ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

第1章 世の中とはそんなもの ( No.3 )
日時: 2010/11/16 23:27
名前: 黄昏 (ID: 81HzK4GC)

11月24日(水) <晴れのち曇り>

小花から「表情」というものが無くなったのは、いつからだっただろうか。
そう。あれは、小学五年生の時だった。彼女は四歳離れた姉を亡くした。
何故死んだのか、どのように死んだのか、おれは知らない。
でも、五年前のその出来事が、彼女の心に深い傷を残したことは明らかだった。
あれから俺は、小花の笑っている所や泣いている所を見ていない。
いつも無表情で、ぼーっとしていることが多い。
口数も前より減ったけれど、たまに変なことを言う。

今日だって……

「うた。兎はね、独りぼっちで寂しいと死んじゃうんだって。
 でも、それって全部の動物に言えることだよね。人だって、一人じゃ生きていけないもの。
 兎だけじゃないよね」

小花は学校の兎小屋を見ながらそう言った。

「孤独で死ぬなんて、何だか寂しいな」

と俺が言うと、小花は首を傾げた。

「どうして? 独りぼっちで生き長らえるよりも、死んじゃった方が楽じゃない? 
……独りぼっちは寂しいもの。死んじやった方が幸せじゃない?」

小花がまるで「そうだ」と言ってほしいようにするものだから、
おれは「そうかもしれない」と呟いておいた。
小花は安心したのか、ふっと息をついて兎を見ていた。二匹の兎は仲良く跳ねていた。

記憶の中の小花の笑った顔も、嬉しそうな顔も、喜んでいる顔も今は薄れてきている。
でも、いつかもう一度、小花の笑顔を見れることを、おれは願う。
明日も学校だ。今日は早く眠ろう。

卯月はペンを置き、日記をぱたりと閉じた。
日記といっても、毎日つけているわけではなく、
気が向いたときに、思ったことや気になったことをを書いているだけなのだが。
部屋の明かりを消すと、卯月は引きずられるようにして眠りについた。