ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Veronica*返信100参照1000突破・オリ募集中 ( No.133 )
日時: 2011/01/29 11:28
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 7Qg9ad9R)
参照: 祖に会えば祖を殺せ。期末に会ったら逃げよwこれが朔の唱える無一物(ry

 母は子を亡くし、孫を亡くし
 母の一族皆殺し
 残された母は怒り狂い
 柔らかな体躯は鱗に被われた
 竜となりし母は
 怒り狂い
 みんなみんな殺していった

 それでも母の怒りは止まず
 まだまだ殺し足りないと
 みんなみんな殺していった

 その母は悟った
 人は皆、心に竜を持つのだと
 竜は魂に宿るのだと
 
 怒りに満ちし君よ、
 その魂の竜を解き放て!
(碑文エッダ、創世記第一章"Tiamat"より)


『哀しみに囚われる貴女を見ているのは、哀しいです』
『哀しみ?何を言うか若造。私には憎悪しか無いのだよ』
翡翠の目をした男は、哀れむような目で言った。だから"私"は男に言い放ってやった。が、男は目をを細めて私に言った。目は哀しみに被われていた。


『いえ、"哀しみ"です』



<Oz.10:Howling-母と息子(Frigg)、忘れ路->


 ゴゥン!

 地震でも起こったかのように、建物が大きく震える。轟音と共にやって来た震動に目を覚ましたバレットは急いでベットから飛び起きた。———これは尋常では無い事態だ!

「———っまた此処ウチか!」

妻を起こし、彼女を支えながら部屋から出てきたバレットは叫んでいた。バジリスクに滅茶苦茶にされたことは、そう昔ではない。

 隣の部屋から出てきたコレットが夫婦に合流した。アイゼンヴァンク一家はその場に集った。

「俺は客人を連れていくから、お前達は先に外に出ていてくれ!!」
喋り終わるより先に彼は走り出した。残った二人は一階の玄関に向かうため、階段を駆け降りてゆく。

 が、階段を駆け降りる途中、再び轟音がし、天井が崩れ落ちてきた。巨大なコンクリートの塊が二人の頭上に向かって落ちてくる。"逃げる"というまで、脳の指令が行き渡りそうにない。ただ目が塊を捉えて、"危険だ、死ぬかもしれない"と認識するので精一杯だ。

不思議なもので、こういうときに限って時間の流れは遅くなったように感じるのだ。スローモーションというやつだ。だが自分の躰も遅くなっているようで———もしかしたら脳味噌が感じている時間は、通常よりも一.五倍速で捉えているのかもしれない———脳が感じても躰が動かないというのが現実であった。

 コレットの目は静かに落ちてくる塊を捉えていた。音も消えた、静寂な世界。握りしめている、しわくちゃの母の手の温もりも感じない。嗚呼、死の瞬間とはこういうものかと彼女は悟った。


「"大地母神之掩護(ガイア=シールド)"ッッッ!!」


まだまだ未熟な声帯から出される若い声は叫ぶように言葉を発した。発した言葉に反応したかのように、コレットと母コナーズの足元が隆起し、彼女らを覆うように形を変えた。まるで盾のようにそれは落ちてくる瓦礫を弾き、女性を護る。———大地系第五階位、最強を誇る程の防御力を持つ大地母神之掩護(ガイア=シールド)だ。

「大丈夫ですか?」
光輝く書物を抱えて二人にひょこりと顔を出したのは、栗毛のアメジスト種———フォルセティだった。彼もまた白髪の子の手を握っている。

「———はいっ」
コナーズはコクリと頷いた。声は妙に音を外している。
「良かったです」
フォルセティはそう言って二人を誘う。四人円になるように立たせると、書物を開き、右手を翳した。蒼白い光が彼らを包み込む。が、それは直ぐに消えた。

「今のは?」
思わずコレットは少年に訊ねた。彼はにこにこしながら答える。
「流水系第一階位呪文"守霤驟雨マクシューヴァ"です。
外部からの攻撃を自動的に弾き飛ばしてくれる呪文なんですけど、第一階位の呪文なので……そんなに長い時間効果が続かないやつですから、早く行きましょう」
淡々と説明をされたが、魔法に関して殆ど初心者の彼女は全く理解できなかった。
「………えっと?」
頭上にハテナを浮かべるコレットに仕方なくフォルセティは一から説明した。勿論逃げながらである。

「貴女方———というか、恐らく読み手の方々も分からないと思うのでここで説明しておきます。

魔法とは、言葉を唱えることによって発動されるものです。唱える言葉を"呪文"と言います。一般に魔法と呪文は同じものとして扱われているので、どちらを使っても同じですが。

魔法は全ての人が、最初から使える素質を持っていますが、だからといって皆が皆使える訳でもないんです。自分で瞑想などをしていると弱い呪文から頭の中に浮かび上がってくることがあります。それを地道に自分でを唱え、意味や効果を吟味することで始めて修得できるんです。

そして、それはがむしゃらに最初から強いものを覚えることが出来ません。まず一番弱い第一階位の魔法を覚え、それを使っていくうちにその上の第二階位、第三階位と自然に習得していき最終的に最高位———第五階位の呪文を習得していきます。

でもそれは魔道書を使わない例で、魔道書を使えば人によっては読むだけで習得可能になるんです。第一階位から覚えるのでは最高位習得までに果てしないくらいの時間がかかるので。

また、魔法にはそれぞれ属性がありまして———例えば先程ボクが使った"守霤驟雨マクシューヴァ"が属する"流水系の呪文"は回復や補助の効果を持つものが大半を占めます。他にも広範囲への攻撃を得意とする"火炎系"や"雷撃系"、守りに秀でた"大地系"など、種類は様々です。分かりましたか?」

彼の長々しい説明に尚更コレットは理解から遠退いた。
「セティの説明じゃ、分からないと思うからリュミが簡単に説明するね。
ファイア、ファイラ、ファイガみたいな感じだよ!」
「FFじゃん!?
それじゃ訳分かんないよ!
———まぁ、物語上はあまり意味無いので………"ふうん"くらいで結構だそうですよ」
一体誰に向けていっているのか———明らかにフォルセティの目線はコレットから逸れていた。

 そんな長々しい会話をしている内に、彼らは外に出ることが出来た。すぐ後ろからバレットも合流する。リュミエールが、メリッサとレイスについて訪ねると彼は「部屋は裳抜けのからだった」と答えた。

一体何処に行ったのかと思ったのだが、直ぐに居なかった理由が分かったのだった。