ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Veronica*Oz.10更新中 ( No.134 )
- 日時: 2011/01/29 21:52
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 7Qg9ad9R)
- 参照: 祖に会えば祖を殺せ。期末に会ったら逃げよwこれが朔の唱える無一物(ry
轟く、鈍い轟音にメリッサは恐らく建物内にいる人物で一番早くに気付いたのだろう。物音のでかさを不思議に思った彼女は窓から身を乗り出して上を見た。レイスと思わしき人影が手ぶらで何かと応戦している。
「なーにしてんだか、あいつはっ!」
寝間着を持っていなかったメリッサはそのまま服を着ていたので、ベットの下に入れていたブーツを取り出して履いた。
ベットの近くにある小さなドレッサーの上から黒いリボンを手に取り、走りながら頭に結ぶ。邪魔な前髪を後ろにやった。
そして彼女はバタバタ走り、隣のレイスの部屋に押し入り、彼の愛剣クレイモヤを取った。屋上まで態々階段で行くのは煩わしい!そう思ったメリッサは部屋の窓を抉じ開けた。
そして壁と垂直に走り、屋上に向かったのだ———!
* * *
「———っぐぅ!!」
突風にフリッグの小柄な躰が吹き飛ばされた。コンクリートに躰を打ち付け、小さく唸る。
『弱いなフリッグよ』
ポチは低く笑った。見下す様子は妙に楽しげに見える。———不愉快だ。フリッグは口内に滲み出した血を、地面に吐き捨てた。
レイスは応戦したくても出来ない。竜に手ぶらで挑むのは自殺行為だ。仕方無くフリッグを助けに行くくらいしか出来ない———その時、彼の背後から声がした。少年の様な言葉遣いの、少女の声。
「レイスッッ!!」メリッサだった!彼女は壁を垂直に上り、上に着く前にレイスへとクレイモヤを投げた。「受け取れェッッ!!!」
「すまないッ」
パシリと剣を受け取り、柄を握ったレイスは一直線にポチへと向かった。下からメリッサがノルネンを振り上げて現れる。
だがポチは容赦無く二人に火焔を吐き出した。灼熱の焔はレイスの青みがかった黒髪の先をチリチリと燃やす。風に吹かれ、直ぐに消えたが。
「っ、たく!アレかっ?アニメオリジナルでは火吹くけど、原作は吹かないみたいな!」
「前から吹いてるしッッッ」
スタンと着地したメリッサがふざけていった言葉にフリッグは真面目に答えていた。———スライディングして擦りむけた膝が痛い。イヤホンを投げ捨て、彼は応戦体勢に入った。
ズシン!とポチの右足がコンクリートにめり込み、破壊する。破片が飛び散る!敏捷かつしなやかにレイスはそれを避けていく。
でんぐり返しをするように、ドッジロールをしてフリッグは隙間に入り込む。両手を激しく動かした。指揮をして音を操る。
「いつから反抗期になったんだよ、ポチ!!!」
"鍵盤曲<Canzona>"!!!
鍵盤曲———カンツォーネと唱えたと同時に、回りの大気が大きく揺らぎ始めた。振動は深緑の鱗に覆われた巨体の肉を削るようにして浸食していく。が、ポチはそれをやすやすと振り払った。
『名も忘れたかッッッッ!!!!』
ポチの口から真っ直ぐ一本の青白い光が放たれた!それはまるでレーザー光線の様な焔。フリッグを焼き殺すように、彼の周囲を燃やす。コンクリートは黒く焦げ、一部は溶けていた。
「お前はポチだろ!!?」
悲痛な叫び声をあげるフリッグの背後になにかが現れる。鋭い刃物の様なものが彼の血肉を突き破った!ポチがいつの間にか背後に居たのだ。奴の爪には、フリッグの脇腹の肉片がこびりついている———………。
『弱い、弱いなフリッグよ……。貴様はいつからそうなった』
くっく、と卑しい笑い声あげたポチは悶え苦しむ少年の躰を地面に叩きつけ、抑え込む。それだけでは終わらず、彼の躰に爪を突き立てた。
「———っあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
痛みに苦しむ声が深夜に響き渡る。ズプリと血肉がこびりついた爪をフリッグから抜いたポチは笑う。
『苦しいか』
余裕を見せたポチの背後にノルネンを振りかぶるメリッサが跳躍して向かった。彼女は<ベルザンディ>で大きくなった錫杖を竜の脳天に叩き込む!が、鈍い音を出しただけで奴は何も反応していない。
ぎろり、と赤血色の、瞳孔の開いた目がメリッサを見た。目が合った瞬間、メリッサの細い躰が弾き飛ばされる。そのまま彼女は町並みへと落とされた。
「面倒ですね!"風网(ウィンド=ワン)"」
旋風系第一階位の呪文が響いた。飛ぶメリッサの躰を、風で出来た網が受け止める。真下で本を開くフォルセティが使ったのだ。
「さ、さんきゅっ……」
声を捻りだし、ウィンクをするメリッサに呆れながらフォルセティは訊ねる。
「お礼は良いですよ。———それより、あれは?」
「フリッグのペット」
「嘘だぁ!!」
メリッサの答えにフォルセティは叫んだ。
空中に張られた網から飛び降りたメリッサは、フォルセティとリュミエールの真ん前に着地する。
「マジだよ」
髪を整え、彼女は口元に滲んだ血を拭き取った。
直後に黒い塊が地面に落ちてきた。———レイスだ。クレイモヤを握る彼の手には血が滲んでいた。
「やばい」
「———やばい?」
不安げな顔をしたリュミエールが聞き返した。
「ああ」レイスは頷く。「ポチはフリッグを殺そうとしているみたいだ」
「藤崎か。またウチか………」
バレットが悲痛な声を出している。破壊された民宿ベテルギウスを見て、目に涙を浮かべている。まあ、当然のことであるが。
暴れまわる竜に人間は為す術が無かった。今更上に登っても、ポチは軽々と人間を振り払ってしまう。フリッグが上に居るのが心配でならない———。
「藤崎さん………」
コレットは祈るように両手を組んで、それを額に押し付けた。神は信じていないが、こういうときにだけ信じてみたいと思っていた……。