキレが無くなってきたぞ。さっさと話せ。

「は、はいぃ!!えと…『思う』 というのは、実は欠席していた時の記憶がないんです。
 何というか……すっぽり抜けてるんです」

えと…つまり部分的に忘れてるということか?

「はい。自分の名前とか、家族のこととかは憶えているんです。ただ、欠席していたときの記憶だけなんですよ、忘れてるのは」

部分的に記憶喪失というやつか?
第一、その日の記憶だけがないと言うことは、その日になにか嫌なことがあったと言うこと。もしくは、その日の記憶を無くしたいと強く願っていたから。

「ローズ。お主はどう思う———ローズ?」

しばらく静かにしていたローズを見てみる。ローズは口から紅い舌先をちろりと見せて、こう言った。

「……一人目みっけ」