ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Veronica*返信100参照900突破・オリキャラ募集中 ( No.114 )
日時: 2011/01/17 21:52
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 7Qg9ad9R)
参照: ヽ(*´∀`*)ノ

* * *


 集められた人々が評議員フレイの部屋に全員集合した。ぎこちない雰囲気の中、フリッグは妙にそわそわしている。大円のテーブルを囲むように座らされ、まるで中華料理店で親戚一同が食事会をするような感じである。ただその様子と違く感じるのはのは、空気がピリピリとしている気がするからだろう。


「リュミ君、遺跡で手に入れたものを見せてくれないかい?」

 あまりにも突然話しかけられたのでリュミエールは怯えたように躰を震わせた。不安を隠せない黒真珠を恐る恐る目の前に座るアゲートの男に向ける。男はそっと微笑みを向けた。

「………ん」
リュミエールはこくりと頷き、ポケットに突っ込んでいたものを取り出す。

紐を見せるように出された右手をまじまじとフレイは見た。エンジェルオーラの子は怖いようで、無意識に左隣に座るフリッグの服の裾をしっかと掴んでいる。


「神器、枷紐グレイプニルですね」フレイの右隣に座っているフォルセティが説明口調になった。「古代に存在した怪物フェンリルを封じるだけに作られたという」

「そう、か」
もう下げていいよ、とフレイは優しくリュミエールに言った。彼女は静かに神器をポケットに戻す。


 フリッグは取り合えず、その場に集まっている人間の確認をした。

左目を軽く隠した紅の長髪を持つ女性がリーゼロッテ・ルーデンドルフ、銀狼の頭を持った巨漢がビスマルク、蒼髪の軍人がイルーシヴ、栗毛のアメジスト種がフォルセティ、そして自分を此処に連れてきたのが評議員フレイ=ヴァン=ヴァナヘイム。

 自己紹介はそれぞれの個性が出ていたので、大体どんな性格か分かった。端的に話すものも居れば、長々と入らない情報を語るもの、名前と種族しか話さないものと様々だ。


「私が君たちを集めたのには理由があってね。
禁呪、殲滅呪文ジェノサイド・スペルの阻止に協力願いたい」
眼鏡を光らせ、喋る姿は放蕩ぶりを露にしていた男とは真逆だった。


———ジェノ……?

何故だろうか、フリッグには聞き覚えのあるような気がする言葉に感じた。


「それに協力させるために俺たちを呼んだ、と?」
抑揚の無い落ち着いた言葉でレイスは訊ねる。

「ちょ、何、何ソレ!?そのジュラシック・スッポンて」
「………ジェノサイド・スペル」
状況を掴めていない為、焦りを隠せないメリッサの間違った言葉にウェスウィウスが然り気無く修正する。


「禁呪、だな」自己紹介以来全く発声どころか口さえ開かなかったリーゼロッテの口から細いながらも芯の通った声が出される。「全人類を滅ぼす、最凶の呪文か」

「使える人間が居たのか?」
答えを求めるかのように、レイスがフレイに目線を向ける。


 その問いに答えたのはフレイでなく、フォルセティだった。
「居ます。———その禁呪の考案者であるファウストというジェイド種の男が」

答えを聞いて、
「ファウストっつたら、千年前の魔導師じゃねえか!!」
と声を荒げたビスマルクにフォルセティはこくりと頷く。




 "ファウスト"という名前を聞いた瞬間、フリッグの脳裏にまたあの日の光景が浮かび上がってきた。



『我ら翡翠の種が———!』




 あの男はファウストと言うのだろうか。なら、フレイのいう殲滅呪文によって人類を滅ぼし、翡翠ジェイド種を復活させようと目論んでいるのだろうか……?

 なら、何故ウェロニカが——————!?


———頭がぐるぐるする。

フリッグは何が何だか分からなくなってきていた。千年前に滅んだはずのジェイド種……その特徴に当てはまる自分。頭の中に現れたあの男とジェームズの発言。そして、マックールで殺りあった女ヘルがフリッグに言った名前。

 "フリッグ=サ・ガ=マーリン"。

明らか自分を指していた。遺跡にあった名前はフリッグ=サ・ガ=マーリンだったのでは!?じゃあ、あの男は———?


       僕………?


自分を見失う!何処だ、出てこいッッ!!僕はフリッグだ!拾われっ子の、ただそれだけのッ!少しばかり人と変わっているだけなんだ!!!!普通の十六歳の糞餓鬼だッッッッ———

———"普通の人"って何だ?
———普通って何だ?
———人と変わってるって?
———何が変わってる?何が普通なんだ?


 フリッグの頭が混沌に蝕まれてゆく。彼の躰が小刻みに震え始めた。痙攣してる様子に気付いたメリッサが肩をたたく。その衝撃でフリッグの意識が現実に戻ってきた。



「メル?あ、ごめん。ちょっとぼうっとしてた」

唇が青い。いや、顔色が青白くなっている。妙に汗までかいている様子を、メリッサは疑り深く見た。何かあったことは確かであるが、訊いても恐らく返答してくれないだろう。


「大丈夫?って訊いてもどうせ大丈夫って答えるから意味ないか。取り敢えず、水でも一杯飲んどきなよ」
そういってメリッサはフリッグの近くに置いてあった硝子のコップに水を注ぎ、無理矢理彼に渡す。フリッグは取り敢えず口を付けた。冷たい感触が口内に広がる。


———大丈夫って訊いてもどうせ大丈夫って答える……か。

心の中でメリッサの言葉を繰り返して笑う。その笑いは自分に向けた、嘲笑だった。彼女の言っていることは、本当に良いところを突いている。大丈夫かと訊ねられればついつい大丈夫だと虚勢を張って答えてしまうのだから。




* * *

 フリッグが一人考えにふけっている中、話し合いは止まることなく進行していた。話し合いについていけて無かったフリッグにメリッサはちょくちょく耳打ちして、状況を説明する。


「現時点で分かっていることは次の通り」

何処から出したのか不明な、大きなホワイトボードにフレイが黒の水性ペンで文字を書いてゆく。流石評議員と言ったところか、字が綺麗だ。


「殲滅呪文(ジェノサイド・スペル)発動には、巫女———ジェイド種の使ってたヴィエント語で"ヴォルヴァ"が必要不可欠……。
それと、各種族の数多の命で作られる宝珠……」
フレイの書いた文を追うようにイルーシヴは読んだ。



「巫女?現在に居ない存在を一体どうやるんだよ」
アンバー種の少女が苛立った口調で言う。その言葉は誰にも向けられてない。
「確かに。千年前の人間など、無茶だろう」
右手を唇に押し当て、レイスは唸りながら呟く。一応メリッサの言葉にこたえているつもりのようだが、彼女どころか誰一人として気付いていないようだ。



 瑪瑙の瞳が卑しい光を秘めて、フリッグを見た。視線に気づき、顔を上げる。フレイが笑顔を向けている。だが、彼の唇は歪んでいた。背中に汗が一筋、つぅっと流れる。




———嫌(ヤ)な予感がする。


目を逸らしたくても逸らせない。奴の視線が自分に何か圧力を与えているようだ。



 フレイの歪んだ口が言葉を紡ぎ始めた。フリッグの耳は、周囲よりも半分ほど遅いスピードで言葉を捉えていた。



「君が一番分かっているんじゃないかい?
———千年前に生き、現代に復活した大魔導師フリッグ=サ・ガ=マーリン」


"嫌(ヤ)な予感"は的中した。



次の言葉でフリッグの世界が全て絶対零度にまで達した。


「君は恋人の巫女クリュムの死が信じられなくて、現代に彼女を転生させた。

そう、ウェロニカ・フェーリア・アリアスクロスとして」