ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: フランベルジェの剣 ( No.7 )
- 日時: 2010/12/04 16:35
- 名前: 雅 ◆2WetyLTYZk (ID: S8b9wYSL)
Ⅰ
空には満天の星、そして神々しく旅路を照らす明るい三日月。そんな夜空の下、荒野の果てに見える大きな街を見据えて希望に目を輝かせる青年がいた。透き通ったカーディルナルレッドをした紅い瞳に、自身が着ている黒いコートと全く同じ色をした髪。少し長めのその髪は、夜の砂漠の涼しげな風になびいていた。
「この砂漠も長かったなぁ…七日は歩いたかな?まぁいいさ、あの街に“アリス”がいるならね」
そんな青年の名は、“ラルク・シェイクスピア”と言う。だが、ラルクは訳あってその名で呼ばれる事は少ない。ラルクの側に誰一人いないのが大きな理由の一つかもしれないが、大きな原因と言えば一つしかない。
彼の体を蝕む『呪い』のせいだった。
ラルクは、自分の掌を見据えた。そして、ギュッとその手を握ってみる。…あの街につけば、僕の旅も終わる。僕の苦しみも消える。そう、あの街につけば、アリスに会えるならきっと全てが終わりを告げるのだ。
「呪いさえ無くなれば、僕も“普通”になれるよね————?」
ラルクは自分に言い聞かせる様にそう呟くと、再びあの街の方に目を向ける。ラルクにとって街の明かりは、夜空で輝く星より美しかった。
「さて、そろそろ行くか…」
ラルクは、いつの間にか歩みを止めていた足を再度進め始めた。あの街にさえ辿り着ければ…アリスにさえ会う事だ出来たら僕はきっと—————…
————ドクンッ
「!!」
だが、ラルクが再び歩き始めたその時だった…ラルクは突然発作的な何かに襲われた。ラルクは声にならない声を上げ、苦しそうに胸を抑える。
『ッ…こんな時に……!』
発作を抑えようと息を整えてみるが、発作は一向に止む気配を見せない。そして、立っているのもままならないラルクは膝をつき、そして地面に倒れこんだ。体が重くなり、意識が遠ざかる。
「くっ……」
ラルクは意識が朦朧とする中、悔しそうに強く拳を握った。そして、その瞬間彼の意識は途絶えた。
*
砂漠に囲まれたその街は、独立国家として1つの国を成していた。街には様々な店が広がり、世界中の商人が貿易に集まる場所だと言われる程だ。そのせいか、剣や銃など…やけに物騒な物を置いている店も多いのだが。
——街の名前はロウスト、世界でも大きな国として名を馳せている国だ。
砂漠を渡ってくるのは困難で、先月も他国から正式に貿易の為遣わされた人物等が、ここに辿り着けぬまま消息が途絶えてしまったばかりだ。おそらく、“モンスター”に襲われたか、道に迷い骨となっているかだろう。そして、貧しい人なんかはその貿易品を盗んで、商品として売ったりもしている。
…私はただ、今回の貿易品の中に『あの魔法書』があると聞いて、その消息不明となった人質の貿易品を、砂漠に出て探していたけだ。無論、何時もこんな事してる訳じゃないよ?とにかく私は、そんな理由で砂漠に馬車をひいて出かけていたのだ。
そう、それだけの筈だった—————…
「うー… 見つからない!何処に貿易品があるって言うのよ!」
炎天下の砂漠、そこは地獄だった。砂漠の夜は涼しいけど、昼は暑くてとてもじゃないが出歩く事なんてできない。だけど、私の探している貿易品を探すには、夜より昼の方が探しやすいし、夜まで待ってると、他の人まで探しに出てしまう。人が出歩く事の出来ない昼がチャンスなのだ。
「———でも、真昼間に来るのは止めてた方が良かった…もう少し待ってからでも良かったわ」
ブルルッ
そんな私の呟きにこたえる様に、馬車を引く2頭の馬は鳴き声を上げた。その声は元気のあるものではなかったのだが。
『…ん?』
と、その時だった。南の方角に、何かが見えた。ここからじゃ良く見えないが、あれは…人影?
「まさか、ね…」
彼女は微かに期待を抱きながら、馬車の方向を変えた。だが、段々大きくなるその人影は彼女の目当てとなるものじゃなかった。そこに倒れていたのは、ある一人の青年だったのだ。黒いコートで、長い剣を2本携えている。その青年がピクリとも動かないことからして、おそらくもう………。
「あーあ…まぁ、よく一人でこの砂漠を越えようとしたわね」
彼女は呆れ口調でそう言いながら、彼の側に寄った。砂の埋もれ具合からして、多分昨晩ここで倒れたのだろう。そして、そう思いつつ、彼女は剣に目線をずらした。この剣、どこかで見た事あるような…。いずれにせよ、持ち主が死んでるんじゃ勿体無いだけだわ、せめて剣だけでも持って帰って—————…などと、彼女が考え剣に手を伸ばした時だ。
———ピクッ
微かに手が、動いた。
「えっ!?———生きてるの?」
彼女は、思わずそう声を挙げた。まさか、砂漠で倒れている人が生きてるなんて思わないし…。でも、放っておいたら確実に死んでしまうだろう。
「———あぁ、もうっ!言ってても仕方ないわね、暑さで頭がおかしくなりそうだし…この人を連れて街に帰るか」
彼女は、長くて大きな溜息を一つつくと、その青年を馬車に乗せ、元来た道を引き返し始めた。
彼女等が向かうのはロウスト…青年が目指していた街であった。