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Re: 片腕の魔術師 参照100突破しました! ( No.35 )
日時: 2010/11/24 20:40
名前: 浅葱 ◆jnintUZIrM (ID: m26sMeyj)

「シア……?」

どうしたのかと思い、とりあえず肩を摩ってみる。けれど余程眠いのか起きない。
息はきちんとしているけれど目は覚まさなかった。

目からは涙が零れ、頬を伝いさらに流れて行く。けれど嗚咽は全く漏らしていない涙だった。
ただただ泣いていると言う表現が一番適しているだろうか。

けれど今の私にそんな事を考えている余裕は無い。シアがどうしたのかと焦るばかりだった。
無理に起こしても駄目だろうけどこのまま放置しておくのもどうか……


「お、おい……シアさん大丈夫なのか?」

珍しく焦った風なエンドリューの声。あぁ、そう言えば女に弱いんだったね……とか思う。
そして本当に大丈夫かは分からないけれどとりあえず大丈夫だと思うよ、と頷いておいた。
とりあえず一応安心するかと思いまだ肩を摩る。涙は静かに流れてゆく。

やっぱり男だったら誰もが見惚れそうだと思う風貌に私は何となく……弱い面がある事を知った。
見えた訳でも見た訳でも無いけれど、今この瞬間に悟ったとでも言う風に知ったのだ。
今のシアの気持ちを述べろと言われても全く分からない。けれど何かが分かる気がした。
いつもの冷静でいて実は熱い心を持った人の弱さが何となく分かるような気もした。

それだけと言ってしまえば、実にそれだけの話だけど。
そして暫く肩を摩って居る内に私の方も疲れが徐々に襲ってくるのを感じた。
何しろ散々威圧感を感じたものだし、致命傷ではなかったとは言え傷を負ったし疲れて当然だろう。
するとそれを察したのかエンドリューは冷静そうな顔をしながら「寝て良いですよ」と言う。

言葉に甘えよう、私はそう思い疲れに身を任せて眠る事にした。
案の定眠気はすぐに襲ってきて私はあっと言う間に眠ってしまったわけである。
ただ、寝ていてもシアの事は微妙に頭の中を回る。そして知った弱い面も頭からは離れない。


(……一つだけ言えるとすれば……)

眠りながら、いや寝ていないのかもしれない朦朧とする意識の中で呟く。
唯一、シアの事で私が言える事は






シアが夢で風に揺れる右袖を見ているに違いないと言う事だけだった。





(おやすみ……)

誰に言ったすら分からないまま眠りに落ちる。
夢の中には風に揺れる右袖が見えた、かもしれない。


第一話 風に揺れる右袖 終