ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Veronica*返信100参照1000突破・オリ募集中 ( No.119 )
日時: 2011/01/20 22:03
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 7Qg9ad9R)
参照: ヽ(*´∀`*)ノ

* * * 


———僕がウェルを………?


 彼女を巻き込んだ直接の原因が自分。自分が彼女を巻き込んだ。何を考えてやったのか分からない、でもこの男の話を聞く限りは、"僕"がやった、"僕"が巻き込んだ。


——— 一体、お前は何をしたかったんだ?
フリッグは脳裏で姿を霞めている男に訪ねた。恐らく自分———昔の、"僕"。

 この前は話しかけてきたこの男は、何故か今回に限って喋るどころか口すら開けてくれない。いつまでも、いつまでも微笑を浮かべて此方を見つめているのだ。不愉快、とフリッグは吐き捨てた。


 男と自分。二人向き合うだけの世界だけが孤立する。周囲の景色が凍りついてゆく。しかし、体感温度は変わらず、"寒い"という感覚が無い。

 二人は互いに向き合い、———男は微笑を浮かべ、少年は眉間に皺を寄せている。


———問いに、答えてくれよ。

フリッグはそう呟いてみせた。だが男は相変わらず微笑んでいる。その微笑に何かを感じとる。それに気付いた途端、躰が急激に冷やされた!体温が何かに奪われてゆく、寒い、寒い!

誰か僕に温もりを!!無意識に躰が願う、欲する、期待する!その凍てつく様な寒さは躰を蝕み、進みゆく。侵攻を止めることなど、不可!体温が奪われ、まるで死人の様な感覚に陥った———死んだことなど記憶に無いが。


 そんな凍りつくフリッグの肩が、突然温もりを感じ取った。———ウェスウィウスだ。何も言わず、肩に手を置いている。養父母の温もりを思い出させる。

 凍った世界は溶けてゆき、それに紛れて男も消えた。———まだ微笑を浮かべながら。
 安心し、現実に戻ったフリッグの、感度の良い耳がメリッサの言葉を感じ取った。

「どゆこと」メリッサの声が小刻みに震えていた。「どーゆーこと!!!?」

身を乗り出し、勢いよくフレイの襟首に掴みかかる。男は平然と、いや軽く、怒りに満ちたアンバー種の女を嘲笑するように見下している。

「記憶が無いなら仕方無い。いずれ戻るだろうから、それまでは何も言えないさ。
だが、この少年が大魔導師ということに変わりは無いだろうね」

あの道化の様な物言いではなかった。冷徹に物事を貫く、冷たい鋭利な刃物の様だ。
道化を纏っていた顔には、そんなものなど何一つ残っていない———まるで別人の様だ。


「———そんなこと言うための場じゃ無い筈です。えと、その、話を続けてください」

険悪となった空気を排除しようと思ったフォルセティが出来るだけ鋭い視線をフレイに向けて言い放った。

眼鏡を押し当て、フレイは一同を見回す。全員の顔を確認し、自分への承認である行動として、軽く頷いた。そして言う。


「ウェス君とフリッグ君はスノウィンに帰郷するそうだから丁度良いと思ってね」

フレイの言葉を聞いてフリッグはウェスウィウスに睨みを利かせながら「聞いてない」と低い声で言った。すまん、と言うようにウェスウィウスが手を顔前で合わせ、頭を軽く下げた。

「スノウィンには神器があるんだよ。最近ではその付近の様子がおかしいしね……。
フォルセティと、運命聖杖ノルネンを持つメリッサ君を連れて四人で行ってくれ」

「———は?」
イルーシヴは思わず、そう発声してしまった。喧嘩腰になりかかっている彼女を静かにリーゼロッテが制す。
「落ち着け」

「一体どういうことだ?」
レイスも無意識に身を乗り出していた。フレイの顔には再び笑みが戻ってきている。

「知ってるかは知らないけれどね。ファウストに対抗するには、少なからず神器が必要となる。だが、そんな物何処にあるか分からない———しかしね」一呼吸置く。視線が一気に集まる。「天命の書版があれば別さ」

「———神器の場所が分かるから、か」
ビスマルクの呟きにフレイはウインクで返す。「正解」ということらしい。


「丁度良いのさ。
何より此処に揃えた面子は神器やファウストに関係の深い人たちだからね。
———明日、フリッグ君たちは飛行機でネージュの首都シュネーに向かって其処からスノウィンへ行って欲しい。勿論旅費は此方で請け負うさ。
君たち四人には、各地で神器の回収にあたって貰おう」

フレイの言葉が終わってすぐにフリッグ、メリッサ、フォルセティ、ウェスウィウスは同時に顔を合わせた。不安げに顔を青ざめるフォルセティと、面倒臭そうなフリッグ。だがウェスウィウスとメリッサは早くも意気投合し、二人駄弁っている。

「———残りは?」
リーゼロッテが訊ねる。

「残ったリーゼちゃ……リーゼロッテ君とビスマルク殿は私のサポートにあたって貰いたい。共和国の有力政治家が身内に居るからね。
イルーシヴ殿には影で手伝って貰うとして………。
問題は君たちだな、レイス君、リュミエール君」
「———ああ」
名指しされたレイスは小さく頷いた。

「そんなの、アタシらと一緒にスノウィン行けば良いんじゃないの!?」
「そ、そうだよ。それにリュミは戦えるよ、全然足手まといじゃないよ!レイスだって強いし、………皆一緒だったから離れたくないもん!!」
涙を含んだ黒の目が真摯にフレイを見た。が、男は容赦無く切り捨てる。

「———駄目だ」
「どうして………!?」

悲鳴にも近い声だった。 青ざめるリュミエールとは対照的にレイスは平然を装っている。だが、きっと心の中では動揺しているのだろう———仲間と信じたものと別れることに。


「君は故郷を滅ぼされた、それに子供だ。帰る家は有るのかい?」

フレイの冷たい問いかけに、黒の硝子玉が視線を床に落とす。
「——————ない」
涙ぐんだ言葉がぽつり、と発せられる。
「だろう?」男の声色は完全にこの少女を見下しているようだった。当たり前の回答に、彼は何とも思っていない。「なら、駄目さ」


「子供だから?子供だからか?」

その光景が頭にきたフリッグが声を張り上げる。冷静を保っている顔には怒りがちらほら映っていた。隠しきれない怒りを必死に抑えているようだ。


「———フォルセティっていう子供は何なんだよ!!」
フリッグの言いたかった言葉をメリッサが奪う。そして怒鳴る。怒号が起こした突風にフレイの髪が、服が少し揺れた。

「人数は多すぎても少なすぎても困るだろう?四人くらいがちょうどいいのさ。
それに、家を失ったリュミエール君の面倒は誰が見る」
「……それ、は」
メリッサの口が言葉を失う。


静寂が流れ込み始めた。それを破るように、レイスが立ち上がる。真っ直ぐな琥珀の眼を向け、フレイに言い放った。———まるで焔(ひ)が灯っているように、真っ直ぐな、燃えるような———。


「分かった、俺が責任を持ってリュミエールを届けよう」

「アテあるの!?」レイスの言葉にすかさずフリッグが反応した。「レイスだって、ホラ……旅人なんだろ?!」
「ああ」黒髪を揺らし、こくりと頷く。「だがアテはあるんだ」


フリッグはその言葉を信じた。だが同時に信じたくなくなる気持ちも込み上げてきた。俯く。———彼らにアテが無ければ、一緒に行けるのに。そう思って仕方ない。


「決まり、だな」
紅の髪の女リーゼロッテが呟く。フレイはその言葉に頷いた。



「さて、解散としようか」



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