ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: フランベルジェの剣   ( No.10 )
日時: 2010/12/08 17:35
名前: 雅 ◆2WetyLTYZk (ID: 7hV223vQ)





『………ん?』

僕が気が付いたのは、その日の夕方だった。黄昏の色に染まった空は、窓から僕を照らし眼を覚まさせる。その陽の眩しさに思わず目を細めながら、ムクリとその場に置き上がった。
「ここは…」
目覚めがあの砂漠じゃないのが幸いだったけど…誰かに運んでもらったのだろう。…あぁ、えらい迷惑をかけちゃったなぁ、お礼を言わなきゃ…。ラルクは思い体をズリズリ引きずる様にして立ちあがった。小奇麗にしてある部屋で、ただ机の上に無造作に置かれている魔法書以外は本当に綺麗だ。
「…というか、この魔法書の量は凄いな、初めてこんな量の魔法書見るよ…」
ラルクは、最早呆れ口調でその本の山を見上げた。そして、一冊を手に取ろうと手を伸ばしてみる。


「あッ!触っちゃ駄目———っ!!」


だが、その時背後から声が聞こえた。あまり突然だったので、思わず僕は跳ね上がった。すると、その声の主は本の山を見上げて、安心したかのように軽く溜息をついた。
「良かった良かった、触ると崩れちゃう事あるからさ…あんまり触らない方がいいわよ」
「あーハイ、以後気をつけます…」
ラルクは思わずそう言った。でも良く考えてみると、人ん家の物勝手に触るのって失礼だよね…。
「えーっと…すいませんでした。———僕を助けてくれたのは君?」
「えぇ、そうよ。砂漠に落ちてたから拾ってきたのよ。…はい、ミルク飲めるわよね?」
「あ、はい…」
ひ、拾う?僕って落ちてたんだ…
何故か少しショックを受けながら、ラルクは苦笑を浮かべた。そして、温かいミルクを受け取り、口に流し込む。…そう言えば昨夜———砂漠を歩いてて“また”発作を起こしたんだったっけ…。

「あ」

そこで、僕は気が付いた。
「あの、ここってどこですか?」
僕はロウストに向かって歩いていた。でも、起きてみればベッドの上…まさか、遠くに来てしまったんじゃあ————…。ラルクに不安がよぎった。だが、彼女が口にした言葉は、むしろ飛び上がるほど嬉しいものであった。
「ここ?ここはロウストよ…何か悪かった?」

…————“ロウスト”!?

ラルクは、その言葉を聞いた瞬間嬉しさのあまり再度飛び上がった。
「そ…それって本当ですよね!?」
「な、何よイキナリ…嘘を言って何のメリットがあるってのよ」
彼女は、いきなりの事で引き気味に驚いていた。ラルクはしまったと思い、我に帰る。そういえば、まともにお礼も言ってないよね僕…
「あ…すいません。…あの、助けていただいてありがとうございました」
僕は、肝心な事を思い出し、深々と頭を下げた。すると、彼女は少し困惑しつつ「い、いいわよ…大したことしてないし」と、恥しそうに言っていた。いや、僕にとっては凄くありがたい。むしろ、お礼なんか言い足りないくらいだ。
「本当にありがとう!お礼なんて言い足りないくらいだ。

 …けど、今から本当に大事な様があるから———失礼ながらお暇させてもらうね。
 後で絶対お礼に戻るから、本当ありがとね!」

…そうだ。僕には、絶対に果さなきゃいけない事がある。それはアリスに会う事…そして、“今度こそ”呪いを解いてもらう。

「あ、だからお礼なんてっ…!」
「いえ、本当助かりました!貴女のおかげで僕は…“また会う事ができる”!」
そう、アリスに会う事が、呪いを解く事ができる————!
僕は待ちきれない逸る思いを抑えつつ、丁寧にそう言って彼女の家を飛び出した。






『いる…この街のどこかに、アリスが————!』

ラルクは家を飛び出し、ロウストの中央広場に向かって駆け出す。日はすでに地平線の先に落ち、再び月が神々しく夜の街を照らし出していた。そんな中を、人ごみをかき分けただ闇雲に走る。ラルクは導かれるかのように街を駆け、そして——ある教会の前へと辿り着いた。
『———ここだ、ここに…いる』
ラルクは目の前の教会を見上げ、確信する。錆びれた教会には人の気配はなく、それどころか錆びれて門は開けない状態だ。入りたくても、入れる状況ではなかった。だが、ラルクは軽々とその高い門を飛び越え————教会の屋根の上までもに飛び乗った。だが、それは僕たち魔導師にとっては容易な事…いや、今はそう言っている場合ではない。

「…見つけたよ、アリス」

僕は、誰もいない虚空を見て言った。いや、正確には彼女は“此処にいる”。その事が分るのは、皮肉にも僕の呪いのおかげだ。…そう、僕の呪い———それは——————…


「………誰?」


刹那、誰もいない筈の空間から声が聞こえてきた。その声は幼く、しかしどこか凛とした…そんな不思議な声。僕はその言葉を聞き、首を横に振った。そして、その声に語りかける様にこう言った。
「僕はラルク。…こんばんは、アリス」
「そう…貴方、私が“見える”のね?」
フッと、風が動いた。それと同時に、彼女は教会の鐘の影から現れる。

たとえるなら、それは美しくも毒々しい花。近づいてはならない、否、近づけない存在。瞳は透き通ったスカイブルーで、物語とは違い、真黒で鮮やかな長い髪。それは風にたなびき、優雅で言い表しようのない美しさをかもし出していた。

「君に会えて、本当に嬉しいよ。…アリス、僕のお願を聞いてもらえないかな?」
僕は、そんな彼女に問う様に言った。唐突な事だろうが、アリスは全て僕の事情を承知していた。



僕とアリスは、これで何度目かの対面なのだから—————