ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 片腕の魔術師 ( No.37 )
- 日時: 2010/11/24 21:08
- 名前: 浅葱 ◆jnintUZIrM (ID: m26sMeyj)
第二話 時計の針は、動き出す
木漏れ日が窓から差し込んで私は目を覚ました。
時計を見ると午前六時。随分と早起きをしたものだと自分で感心しながらゆっくりと布団から身を起こす。
和風少女……雪那にこの旅館に連れて来られてからまだ一日目だと言うのに妙に慣れてしまった。
こんなに慣れると後が惜しくなってしまうな、と溜息をついて苦笑する。
ふと耳をすませば厨房辺りから和気藹々とした作業音が聞こえてきた。朝食作りだろう。
何故かと思えるほどに馴染んだ空気を感じながら布団から出て服を着替える。
幸いな事に浴衣は置いてなく、Yシャツと黒いパンツが置いてあった。考慮してくれたのだろう。
有り難く感謝しつつそれに着替えてとりあえず扉の外へと出てみる。
外は廊下だったが昨晩の通りヒノキの香りがしてまたどこか心を落ち着かせるものがあった。
「……そこ、どいて」
ふと声がしたかと思い後ろを振り向くとそこには女性としては長身な感じの少女が居た。
銀髪の綺麗なロングヘアや大人っぽい顔が印象的で年齢の分かりにくい少女は無表情でこちらを見ている。
何をしたかと思えば私が丁度少女の道を塞いでいるのだと気付く。
「あぁ、済まない」
そう言って笑顔で頭を下げてから道を退く。そして少女が通ってゆく。
すると少女の肩に乗っている蛇らしき生き物がシャー
と言う感じの泣き声を発した。
……この生き物は、蛇か? 私がそう思いじっと見ていると少女がその視線に気づく。
慌てて私が何も無い、と言う風に眼を逸らしても少女はじっと私を見つめてきた。
「この子は蘭子……毒蛇よ……それと私は夜光彩佳」
毒蛇と自分の紹介を一度に終えた少女は涼しそうな顔で私を見つめる。
私は苦笑しつつもとりあえず「私はウェル・サーヴァントだ」と名乗っておいた。
すると間違った態度をしてしまったのか彩佳は無反応だった。はて、何をしたのか。
そんな疑問もよそに彩佳はいつのまにか何処かへと行ってしまった。
ふと一人残されてしまった私はあてもなく、とりあえずその辺をうろうろとしてみる。
廊下だと言うのに此処も随分広いものだなぁ……と感心しつつ歩いていた。
すると本日二度目の後ろから声をかけられるイベントが起こる。
「あ、ウェルさん此処に居たんですね。朝食出来たんで宜しければ食堂に来て下さい! あ、後ウェルさんに会いたいと言っている人が居ましたよ」
「会いたい? ……あぁ、じゃあ行かせてもらうよ」
突然の出来事に思わず首を傾げつつも頷いておいた。すると雪那はまた私を引っ張り出す。
これくらいフルパワーで無いと旅館は勤められないのか? とふと変な事を考えていた。
実際そうで無いことを願いたいものだが……まぁ、それにしても私に会いたいとは珍しいものだ。
雪那には聞こえない様溜息を着きながら私は食堂へとやって来た。