ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 食い込む冠の苦痛と愛を。 ( No.4 )
日時: 2010/11/26 17:38
名前: 羽衣 (ID: 4jdelmOD)



「ターシャ。おはよう。朝だよ」

現実の世界からロランの明るい声がし、私は目を開けた。

金色の光が、窓から差し込んでいる。

その光がロランにそそがれ、彼の金髪が光輝き、顔は活気にみちて私を見下ろしていた。父さま譲りの淡いガーネット色の目が、ルビーのように輝いている。頬は薔薇色だった。

彼はそこにいるだけでまるで天使だった。

私はたまらず微笑み、自分を起こしてくれたその天使のカールした髪にふれた。髪は私の指に優しく絡みついた。

「どうしたの?さ、早く起きて朝食に行こう。父さんも待ってる」

「うん」私がうなずき、ネグリジェに薄いセーターを羽織っていこうとしたのでロランが止めた。彼の手にはクリーム色のセーラー服がにぎられており、紺色のスカーフがのぞいていた。「ネグリジェじゃだめだよ。これを着ろだってアンナ乳母さんからいわれた」

「セーラー服ね」

「新しいっていってたよ」

「分かったわ。ロラン、外でちょっとまってて」

ロランが部屋を出ていくと、私はウキウキしながらそのセーラー服を着てみた。

ここしばらく安っぽいドレスばかり着ていたから、新しくてしかもドレスじゃないのがなにより嬉しかった。クリーム色の明るい下地を私は即座に気に入ってしまった。スカーフを胸のあたりで束ねると──私はとても可愛くなった!

扉をゆっくりと開いてみると、ロランが待っていた。
さっきは気づかなかったけれど彼は水色のセーラー服を着ていて、黄色いスカーフを巻いており、彼は髪の短い可愛い女の子のようだった。彼は頬が紅潮している私を見ると微笑んだ。「ターシャ!とても似合ってるよ!」

ロランは私のことをターシャと呼ぶ。私のお気に入りの愛称だった。
私をターシャと呼ぶのは彼しかいないし、彼以外にそう呼ばれたくもなかった。彼は進み出てきて私の腕をにぎった。

「君用につくられたみたい」

「ロランも似合ってる。女の子みたいよ」

「え?ぼく女の子はやだな。たくましい男の子がいい」

ロランがたくましい男の子になるとはとうてい考えられなかった!私とそっくりな華奢でひ弱そうな足が、筋肉質にがっしりとする日がくるなんて─!

私たち兄弟は仲良く手をつないでテラスに出た。

すると朝の日差しが私の目を射抜いた。「うわあ」あまりのまぶしさに私は目を細めた。
数日見てなかった青空が太陽とともに私たちを迎えてくれ、ロシアの意地悪な寒風とちがって温風が私の頬をなでてくれた。