ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 片腕の魔術師 ( No.47 )
日時: 2010/12/01 21:39
名前: 梓桜 ◆YtLsChMNT. (ID: m26sMeyj)
参照: http://言い忘れました。浅葱です。

ドラッセルは銀時計に書かれたとんでも無い文章を目の当たりにした。
そしてあまりの驚きに持っていたコーヒーカップを床に落として割ってしまった。

「わわっ……ドラッセルさん大丈夫ですか!!?」

割れて粉々になったコーヒーカップを片付けながら雪那は焦りながらもドラッセルを見た。
ドラッセルは雪那の声など耳に届かない、と言う風に呆然としていた。

目は驚きに大きく見開かれ、口はポカンと半開きになっている。それでも銀時計はしっかりと右手に握っていた。
ドラッセルに何処か浮世離れしていてふよふよと浮いているイメージを持っていた雪那は意外なるドラッセルの感情の起伏に微妙に感心した。

(って、そんな場合じゃ無いって! 早くコーヒーカップを片付けないと……)

自分の仕事を思い出し、焦りながらも雪那は塵取りでコーヒーカップの破片を取っていた。
その焦りからか、ドラッセルの表情を特に気にしていなかった。それは色々な意味で間違いである。

ドラッセルはやや戸惑いながら塵取りで破片を拾う雪那に突然目線を合わせてきた。
その表情は先ほどの呆然とした部分は消えうせ、焦りと不安が入り混じったようなやや泣きそうな顔になっている。

「……え? あ、えっと、どうしたんですか?」

戸惑いながら首を傾げる雪那にドラッセルは銀時計をバッと見せる。
それでも訳の分からないと言う表情をする雪那にドラッセルはやや叫ぶ風にして話し始めた。

「この銀時計、やけに開きにくいと思ってたら……時計の蓋に魔力が篭っていて、ウェルさんが閉じていたんだ!!」

「え? ……魔力が篭ってるって……えと、どう言う意味で「簡単に言えば開かないようにする事!!」

ウェルと話していた時のやや落ち着いて見える雰囲気が何処へ行ったか……。
戸惑う雪那を全く気にせず、やや話を遮ってまでドラッセルは話を続けた。

銀時計を握っている指の付け根が白くなり、彼女ガどれだけ力を込めて話しているかが分かる。
しかしそんな事などはまたも全く気にせずドラッセルは時計の蓋を開け、そこに書かれていた文章を指差しながらまた叫ぶように話し始めた。

「私、ちょっと魔力を扱えるから何とか開けられたんだけど……この時計にとんでもない文が書いてあったの!! さっきの話を嘘だって証明する文が!!!」

ここまで言い終えるとドラッセルは肩で息をしながらもう一度自分で文章を見ていた。
雪那は状況が全く分からなかったが、とりあえず深刻な状況と言う事のみは分かった。

深刻な状況と察した雪那に気付いたのかドラッセルは顔を上げて再度雪那と顔を合わせる。
そしてようやく落ち着きを取り戻したのか、静かに語るように書かれている文章を読み始めた。

「“私は今日より裏切り者から片腕の魔術師に名を改めた。代償として右腕を切り落とした。後悔は無い。ただ使命を果たせば良いのだから。”」

「……使命、ですか?」

これまた分かりにくかったが、とりあえずそれだけは分かったので聞いてみると頷きが帰って来た。
そしてドラッセルはまだ肩で息をしながらやや唇を震わせながら文章を読み始める。

顔は強張っていて、彼女が緊張しているのだと言う事が良く分かる。

「“私は王女を殺し損ねた。後少しであの国が滅びずに済んだものを……あぁ、憎くてしょうがない。
しかも栄華を誇りし魔術師と言う集団が人間界へと放たれたと聞く。命すら危ぶまれるのだろうか。
やはり、王女を討つべきなのだろう。私が消えて良いのはそれからなのだ”」

雪那はあまりの展開に息を呑む。栄華を誇りし魔術師。
先ほど彼がそれに所属していると言っていた事が今嘘だと証明されている訳である。

……しかも女王を討つ、と言う事は彼は裏切り者の家臣と言う事になるのだ。
先ほどまで穏やかそうに微笑んでいた彼が実は悪役だとするのなら……何もいえないのは当然だった。

ドラッセルは息を深く吸うと強張った表情を少し消しながら、それでも無表情で再度話始める。

「“もし誰かがこれを拾ったのであればその者に伝えておこう。私の名はウェル・サーヴァント。裏切り者の自分で右腕を切った愚かな魔術師だ。そして現在は過去に殺し損ねた王女を殺そうとしている。あぁ、王女の名前でも書いておこう。王女の名は





—————————————シア・レイサート」