ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 鈍色の空と桜吹雪 ( No.23 )
- 日時: 2010/12/02 21:23
- 名前: 梓桜 ◆YtLsChMNT. (ID: m26sMeyj)
- 参照: http://言い忘れました。浅葱です。
06 薔薇庭園の主
葵と青年は門を潜り、先ほど見た以上にスケールの大きい薔薇の咲き誇る庭を歩いていた。
感心した風に周りを見る葵に対し青年は薔薇の綺麗さなどを気にせず、平然として歩いている。
そして葵が門を潜ってから家までの意外と長い道にこれまた感心しているとあっと言う間に家へと着いた。
家の鍵は無用心にもかかっていないらしく、青年がドアノブに手をかけて回すとドアはあっさり開く。
青年はまた「入れ」と再度葵を促して家の中へと入った。
家の中もある意味想像通りの豪邸で天井にはシャンデリア、床にはペルシャ絨毯、壁には様々な肖像画、そして様々な色の薔薇……と色々な物が飾られている。
その豪華さと普段あまり見ない洋風な雰囲気の部屋に葵は今度は興奮していた。
そんな様子の葵を見ながら青年は苦笑する風に笑いながら葵に話しかける。
「お前、面白いな……名前は?」
「葵。苗字は捨てたよ。……そっちは?」
「俺は暁。鬼の頭になるべき存在だった者だ……」
そう言いながら暁は腕を組んで溜息を着いた。いらぬ事を聞いてしまったか、と葵は少々戸惑う。
しかし暁を見ている限り特に気にしている様子は無く、葵は微妙に安堵しつつ再度部屋を観察した。
鬼の頭……じゃあ何でこんな豪邸に泊まっているのだろう。そんな事が頭に過ぎったがとりあえず気にしない事にしておく。
そしてさらに暫くすると、部屋の奥にあった扉からガチャガチャと音がして、一人の少女が出て来た。
腰まである軽く巻かれた青髪を静かに揺らし、やや虚ろに見える紫色の瞳で葵を見据えている。
何故か裸足で葵の方へと歩み寄り、幼くも可愛らしい顔で葵を見上げた。
突然少女に見つめられて葵は自分のした事に何かあっただろうかと考えていると少女が突然口を開いた。
「私は霊終 珠姫です。……貴方は?」
「俺は葵。苗字は捨てた。リリアーヌの紹介で来たんだけど……止めさせてもらっても良いですか?」
葵は珠姫に敬意を払って微笑みながらも小柄な珠姫に目線を合わせて敬語で話しかけた。
珠姫は先ほどまで無表情だった顔を微妙に緩ませてからゆっくりと頷く。
暁はそんな様子の二人を見ながらふぅ、と溜息を着いて何処かへと行ってしまった。
「一人で行き続ける事はとても哀しい事です……」
頷いて下げた顔をゆっくりと上げながら珠姫はぽつりと呟く。
葵は微笑みをただの微笑みから哀しげな微笑みへと変化させながらも頷いた。
この豪邸には珠姫の両親おろか使用人すら見当たらない。きっと一人で寂しかったのだろう。
そんな珠姫の心情を察してからの頷きでも合ったのだ。……本当に共感している部分もあったが。
「葵。開いてる部屋に案内するから着いて来い」
そんな二人の間へそっと入るように暁が葵を手招きしていた。
葵は静かに立ち上がり、珠姫に再度微笑みかけてから暁の後を着いて行く。