ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Veronica*返信100参照800突破・オリキャラ募集中 ( No.105 )
日時: 2011/01/15 13:54
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 7Qg9ad9R)
参照: 返信数100だと!?

* * *

 フリッグら一行はフレイに案内され、大きな扉の前に立たされた。深い茶の重い扉からは圧迫感を感じさせられる。

「全員中へ入ってくれるかな」

眼鏡越しに微笑むフレイに警戒しつつフリッグは扉を開けようとする。その手をレイスが制した。
「何があるか分からないぞ……!」

「そりゃそーだ」瞬時にノルネンを出し、それをフレイの首に向けたメリッサは言い放つ。「不審者に誘拐、そのまま監禁っつーのも嫌(ヤ)だしね!」

「安心したまえよ、君を縛って監禁☆して何が愉しいんだい。男みたいで色気も何もない君なんかと……」
「ちょ、おまっ……。ここの掲示板が全年齢向けの場所だと自覚しろよ、アブねえよ!」
にやにやと笑うフレイにノルネンが振り下ろされる。咄嗟に避けたフレイの右足を漆黒のリボンが捕えていた。唇を吊り上げて不敵に笑うリュミエールの姿が男の眼球に捉えられた。



 右足を縛られて動きを封じられたフレイの腹部にレイスの腕が当てられ、大きな衝撃がフレイの中に轟く。そのまま体勢を低くしたレイスの左足がフレイの足を振り払った。バランスを崩した男の前にフリッグが見下しながら立った。


「正直に此処で話してもらおうか———!」

フリッグの襟首から舞い出たポチの口内に青白い焔が灯る。———紅蓮の焔の方が熱そうに見えるのだが、実際赤い焔は不完全燃焼であるため、完全燃焼している青白い焔の方が熱いのだそうだ。それを知っているフレイの頬に一筋の汗が流れた。


 だがフレイ=ヴァン=ヴァナヘイムは沈黙を貫いている。それだけでなく、この状況下にも関わらず口元には笑みが零れていた。


「如何やら、簡単には吐いてくれなそうだな」

漆黒の髪を揺らし、変貌したリュミエールが吐き捨てる。レイスは背中の大剣クレイモヤを両手に持ち、いつでも切り捨てられることを思い知らせようとする。


「丁度いい、刀の錆にでもしてやるのが一番だ」
「神器にでも興味があるなら、丁度良いわ。ソレで殺ってやらァ」

立ちはだかった二人のアンバー種は言葉を重ねた。構えた武器は完全にフレイを捉えている。———そんな時だった。




「何してるんですか!止めてください!!!」



と叫ぶような、少年の声がしたのだ。

 振り向けばそこには栗毛のアメジスト種の少年が立っている。まだ子供で、あどけない表情は必死に睨みを効かせていたのだが全く効果が無いようだ。脅しにすらならないだろう。


「誰であるかは分かりませんが、評議員に手を出すとは……国際問題に発展しますよ!
礼儀も知らないなんて———これだからアンバー種は」
少年は特にレイスとメリッサに向かって言った。———十年前に現国王の長男を暗殺したのはアンバー種だという固定された考えがしみついているようで、完全に偏見を持っていた。


「これだからアンバー種は。ってね……」
苛立ちを隠せないメリッサには、呆れた気持ちも含まれていた。やはりこの種とは仲が宜しくない。

 その失礼な発言をした少年にフリッグが歩み寄っていった。何かと思えば、歩み寄ってから軽く少年の頭を叩いたのだ。そしてこう続けた。

「メリッサはそうだけど、レイスはそんな奴じゃない。失礼だ」
「何それ!?」

冗談なのか本気なのか———フリッグの表情からは、その発言は本気に思えた。メリッサは不服そうに眉間に皺を寄せていたが、レイスは対極的に涼しい顔をしている。ポーカーフェイスだからだろうか。


「その様子からして賊ですね!評議員暗殺を企てる」
相変わらず少年は敬語ながらも相手を敵視する姿勢を剥き出しにしている。どこから出したのか、少年の小さな腕がいつのまにか分厚い魔道書を抱えていた!

「賊では無い。貴様そんな事も———………!?」

反論したリュミエールの右頬を何かが掠めた。切れているようで、その辺りが妙にすうすうする。


 ぎらついた目をして睨む少年の、開かれた魔道書からは光が溢れていた。開いているページに左手をかざす。

「今度は外しませんっ………!」
「だから!!」

フリッグが怒号をあげるがそんなもの少年にとっては関係ない。魔道書が紅く灯り始めた。


———火焔系最強呪文、<破壊神の熱光線レーザー・オブ・シヴァ>か。まだ十歳という年齢に関わらず、素晴らしいね……。

その様子を澄ました表情でフレイは見つめている。

 破壊神の熱光線レーザー・オブ・シヴァ。火焔系最強呪文の名を冠すと同時に″禁呪″というカテゴリに分類される。発動自体が大変危険であり、習得にはそれぞれ該当する禁書を読む必要性があるのだ。

少年が手に持つ書物———天命の書版。

禁書であり、神器でもあるこの書物は″最強の書物″とも呼ばれ、ある一つの呪文を除いては全ての呪文を使用することが出来る代物だ。しかし、やはりそれだけの物であるため、使用するには相当な力量スキルを要する。今までの歴史の中、使えた人間も指折り程度だ。


 だがこの少年———フォルセティはまだ十歳という年ながらも使用することが出来る。云十年という歳月を習得に要する魔法でさえ、彼は数ヶ月———いや、数週間でマスターしてしまうのだ。

物心ついた頃には既に魔道書を読み漁れるような場所に居たからか?いや、それだけでは無いだろう。彼には天性の才能があるのだ。

フレイが彼を連れてきた理由はそれでもあるのだから。


「レーザー・オブっ———ッゥ!?」
魔法を発動させようとした小柄な躰は突然何かに弾かれた。フリッグが右掌をフォルセティに向けている。そこから音を操って、彼を弾き飛ばしたのだった。

「———話聞けって」
続けて指揮棒を振るかのようにフリッグは激しく両手を動かす。

フリッグに加勢し、残った白のリボンを握り締めたリュミエールがフォルセティ向かって走る。



ぱんっ!


 魔道書を持つフォルセティと、フリッグ・リュミエールとの間合いが詰められた瞬間、乾いた銃声がその間に放たれた。

 白煙を宙にうねらせた銀の砲が真っ直ぐに三人の間合いを向いている。銃の奥には、フリッグが良く知り、そして鼻フックをすべき対象の男が立っていた———。




<Oz.7: Engulf-風に櫛(くしけず)り雨に沐(かみあら)う- -Fin->