ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Veronica*返信100参照1000突破・オリ募集中 ( No.128 )
日時: 2011/01/24 18:54
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 7Qg9ad9R)
参照: 祖に会えば祖を殺せ。期末に会ったら逃げよwこれが朔の唱える無一物(ry



 深い蒼の静寂が広がりゆく。暗くて、怖くて、無性に人の温もりが欲しくなる。

「し、しょお…………」

本の守護者、という言葉が似合う老人の顔が脳裏に映される。禿げた頭と、深く多くの皺が刻まれた老人の顔だ。色褪せた鴬色の服を着て、本を抱えている姿である。

「師匠————」
恋しく感じたのだろうか?何度もフォルセティは"師匠"と呼んでいる。何もない静寂のサイレント・ナイトに彼の声が静かにこだましている。


「セティ?」

フォルセティの声に気付いたリュミエールが、眠そうな目を擦りながら彼の渾名を呼んだ。同室なのに敬語やさん付けで呼び合うのは止めようというリュミエールの提案からである。互いにリュミ、セティと呼ぶことにしたのだ。

 リュミエールの呼ぶ声にフォルセティの意識が現実に現れた。夢の世界から戻ってきたのだ。

心配そうに顔を除き込むリュミエールに動揺を隠しながら平然を装った。

「えっ、あ、ボク何か言ってました?寝言ですよ、寝言っ」
「嘘だぁ。リュミ聞いたもの。セティが、『師匠、師匠』って唸ってるの」
唇を尖らせるリュミエールをフォルセティは必死に宥める。だが、彼女は相変わらず不機嫌な顔のままだ。


「———リュミは、家族死んじゃったんだよね」

もしかしたら、相談に乗ってくれるのかもと期待を込めて少年は訪ねた。それが彼女の心の傷を掘り起こすことを知りながら。

「………………うん」目を床に落として七歳の娘は頷く。「セティは?イルーシヴって人がお母さん?」

フォルセティは静かに首を横に振った。
「イルーシヴやウェスは小さい頃から面倒見てくれてる人。
ボクは本当の家族が居ないよ。物心ついた頃からずっと禁書図書館に居るから、そこの館長が、親みたいなもの」
「そっかぁ。リュミも似た感じだよ。お父さんお母さん死んじゃったから、じーじの所にいたもん。
でも、あのヘルって人に皆殺されちゃった」

互いに似た境遇を感じとる。理解してもらえるかも、という少年の思いは一層増していった。

「あのアンバー種の人たち、どう思う?」
彼の質問にリュミエールは目をぱちくりさせた。

「メルお姉ちゃんもレイスも優しいから、大好きだよ」

何一つ濁りの無い澄んだ水の様に、一点の汚れも無い無垢、満面の笑みを浮かべている姿にフォルセティは躊躇った。


———ボクは、そう思わないんだ。

「———そっか。そだね」
自分の思いと正反対の言葉が口から出た。建前と本心は逆、本当にその通りだと言葉を出してからフォルセティは思った。

「んっ……!」
何も偽りの無い、本当の笑みでリュミエールは大きく頷いた。



 時間は既に丑三つ時を過ぎていた。

 まずリュミエールが大きく欠伸をし、最早瞼が閉じてしまっている顔をフォルセティに向けて、彼が"理解出来る範疇"ギリギリの言葉を喋った。

「リュミ、もほ、ねふね………おはふひ」

最後はまるでフェードアウトしていくように言葉を切らせ、彼女は眠りについた。


「うん。おやすみ」
すやすやと眠りについた彼女の顔を微笑みながら見守ってから、彼も眠りについた。



<Oz.9:Nighter-眠れない夜に->


『愛してるわ』

翡翠の目を向け、可愛らしい仕草の"貴女"は言った。


『僕も——————』

アイシテル。


 歯止めが効かなくなった感情は溢れ出す。

———貴女の柔肌から感じる温もりは、どうしてこう温かいのか。

細い体躯を抱き締めた。強く抱けば、きっと壊れてしまうくらい細くて脆そうな女体。


 ぬるっ——————。

 嫌な感触が掌に広がった。

"貴女"を抱き締めていた感覚が消え去っている。代わりに滑ったモノが、広がってゆく———。


 眼前に倒れている人間を確認した。

 "僕"は恐る恐る歩み寄る。血の滴る黄土色の髪が徐々に白金に変わっていく。相変わらず血が溢れている、が。

『————え』
倒れている躰を持ち上げ、顔を確認した"僕"は思わず声を漏らした。どうして、どうして君が……!?

 蒼い二つの宝石に、白金の髪———

ウ ェ ロ ニ カ………?


 呆然とする"僕"の頬に手が当てられた。

 目の前のウェロニカが口から赤黒い液体を吐き出しながら、起き上がって"僕"を押し倒す。目元は黒く、影になっていて見えない。


『助けてくれなかったの?』
『———やめろ』

ウェロニカの細く通った声。その言葉は"僕"の躰を貫いた。

『どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして。
愛してるんじゃ無かったの』

彼女の腕が"僕"の首に回る。絞める手には段々と力が込められてゆく。苦しい、視界が霞む。

『———っあ、ウ、ェル———?』

女の口許が歪む。それから歪んだ言葉が溢れてきた。

『アイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテル—————!!!』

"アイシテル"という単語が出る度に、絞める力が増してゆく。



 苦しみの中、どうにかしようと"僕"は力一杯に彼女を突き飛ばした!精一杯の"足掻き"だった。

 ドサリ、とウェロニカの躰が飛ばされて落ちる。"僕"は呼吸を整えた。それでもまだ荒い呼吸が続いている。


『っ————はぁッッ、はっ、あが……』
呼吸する度に胸が痛んでゆく。駄目だ、これでは。———"僕"は混乱している!



 突然、突き飛ばされたウェロニカの肉体が焦土と化したッッ!その光景に"僕"は茫然自失に陥る。


 周囲が赤々と燃え盛ってる。景色はいつの間にか一変しているのだ。"僕"には何故か見覚えがあった。周囲に人らしい人は誰一人として居ない。あるのは瓦礫と死体だけである。ふと、足元にある瓦礫の中から人影が見えた。


 銀髪の紅い瞳の少年だ。その少年に"僕"は見覚えがあった———。


『お前が家族を』

少年の口から憎悪にまみれた言葉が発される。それは確実に"僕"を射ていた。少年の言葉に続いて、"僕"の周りから自分に向けられる言葉があふれだしてきた。


『アイシテル』
『如何して、タスケテクレナカッタノ』
『お前が家族ヲ』
『愛して』
『助けて』
『返して』
『何で』
『裏切り者』
『ツミビトが』
『生キる価値モ無いのニサ』


『アイシテナイノ』
『ダイテクレタノニ』
『ワスレテシマッタノ』
『コノウラギリモノ』
『キサマニハカセラレタザイカハソレダ』


『シンデシマエ』

『シンデシマエッッッ!!!』


『シネ、シネシネシネッッ!!!』


それは"僕"の精神を蝕んでゆく!


    止めろ、

        止めてくれ、

               ヤメテクレ—————————………





* * *



「ッ—————っはぁ、あっ、はああッッッ……!!!」

 汗が体中に染み込んでいた。真っ青な顔のフリッグはベッドから飛び起きた。呼吸が荒い、脈が速い。———何を見たかは覚えてないが、酷く目覚めの悪い夢を見たようだ。


 枕元で眠るポチは彼の様子など無関係だというようにぐっすりと熟睡している様子であった。再びフリッグは床に戻ってみるのだが、どうも眠れない。いや、眠りが何かに妨げられる、と言った表現の方が正しいようだ。彼が眠りにつこうとすると、心の底から何かが込み上げて来て彼を眠りから排除しようとする。



『眠れないときはね、夜風にあたるの。気持ちいいんだよ』


小さい頃、ウェロニカに眠れないと言った時に返ってきた返答が頭の中に再生された。


———そっか、風にあたってくれば良いのか。




思い立ったフリッグは膝かけを手に下げ、一人静かに部屋を出て行った。


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