ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 片腕の魔術師 ( No.45 )
日時: 2010/12/01 16:20
名前: 梓桜 ◆YtLsChMNT. (ID: m26sMeyj)
参照: http://言い忘れました。浅葱です。

私が頷くのと同時にドラッセルはまるで見た事の無い物を見る風に私を見ていた。
何かと思い視線を辿ると私の首にかけてある銀時計が気になるらしい。

時計修理技師の彼女にとって珍しい時計はやはり気になるのだろうか。
首からその時計を外し、彼女に手渡す。キョトンとした表情は気にしないで私は話し始めた。


「気になるだろう? 良ければいくら調べても構わないぞ」


「良いの? ……大切な時計みたいだけど」


首をかしげながら聞いてきたドラッセルに私は苦笑しながら首を振る。
もう大切な物では無い、そう言いたかったけれどやや面倒だったので言わないでおく事にした。

言えばまた雪那に問われるだろうし、これ以上妙な心配をかけられても困る。
そんな事を考えながら表面的にはボーッとしているとふと、何かの音が聞こえた。
・・
その音を聞き慣れている私は、ある音を瞬時に彷彿する。何度も何度も聞いてきた……高い機械音。
その高い機械音が何を示すのかと言うと、簡単に言えば魔術師が私の居る場所を発見した、と言う事だ。


(……今宵辺りが峠か)


時計を興味津々に見ているドラッセルと雪那をよそに、私は自分に嘲笑した。
魔術師は私を見つければすぐその場所へと向かう。例え其処が軍隊の基地であろうと、民家であろうと。

そして戦いとなれば魔術師達は人を邪魔であれば簡単に傷つける。
先ほど言ったブラフ(はったり)がかえって邪魔になったか。溜息を着きながら機械音を聞く。


「……済まない。私は少し風呂に入って来る。あ、後その時計少々壊れているようだから修理してくれ」


そう言って少々強引だが有無を聞かずに手を振ってその場を去る。
階段を下りて部屋へと戻り昨日リリアーヌと対峙していた椅子へと腰掛けた。

窓へと目を移すと空は穏やかな光に包まれ、心地よい気候を生み出している。
雲は適当に流れ、それが穏やかな雰囲気を作っていた。

私はふと自分の胸に手を当ててみる。規則正しい心音が振動を通して聞こえる。
これが止まるのは、果たしていつの日か。今日か明日か、一体いつか。

今、この事を考えるのはよそう。そう自分に言い聞かせ立ち上がり風呂場へと向かった。
どうせなら風呂に入っておかないとせっかく旅館へ来た意味が無いだろう、と思ったからだ。





カチッ、カチッ、カチッ……


時計の規則正しい秒針を刻む音が耳についた。