PR
ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 夕暮れブルー ( No.1 )
- 日時: 2010/11/25 17:46
- 名前: 紅 ◆.O9XkdLocI (ID: a7WresCQ)
静寂が満ちた放課後の図書室の棚にそって歩く。図書室の一番奥の棚の前で私は足を止め、埃を被ったその棚の2段目の右から三冊目の本をぬいた。
少し厚めの小説だ。作者の名前は他では聞いた事も見た事もない。きっと売れないのだろうと思う。その本の三二四ページを開くと、ノートの切れ端が挟まっていた。
——今朝のニュース見た?
ノートの切れ端には、几帳面そうな読みやすい文字でそう書かれていた。
私は用意していたメモ用紙に、通学用の鞄から取り出たシャープペンシルを走らせる。
——もちろん。誘拐事件の事でしょ?
それだけ書いてメモ用紙を本に挟む。もとから挟まれていたノートの切れ端は、シャープペンシルと一緒に鞄に入れた。
そして、その本を本棚に戻す。もとからあった場所ではなく、棚の3段目の右端の隙間に本を滑り込ませた。埃を被った棚では、その本だけが埃を被っておらず多少目立っていた。
校舎から出ると冷たい風が私の頬を刺した。首に巻いたマフラーに顎まで隠し歩く。既に日は落ち、空に月が浮かんでいた。
生徒のほとんどはとっくに帰ったらしく、部活動をしている生徒だけが確認できた。坊主頭の野球部員達が白い息を吐きながら、寒そうにグラウンドを走っている。そんな彼らを尻目に、グラウンドの脇を通り抜ける。
登下校時に通るいつもの道を照らしているのは、月と幾つかの電灯だけで足元は心細い。私はただ何も考えず、歩き続ける自分の靴を見つめながら歩いていた。
時々すれ違う人が私に挨拶をしてくる。それに対して私は頭を下げるだけ。
そういえば今日は夕暮れの空を見なかった。
PR