ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

6月9日 ( No.5 )
日時: 2010/12/22 22:54
名前: 櫂破死呪金鷲偽善者 ◆DjLU4FR6Jg (ID: ymYDaoPE)

6月9日「朝」


 かなりの音量でセットした目覚まし音が、私の横で鳴り響く。

 私は、その音で目が覚めた。
 窓から照らす、太陽の光を浴びながら、やや目を細めにして鳴り響いている時計を止める。

 頭がボーッとする。

 昨日の寝床に入った時間すら覚えていない。ただ、焦りを感じつつ勉強をしていたのはしっかりと覚えているのだが、それ以降は頭の中の記憶には残っていないようだ。

 ぼーっとした感覚が、徐々に痛覚になってきた。
 頭を押さえて、左右に振る。

 特に変化はないが、眠気はなくなった。

 「……朝、か。」

 時計に目をやれば、時計の針は午前6時を指していて、秒針がちょうど一分を上回った。

 私はベッドから降り、縦向きのベッドの下の方にある扉を開ける。

 もちろんそこから階段の下は一階のリビングで、二階の私の部屋の隣にある寝室は、お父さんとお母さんの部屋である。

 二階建の高級住宅。

 そんな言葉がまた私の心に突っかかった。

 別に、室内の広さでは通常の一軒家とあまり変わりないのだが、この二階の窓辺から見える庭が、やはり高級と言わざる負えない広さと美しさなんだと思う。

 わたしにとってはどうでもいいが。

 「愛奈〜、朝ごはん出来たわよ〜!」

 窓の外に広がる庭を見ていた私に、そんな掛け声が聞こえてきた。

 言われなくても分かっている。

 私はそんな気持ちを抱きながら階段を下りて、リビングに向かった。

 リビングのテーブルの上には、朝ごはん定番と言っていい、焼き魚と漬物&おみそ汁とご飯だった。

 都会に来てからも、あまり起きる時間は変わっていない。朝の午前6時。まだ遅い方だと自分では思う。

 ただ少し違うのが、田舎の時の私はたとえ朝早く起きたとしても、朝っぱらから遊び呆けて、時間を潰していた事だけだ。が、ここではそんな悠長なことはしていられない。

 今、わたしが手を付けている朝食が食べ終われば、やはり『朝シャン』だろう。

 『朝シャン』、この流行語を知ったのもここに来てからだ。

 朝にシャワーを浴びることらしい。これはもしかしたら流行語ではなく省略語なのかもしれない。

 「……朝シャン……かぁ。」

 つい、小さい声で呟いてしまった。

 この声を察したのか、私の席の隣に母親が寄ってきた。

 「ねぇ愛奈。あんたまさか、またシャワーを浴びて学校に行くつもり? 夏だからってね、下手したら風邪を引く原因にもなるのよそんな事」

 言われなくたって分かっている。
 何回言えばいいのかこの言葉を。

 「言われなくたって分かってるよそんなの。でも、この街では絶対に欠かせないの。女の子としての義務なの」

 「……あのね、あなた毎回そんな事言ってるわよ。 たまにはなにか違う言葉で言い訳が出来ないの?」


 毎回言っているのは当たり前だ。

 それを言うしかお前の対処方法が見つからないからだ。

 もう言うことはない。逆にこのあとが面倒臭いことになる。

 ここまでなると、やることは強引的にするしかない。

 食べている途中だった朝食に手を付けるのをやめ、私はその席から立ち上がり、入浴室に一点だけを見つめて母親を過ってから向かう。

 「…………愛奈……。」

 眉の真ん中を人差し指で抑えている母に対し、父は私の行動に、ただ、私の名前をゆっくりと小さく呟いた。

 聞こえないふりをすれば何の事はない。
 ただシャワーを浴びるだけだ。

 ………。

 ……。

 そのあとシャワーを浴び終わった私は、顔の表情を変えないで制服を着て学校の支度を終えてから、玄関から無言で外に出た。


 あとは、無事に登校するだけ。