ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 脳内アリロッド ( No.22 )
日時: 2010/12/17 21:15
名前: ポアロン (ID: rb3ZQ5pX)

第1章〜うごめく影に〜

「ふーん、此処が土川さんの家かぁ。なんていうか…すっごい豪邸って感じだよね」
「私はあまり好きじゃないけどね、この家。
さ、皆遠慮しないで入ってよ。風邪ひいちゃうよ」

本当に、目の前にいる土川がまるで別人だ。まぁ別人っちゃ別人なんだけど。
思えば学校以外で土川にこんなに優しくされたのは初めてかもしれない。いっつも僕の前以外では猫かぶるし。

「おっじゃましまーす…って、宝木ちゃん?」
「え、ああごめん、ちょっと考え事しててさ…。
御邪魔します」

うわぁ…。恐るべし土川さん。流石パーフェクト人なだけあって、家も豪華すぎるなおい。僕ん家なんてマンションだからな…。しかもよっぽどのことが無い限り家には入れてもらえないし。

「——————い。
おい、宝木」
「ん?
って、土川何で…。アレ?アイツは?」

知らぬ間に、というか考え事をしている間に、椿弥が何処かへ行ってしまったようだ。
「あぁ、あの子なら今着替えてる。あんな血ィベトベトのままで家に上がってこられるなんて、反吐が出るからな。私の綺麗な家が台無しじゃねーか」
はいそうですね。

いやしかし…

「土川、お前いつの間に着替えたの?」
「ん?さっきの間に」
「そ、そう」

土川の私服姿なんて初めて見た。思えば土川の家に御邪魔するのだって初めてだし…。今日はなんていうか…スペシャルな日だな。いや、そうでもないか。

と、僕がそんなことを考えているうちに、

「おっ待たせ〜」
弾んだ音符が宙に浮かんでいるかのような笑顔でナイフを持ちながら走ってくる椿弥。

「おまっ…。何でそんな物騒な物持ち歩いてんだよ」
「いやだなぁ、宝木ちゃん。コレは最早わたしの身体の一部と化しているんだよ。やっだなぁ、宝木ちゃんは。いやらしい」
「バッ…。何ソレ反則じゃないかな!?」

本当に、反則だろそれは。

「宝木くん、お母さんから電話だよ?」
「…………は?」

突然の空気破りな土川の発言に、一瞬気を失うかと思うほどそれは衝撃だった。
嘘だろ、何であの人が僕なんかに電話してくるんだ。

そう思いながら土川から受話器を受け取り、耳に押し当てる。

『夢真?アンタ何してるの。散歩じゃないの?どうして土川さん家にいるの!?早く帰ってきなさいな、アンタみたいなのが土川さん家にいたら、汚れるでしょう。きちんと御礼言ってから家出るのよ?』
「…………………」
———————ウルサイ。何様ダヨ、お前ハ。
『夢真、返事は?』
「……るさいな」
『は?アンタ何て言った今!?アタシに向かってよくもそんな口が利けるわね!!』

『ガシャン!!』

「だぁー、うっさいな。どうして僕はお前の言いなりにならなきゃいけないんだよ」
「でも宝木くん、親がいて、喋ってくれるのはまだ少しの愛情はあるってことでしょう?」
「貶されてたら愛情も糞も————」

そうだ、土川って確か…親と離れて暮らしてるんだっけ。

「————ごめん」
「良いんだよ、別に。私はもう何も気にしてないもの」

「ねぇ宝木ちゃん、そんなに親が嫌いなら、殺してあげようか?わたしが」

突然雰囲気ぶちこわしな発言をする椿弥。
そういえばコイツの家族の話とか聞いたこと無ぇな。
まぁ、聞きたくないけど、人の諸事情なんざ。

「うーんまぁ、考えとくよ。
じゃ、帰るよ、僕。あの人が“心配”してくれてるみたいだからさ」
「うん、じゃあね、また明日」「バイバイ、宝木ちゃん」
「おう、また明日な」