ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 食い込む冠の苦痛と愛を。 ( No.3 )
日時: 2010/11/26 17:06
名前: 羽衣 (ID: 4jdelmOD)

たくさんある船室の中で唯一灯りがともっている部屋を見つけたので、私が耳をすましてみると中から人の声がした。

「アメリカでは、我々を歓迎するだろう」

タートフ子爵の声がする。それからクリフト男爵の声もだ。「だといいが」

「ロシアの亡命貴族を歓迎したところで、一体何の利益があるのだ?」

「だが長年の友もいる」

父さまの声だ!

私はすぐにさま音高く飛び込んだ。だが三人の雰囲気を考えると、それを控えるべきだったのかもしれない。「父さま!!」

フランス製の古いテーブルをかこんで、三人がこっちを向いて驚いたような表情を浮かべた。だけどすぐさま父さまは微笑を浮かべながら近づいてきた。

「ナターシャ、ロランとともに寝てたのではないのかね」

私は抗議するような口調で返した。

「父さま。なぜロシアを離れたの?」

父さまの目にありありと困惑の色が浮かぶ。

「それはね…ナターシャ」

私は大きな父さまの手をつかんだ。

「君たちを、守るためなんだよ」

「守る?どうして?君たちって私とロランなの?」

「お嬢様、伯爵は疲れています」

タートフ子爵が口をはさんだ。私は彼をキッとにらみつけると父さまに向かって口を開こうとした。そのとき背後の扉がひらき、ひどく慌てたようなアンナが入ってきた。

「申し訳ございません。伯爵さま!」

父さまのこわばった顔がやわらいだ。追いつめられた犯人が、危機一髪助かったような顔をしている。すると私のちいさな体がフワリと持ち上げられ、アンナに手渡された。父さまは私の金髪にキスをすると、笑顔になった。

「おやすみ。ナターシャ。明日の朝に会おう」

明日の朝?今は夜なの?

私は部屋中に視線を走らせたが、時計はなかった。アンナが耳元でささやいた。「お嬢様、勝手に部屋をでてはいけませんわ。さあ、ロランさまもいますから、戻りましょう」

父のおびえた視線を背中に感じていたが、私はアンナに扉を閉められ、振り向くことができなかった。