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Re: 片腕の魔術師 ( No.1 )
日時: 2010/11/21 20:17
名前: 浅葱 ◆jnintUZIrM (ID: m26sMeyj)



「裏切り者! お前は必ず滅びる!!」


何もかもを覆うほどの暗く深い夜に、高い声が響いた。
泣き叫びそうなほどの悲痛なその声と共に、銀色の鋭い刃が飛ぶ。
そしてその刃をふと掴んだ人物は暗闇でも分かるくらい、微笑みながら空へと舞う。


「そうか…………その時を愉しみにしておこう」

悲痛な叫び声とは正反対なくらいに余裕そうな微笑みを見せて空へと飛んで行った。
追う事すら出来ない叫び声の主は、泣きながらその場へと座り込む。
そして先ほど“裏切り者”が飛んでいった空を見つめて、あらん限りの声で叫んだ。


「お前など消えてしまえ……滅びてしまえ……裏切り者がああああああああああああああああ!!!!!」


目をカッと開き、拳を強く握り締めて叫ぶその有様はさながら敗北した勇者と言った所か。
そしてその声は、響きに響いて空へと飛んで行った裏切り者の耳にまでも届いた。



そして裏切り者は先ほどとはこれまた打って変わり悲しそうな顔をすると口に小さな微笑みを作り空へと再度舞う。






「済まないな……まだ、殺される訳にはいかないんだ」


そう呟いたと同時に、鞘に仕舞ってあった剣を取り出し、自分の腕を切り落とす。
今の裏切り者の感情は誰にも分からない。下手すれば自分自身さえも分からない。
けれど、唯一つ言える事はその日をもって





“裏切り者”から“片腕の魔術師”と言われる様になった事のみである。