ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Veronica*返信100参照1000突破・オリ募集中 ( No.131 )
- 日時: 2011/01/28 21:54
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 7Qg9ad9R)
- 参照: 祖に会えば祖を殺せ。期末に会ったら逃げよwこれが朔の唱える無一物(ry
* * *
レイス・レイヴェントは夜風に当たっていた。屋上に寝転がり、星空を眺める。コンクリートの床の、冷たかった感触は彼の体温に暖められて、今は"温い"という感じだ。
今夜は風がない。寒空、という訳でも無いのだ。だからといって暑い夜でもない。程好い暖かさを感じる、眠りに就きそうな暖かさなのだ。
———星が綺麗だ。
ふっと吹いた、生暖かい風にレイスの青みがかった髪の毛が揺られる。その風はさやさやと草木の葉を揺らして走り去っていく。漆黒の空には点々と煌めくモノが見える。星月夜を見つめ、一人思い耽った。
思考に耽っていたレイスは、ふと屋上への扉が開くのを感じた。ギイイ、という決して円滑に開くのではない、扉の音を聞き取った。
「———なんだ、先客アリか……」
扉の影から金髪がヒョコリと姿を現す。翡翠の目を此方に向けたフリッグが居た。彼の皮肉った言葉にレイスは静かに頷いた。
「寝れないのか?」
「てか、起きた。二度寝出来なくなってさ……。夜風に当たればどうにか寝れるかと思って」
そう言ってフリッグはレイスの隣に座り込んだ。———また風が吹いた。
「————あ、のさ」
「自分について、か?」
フリッグの言葉を遮るようにレイスが先に喋った。フリッグの言いたかった言葉を先に言ったのは、彼が喋る度に傷付くのでは無いかということを考慮したからである。
「………うん」
普段は皮肉っていて、冷めていて———そんな少年は、今は酷く弱く見えて仕方ない小さな存在になっていた。
昔のことを話した方が良いのだろうか———そう思ったのだが、やめた。自分の"英雄"はフリッグに酷似していたが、本人かどうかも分からない。
「自分が何者か、なんて考えたこと無かったからさ」フリッグは掌を空に透かしてみた。勿論、彼の掌が空からの光に透けて見えはしなかったが。「種族とか、生まれとか。全く気にかけてなかった。———ウェルが死ぬまでは」
「………………」
レイスは黙り込む。彼の幼馴染み、ウェロニカ。そして、"過去のフリッグ"が愛した女の生まれ変わり。
「死んで、連れ拐われて。"オジサン"が言ってた、翡翠の種って奴が僕なのかって考えはじめて。そしたら案の定、ジェイド種で。
しかも、昔の大魔導師、なんて言うんだからもう訳が分からないよ」
自嘲気味た笑みを浮かべ、彼は右手で自分の髪をくしゃりと握った。声色は徐々に涙声に近いものになっている。
「………………」
言葉が出なかった。ただ、彼の話を聞くしかなかった。
目に涙が浮かんできたので、フリッグは手で目を押さえた。見えないように、見えないように……。それでも喋る。吐き出したかったのだ。
「多分、昔の僕はジェームズ・ノットマンと関係がある。浮かんだんだ、あの時。僕がアソコを滅ぼした、張本人で。
それだけじゃない!ウェルがああなった理由は全部僕にあって———!!」フリッグの話し方は速度を増してゆく。「全部、全部全部全部僕が原因で繋がってた!!僕は、敵なんだよ、きっと———いや絶対!!!」
嗚咽混じりの言い様にレイスは困惑した。見てられなかった。だからか、勝手に彼の口元から言葉が勝手に溢れた。
「俺には、英雄が居る」
「ひで、お?」
こんな状況下、少しおどけてフリッグは"英雄"を人名読みした"ひでお"と言ってみた。普段はポーカーフェイスの彼だがこの時ばかりは流石に突っ込みを入れた。右手で軽くフリッグの頭を叩く。
「小さい頃、家族も名前も消えた日があった」
「———うん?」
曖昧すぎる比喩表現でフリッグは半分程度しか言っていることが理解出来なかったが、ぼんやりとなにを言ってるかは分かった。
「俺に名前と居場所を探してくれた人間が居た。
萌黄色のくすんだローブを纏って、後ろで三つ編みにした橙色混じりの金髪を揺らした、翡翠の目をした男だ。まるでお前そっくりの」
フリッグは俯いた。彼の脳は、"また昔の自分がやった"ということを勝手に形作っている。それに構わずレイスは続けた。
「俺を抱き上げて、名前をくれた。それから俺を孤児院に預けてくれた」
「————ふうん」
「お前がそいつと同一人物であってもなくても、俺はその男をそこまで悪い奴とは思っていない」
「………」
レイスはそっと微笑を浮かべ、その顔をフリッグに見せた。
「お前が何だろうと、俺はフリッグの味方だからな」
「———うん」
彼からの信頼しかと受け止めたフリッグは寝転がった。———星が瞬いている。空を見上げ、瞼を閉じる。風が哭いている———。
————たは?———しは——アーって———んで。
閉じたフリッグの瞼に人影が見えた。柔らかな、透き通った女の声———まだ女性というには若すぎる感じだ———は所々雑音に妨げられてフリッグの耳をもってでも聞き取れない。
———愛——てる———ッグ。———好き————な、私———する———。
黄土色のきらきらした流れが見えた。見覚えがあるような、無いような———よく分からない感覚だ。
そんな通った女の声がパタリと止んだ。かと思えば、今度は何か違う声が聞こえる。声、と言うよりも咆哮の様な、声とは言えない気がする何かだ。しゃがれた老婆の声にしては妙に男らしい。性別不明な音だ。
———れたか。
その"声"は自分が出てきた、屋上へ出る戸から聞こえていた。ハッと起き上がり、瞬時に立ち上がった。突然立ち上がったフリッグに驚いたレイスは、眉を微動させた。
「どうした?」
「声が」一歩一歩慎重にフリッグは戸に近付いていった。ドアノブに手をやる。ひんやりと冷たい感触が掌に伝わる。それはノブの感触だけではなかろう———少しばかり恐怖が混じっているようだ。「聞こえた」
レイスの応答を待つより先にフリッグはノブを回して鉄の扉を開いた!暗闇の中に光る赤い二つの点を捕捉する。月明かりに照らされ、それの正体が現れてきた。
フリッグの頭程度のサイズの翼竜がそこでパタパタと翼を羽ばたかせて停滞していた。———ポチだ。取り合えず、得体もしれないものではなかったのでフリッグは安堵した。———だが。
『一体貴様は何を呆けているのだ。フリッグよ』
あのしゃがれた女声はまだ聞こえている。嫌な予感がした!フリッグの眼前から聞こえる、いや、それは確かに———。
「おいポチ………お前喋れたっけ?」
確かにポチから発せられているものだった。よくよく見れば竜の口が動く度に女声が耳に入ってくる。フリッグの頬を一筋の汗が伝った。
「ポチ?
フリッグ、どうし………————ッッゥ!!!??」
少年に駆け寄ろうとした青年の躰が何かに弾かれて飛ぶ!躰は止まる勢いを見せない。屋上のフェンスを突き破り、彼の躰は落ちかけた。だがレイスは反射的に突き破ったフェンスを握りしめ、それを壁にさして、取り合えず宙ぶらりんの状態になった。
吹き飛んでいったレイスを見てフリッグは呆然と立ち尽くす。目の前の子竜は紅い目をぱちくりさせているだけだ。何があったか全く理解からなかった
『フリッグ、貴様は何もかも忘れたか』
再度ポチの口から言葉が紡がれた。
「忘れた?何をさ」少年の声が僅かに震動している。「お前こそ、何?喋れたワケ」
その台詞を聞いたポチの躰が小刻みに震え、閃光を放った!眩しさに目を瞑った少年の体躯が吹き飛ばされる!が、彼は咄嗟に絶対音感を使って周囲の音を聞き取り、それで"見えない網"を作り上げた。垂直に張られた網は彼の躰を受け取る。
『千年振りだ、フリッグ!!私は貴様を忘れかけていたのだがな!!思い出したさ。
貴様は"約束"を破った!』
剥き出された牙と爪は月明かりに照らされて鋭く光っている。巨大な深緑の体躯は、大きな翼によって空へ上がり、人間を見下している。
「反抗期、か」
呆れたように吐き出したが内心は焦りに満たされていた。空に君臨する竜を見上げながらフリッグは、また靄のかかった世界で笑っている男に訊ねた。
———昔の僕、お前はなんて面倒なことしてくれてたんだよ!
<Oz.9:Nighter-眠れない夜に- -Fin->