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Re: 鈍色の空と桜吹雪 参照100突破しました ( No.26 )
日時: 2010/12/02 21:59
名前: 梓桜 ◆YtLsChMNT. (ID: m26sMeyj)
参照: http://言い忘れました。浅葱です。

07 桜吹雪を見る事は無く

部屋に行く途中の廊下の窓は硝子張りで、薔薇庭園の風景が再度見える何ともお得な光景だった。
流石に豪邸は旅館などでは無くて部屋の数は多くなかった。

しかし部屋のドアノブが銀で出来ていたり扉に龍のような勲章が彫られていたりと凝っているのは明らかだった。
葵はまじまじと扉と薔薇を交互に見つめながら廊下を歩いているとそれに気付いた暁はまた苦笑する。

本当にコイツ、変な奴だな。そんな風に思って、誰にも聞こえないように静かに溜息を着いた。
溜息は幸か不幸か葵の耳には届いていなく、葵はまだ熱中して薔薇を見ていたのだった。

「何だ、そんな薔薇が好きなのか?」

「あぁ、うん……でも一番好きな花は桜かな。何か綺麗で好きなんだ」

意外な答えに微妙に返答しづらくなった暁はとりあえず黙りながら歩く事にした。
ただ、桜についてあまり知らない暁でも葵の話を聞くだけで桜が詳しく分かる、気がする。

簡単に言えば葵が桜についての説明が上手い……ような気がする、と言う話だった。
流石に何か言っておこうと思った暁はとりあえず口を開いた。

「俺は花に興味は無い。花に気をとられて、死んでしまったら元も子もないだろ」

「……そうだね……」

自分の言った事をやや否定された筈なのに葵は何故か頷かなかったが微笑んでいた。
賛成はしないが、否定はしない。そんな葵の中途半端な意見を微妙に描写している感じがした。

その後は二人の間に沈黙が流れ、一番奥の部屋の前へと着くと暁は葵に鍵を渡す。
葵は微笑みと言うよりはニッコリと笑いながらその鍵を受け取った。

「じゃあ今日はもう寝させてもらうね。……おやすみ」

そう言って葵は暁に手を振りながら部屋へと入る。暁も小さく手を振ってから再度廊下へと歩き出した。
気付けば空は鈍色へと変貌し、夜遅くと言う描写で表せる時刻になっていると言う事を示している。

そんな事に気づきながら暁は静かに歩みを進めていた。


そして、暫く歩いて珠姫の居た大広間へと着こうとしていた途端、暁の右から何かの気配がした。
暁がその気配を察して横を振り向くとそこには頭に角の生えた……紛れも無い鬼が居た。

暁は特に臆す事は無く、至って普通にその鬼の元へと近寄っている。
どうやら何かしらの関係はあるらしい。

「愁……アイツの前には現れなかったのは何故だ?」

愁、と呼ばれた鬼は人差し指で頭をかきながら苦笑して答えた。

「あの人……葵さん。何か尋常じゃない雰囲気が漂っていたもんで」

そんな愁の答えに暁は特に怒ることも呆れることも無く寧ろ同意、と言う風に頷いていた。
そして暁は愁に背を向け、窓の方を見つめながら口を開く。

白色の薔薇の花弁が綺麗に舞って、窓へとぶつかった。

「アイツ……俺より年下っぽかったが、一体何者なんだろうな」





問いに答えは返ってこなかった。