ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: メモリーロード〜Storage search〜 ( No.3 )
- 日時: 2010/12/11 10:24
- 名前: 名無しの権兵衛 (ID: U3CBWc3a)
【MEMORY 02〜出会い〜】
名も分からない森を歩いて約1時間、景色が少しずつだが変わり始めていた。
木々の数が減っていき、僕の目の前に謎のダムが姿を現した。
「ダムか……一体どこのだろう………」
僕は鉄の棒を杖代わりに、傾斜面を降りて行き、ダムの手前まで来た。
全てがコンクリートで作られ、水の轟音が絶え間なく聞こえてくる。
貯水されている水は湖と化していた。呆れるほどの多さだ。
「しかし、こんなダムって今の日本にあったっけ?」
僕はどうでもいいことを考えながら、ダムに近づく。出入り口は、どこにも見当たらない。
“政府直轄エリア 神崎ダム”
ダムの壁に小さく刻まれている。まるで、遺言の様な雰囲気を漂わせている。
「神崎ダム……聞いたことないな………」
僕は手すりから顔を覗かせる。その時、衝撃の光景が僕の視界に入った。
「え……?」
ダムの壁に、大きな穴が開いていた。
それは明らかに、爆発か何かの災害で空いた穴であることが一目で分かった。
「ちょ…え!?」
僕は急いで貯水されている水を見る。すると、先程よりかなり量が減っていた。
「どうなってる?一体どうやってこんな穴が…」
僕は大急ぎで出入り口を探す。立ち入り禁止のドアを鉄の棒で開け、階段を上りダムの上まで来た。
ダムを渡れば、向こうの森に渡れる。
「ねぇ!!!ちょっと!!!!」
僕の耳に、水の轟音に紛れて女性の声が確かに聞こえた。前方を見ると、白衣を着た女性が立っていた。
「こんな場所で何やってるの!?早く来なさい!!!」
「は、はい!!!」
僕は壊れかけのダムの上を疾走する。と、同時にダムが小刻みに揺れ始めた。
「急いで!!崩れるわよ!!!」
女性の叫び声に催促され、僕はスピードをあげた。そして、女性の元に辿りついた。
「行くわよ!!事情は後で聞くわ!!!」
女性に腕を掴まれ、僕達は大急ぎで階段を降り、ダムから離れた。森の中に駆け込む。
「なんでまだ走るの!?ダムから離れたじゃん!!」
「馬鹿じゃないの!!大量の水が一気に襲ってくるわよ!!!」
女性は一言説明すると、僕を引っ張りながら森の中を駆ける。
今思えば、記憶喪失になって初めて人と出会った
こんな形でだけど……
ある程度走ったところで、女性は足を止めた、僕も足を止め、息を整える。
「まったく……どうして……あんな場所にいたの?」
「僕も分かりません。記憶喪失で何も覚えていないんです……」
僕の言葉を聞いた瞬間、女性の表情が唖然となる。当たり前のリアクションだ。
女性は白衣の下に水色のパーカー、黒いジーンズを着ている。髪はポニーテールで整え顔は凛としている。
大人の雰囲気を漂わせ、僕はなぜか安心していた。
「そうなの……でも、なんでこんな場所に?」
女性の質問に、僕はとりあえず覚えている所まで話した。
トラックで目が覚め、ゴミごと捨てられ、鉄の棒片手にダムまでやってきた。簡単な説明だ。
「……じゃあ、名前も覚えていないんだ。」
「そうです。……あなたの名前は?」
「私は田中弓華。とりあえず、近くに私の車が止めてあるからそこまで行きましょう。」
僕は弓華さんに引っ張られ、再び走り始めた。
そして僕は後々気付くことになる。
この出会いが、田中弓華という存在との出会いが、
記憶探しの旅の大事な人物になるということを________