ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Veronica*返信100参照800突破・オリキャラ募集中 ( No.104 )
- 日時: 2011/01/13 22:22
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 7Qg9ad9R)
- 参照: 返信数100だと!?
「何してるんだい、ついておいで」
フレイは無意識にウェスウィウスを探しているフリッグに手招きした。ハッとした表情でフリッグは後に着く。
出入り口を越えて内部に入り込む。回転式の大きな硝子扉に圧迫感を感じた。流石帝国中心、規模が違う。メリッサはそう呟く。
内部にはまるで歩くべき道を仄めかすように赤い絨毯が敷かれている。その上を土足で歩くのに少し気が引けたが、すたすた歩くフレイを見て安心し、容赦なく赤を靴の泥で汚していった。
まるでお姫様になったみたい!とリュミエールは心躍った。昔、童話集で読んだ物語のお姫様に今歩いている自分を重ねていた。
「余所見しないでくれよ」
キョロキョロするリュミエールを制す様にフレイは然り気無く言った。エンジェルオーラの子はしょんぼりと小さな頭を垂らす。
フリッグの襟首からポチが緑の首と頭を出す。すんすんと何かを嗅ぎ、フリッグの頬を首で押し退けながら何か見ている様だ。苛立つフリッグだったが、何を見ているのかと気になり翼竜と同じ方角を見た。
先にはフレイによく似た女性が歩いていた。高いハイヒールに、際どいスリットの入ったドレスを纏っている。豊満な胸を強調した服装は周囲の視線を集めていた。フレイと同じく、垂れ目ながらもどこか鋭い橙の瞳をしている。目と同じ髪が歩く度に揺れている。
「———ほ、ほぅ」
ハッとして振り向くと、そこにはにやにやと笑うメリッサの顔があった。
「な、なんだよ」
一瞬動揺。だがメリッサは何か勘違いをしているようだ。
「思春期ボーイだもんね。へーぇ、あーゆーのがタイプなのかぁ」
「………違うから」
「ふっふっ。隠さなくて良いって。思春期にはよくあることさね」
「だからさ………!」
このままではメリッサのペースに乗せられると思い、モヤモヤした気分を残しながらもフリッグは会話を強制終了させた。
「っーまんないなぁ」
口を尖らせ、不満を言うメリッサだったが少しした後には完全に黙りこんだ。レイスに何かを耳打ちしている。恐らくさっきの会話の件であろう。
フレイに似た女性がフリッグらの視線に気付いたようだ。そっと優しく微笑む。それにフリッグも、引き吊った笑みだったが微笑み返した。
とん、と肩を何者かに叩かれる。フレイが眼鏡を押し上げながらフリッグの肩に手を置いていた。
「私の、双子の妹フレイヤだよ」
どーりで。似てるね、とフリッグは小さく返した。雰囲気は完全にそっくりだったのだ。
「何処に向かうんだ?」
フリッグとフレイのやり取りを裂くようにレイスが割り込んだ。
「私の部屋だよ」フレイはにこにこと笑いながら答える。同時に遠く離れた場所にある階段を指した。「あの上だ」
その言葉を聞いた途端、リュミエールとメリッサが走り出した!階段まで一直線、走る走る———。
「アタシが一番っ!」
勝ち気な表情を浮かべたメリッサに直ぐ様リュミエールが反論する。
「負けないもん!!」
どうやらかけっこをしているらしい。
男性陣三人の口許から自然に溜め息が同時に溢れた。それに気付いた彼らは互いに顔を見合せ、苦笑いする。
「追いかける、か」
やれやれといった様子のレイスに二人は頷き、女子二人を追った。
* * *
イルーシヴの口から紫煙が吐き出された。吸っている煙草の吸殻を地面に捨て、靴で踏みつける。ベランダから眺める、帝国首都の風景を何も考えず、ただ眺めていた。
———アースガルドとはえらい違いね。
一般的に言えば″故郷″であるアースガルド王国の風景とニーチェを比較する。閉鎖的なアースガルドとは違って、この国は様々な人種で溢れていた。受け入れ方もえらい違いである。
「君はアースガルドの人間か?」
細く透き通った声に反応し、イルーシヴは振り向いた。自分と正反対の印象を持つ女性が腕を組ながら立っている。紅色の艶やかな髪を静かに揺らし、現れている真紅の瞳がイルーシヴを捉えていた。
「そう、ね。アメジストっていったら、大半がアースガルドだものね」
「王国の人間が珍しいな。鎖国状態であるから、外国に来るものは殆ど居ないと言うのに」スピネル種のリーゼロッテが静かにイルーシヴの隣に着いた。「良い眺めだ」
リーゼロッテの呟きに蒼の女は頷く。———確かに良い眺めだ、異論は無い。
忙しく歩く者はそれぞれだ。緑鋼石の目をした老人、琥珀の瞳の商人が行き交う。蛋白石の様に、目の中に沢山の色が散らばっている瞳の子供が走っている。輝安鉱の様な銀白色の髪を靡かせる女性が腕時計をちらちら見ていた———。
″首都ニーチェ″という場所を見るだけで、世界に存在する人種を全て見れたような気になる。
それ程この地には様々な人種が行き交っているのだ。
「私の出身である共和国も良い眺めなのだが、ここも相当眺めが良い。
様々な民族が、自由に暮らしていそうだ」
頭の中に浮かぶアイゼン共和国と照らし合わせながら静かに自分に語りかけている。
帝国は軍事的には過激であるが、意外にも他種族の受け入れが良い。人口の中心は自らこそが優位と考える、傲慢な種だという印象が強いカーネリア種であるが、それは一部の者であり、大部分が協調性を持つ者たちだ。———国の発展には他種族の受け入れが必要だと考えていたのだろう。
近年では北のネージュも他種族の受け入れを積極的に行っていると聞く。やはり世界はある程度まとまるべきなのだ、とリーゼロッテは勝手に理論を展開させていた。
「そう、ね。長く暮らしてると此処の居心地の方が良くなってくるわ」
そう言ってからイルーシヴは鼻を鳴らし、一人先に中へと戻って行った。