ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Veronica*Oz.11更新中&オリジナル募集中 ( No.148 )
日時: 2011/02/10 20:52
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 7Qg9ad9R)
参照: テスト期間だっちゃ

* * *
 反転・現在———

「フリッグだよね、あれ、フリッグだよね!!?」
「多分そう!何してんだよ太郎の野郎!!」

夜の町を四つの人影が、走る、走る———。

「メリッサ、違う。ポチだポチ」
「あーっ、別に良いじゃんかぁ。ポチだろーが太郎だろーが」
夜道は暗い。会話だけで互いに顔を確認は出来ていなかった。
「ねえ、暗くて分かんないよ。灯り無いのー?」
暗闇を怖がるリュミエールはメリッサに手を握られていた。———灯りなど準備している暇が無かったのだ。飛んでいくポチを無意識に追い掛けていたのだから。

「灯り……。あ、これとかですか?」そう言ってフォルセティが本を開いて手を翳すと、本ののどからぼんやりとした光が現れてきた。「周囲を照らす、"照耀光源オプティカル"っていう魔法なんですけど」
本から現れた光は周囲を僅かにだが明るく照らした。蝋燭の灯火に似た、暖かさのある光である。白熱灯のような色は心を落ち着かせてくれる感じで少しだが不安を消し去ってくれた。

「流石だな」
賞賛するレイスにフォルセティは照れ臭そうな表情を見せた。
「い、いえ……。僕は体力が無いので、これくらいしか出来ないっていうか……」
「セティは魔法使いの弟子なんだよ!」
「あれ、それ聞き覚えあるんだけど。違うよ」
相変わらずリュミエールの言動にはペースが崩されるようで仕方無い。というか、今自分の周囲に居る人間とのやり取りはフォルセティのペースを崩してくれるようだ。


 破壊された道々がポチの進路を教えてくれる。

 軍も手荒なことだ。竜一匹に対し、まるで戦争でも起こすかのように幾つもの戦闘機を用意するのだから。その姿勢にメリッサは多少呆れた。やはり世界の覇者にでもなろうという野望を持った国家は違うものだ、と。

 ふとフォルセティは声を漏らした。
「でも……なんでティアマットなんかが現れたのでしょうか」
俯きながらボソボソと呟いていたが、三人は決して聞き漏らさなかった。レイスは彼の言葉一字一句完璧に聞き取っていた。———ティアマット。聞き覚えは無かった。

「ナニソレ。新しいマット?」
ふざけだか本気マジだか分からないメリッサの言動に、フォルセティは眉間に皺を寄せて返す。
「ティアマット、ですよ。一般で知ってる方はほぼ皆無だと思いますけど」
「なんでアンタは知ってるのさ」
自分よりも遥かに年下(というと、かなり年寄りに思われるがメリッサは十七歳である)のフォルセティの無駄知識というか一般ではあまり使わない知識の膨大な量には本当何とも言えないものを感じる。

「古来に居た暴れ竜です。元は人間で、ええと……、まあ兎に角凄かったやつです」

———誤魔化したな。
———うん、誤魔化した。

言いたいことを急に忘れてしまったのか、妙に中身の無いフォルセティの説明を聞いてアンバー種同士顔を合わせた。期待外れだ。

「ちょ、なんですかその冷やかな視線ッッ!リュミもその哀れむような顔するのやめてよ。哀しいじゃないですか!!」
「……大丈夫、セティは偉い子だから」
ぽんぽんとリュミエールに肩を叩かれ、フォルセティは今にも泣きそうだ。三歳年下、しかも女の子に慰められるなど……情けない。


 

 ゴゥンッ!

 


 突然、まるで大気を揺るがすような轟音がかなりの近くで鳴り響いた!思わず四人、同時に身を屈めた。

 激しく風が哭いている。砂埃が舞い上がり、それは視界を確認不可能にさせた。

———人の気配かっ。

まず気付いたのはレイスだった。只でさえ細い目付きを更に細め、砂嵐の中心を見る。


 徐々に風が収まり、視界が明らかになっていく———。


* * *

 一方、帝国内。

「遅かったね、ヴァナヘイム」
闇に溶ける漆黒の髪と、同じ色の目をした小さな少女が真っ暗闇の廊下に立っていた。彼女はまるでフレイを待っていたかのに、彼に近づいていく。

「すまないね、アングルボザ。貴女が態々出向くなんて、何かあったのかい?」
「もう片方は?」
アングルボザと呼ばれた女はフレイの質問に答えず、逆に問い掛けた。かなり自分のペースで歩いている。

 少女の身長は低い。小学校低学年くらいの背に、まるで喪服の様な、黒い質素なドレスとヴェールを纏っている。両サイドで団子にした黒髪に深い黒曜石の眼。———東洋の島国に存在が確認されているオニキス種のようだ。

「フレイヤか。どうせ今ごろ男と部屋で戯れているんじゃないかな」
フレイの返答を聞き、アングルボザは溜め息を吐いた。
「フレイとフレイヤが揃わなくてどうするの。ヴァナヘイムの意味が無い。それでもお前は十二神将なの?」
自分よりもかなり年下の身なりをしているアングルボザはフレイを見下す姿勢を取っている。だが、正直なところ、それはフレイにとって極々普通の事なのだ。


 真紅の絨毯が作る道の真ん中で二人は会話を続けている。突然背後から声がした。人を小馬鹿にしたような、苛立たしい喋り声だ。

「ククク……ボザ様とは、随分久しぶりの顔ですね」

振り向いた先に広がる廊下で、彼らに一番近い石柱に背中を合わしている男が声の主だった。後ろで一つに束ねた長い黒髪にカーネリア種の真紅の瞳。端麗な色白の顔立ちは、一般的に女性に人気のある感じだ。だが、卑しく歪んだ口元がそれを台無しにしている。

「ロードか」
はあ、とフレイは大きく息を吐いた。かなりのがっかり感が滲み出ている。
「どうせフレイ、貴方のことだ。女性でも期待したのでしょう」
「うん。ウェルちゃんとか、ラピスちゃんとか、ケイオスちゃんとか……。あー、ヘルは要らない。あれはオバサンだからね。あとフレイヤも」
指折りに女性の数を数え、名前を言っているフレイの姿に呆れたのか、アングルボザとロードで勝手に話を始めていた。

「ジャック・ロード。何か言いたいことでもあるようね。言ってみなさい」
少女は涼しい表情で淡々と言葉を紡いだ。ロードはペコリと一度軽く頭を下げてから言葉を始める。
「ファウスト精鋭の十二人から作られる【十二神将】にアングルボザ。知らないわけでは無いですよね?
あの女が目覚めていたことを」

「娘のヘルは殺りあった割に気付いて居なかったわ。———やっぱり駄目、化石は。
フェンリルも消息を絶ってるし、ヨルムンガンドは元から駄目。
で、誰か行ったの?」
呆れた表情で喋る少女の姿に軽く笑う。笑いが混じった声でロードは答えた。
「"彼女"が行ってますねえ……。さて、どうなるのやら。きっと奴等は勝てませんね」

「———彼女。雇った奴のうちの誰か?」
ジャック・ロードの口が更に吊り上げられた。ククク、と小さく笑いを漏らす姿は不気味で仕方無い。男は紅い眼をフレイに向けた。
「まあ、そう言うことですねぇ。彼らに勝てるのやら」


* * *
 ———戻るは、過去。

「目醒めたか」

その声が耳に入った頃には既に起き上がっていた。橙の混じった金糸は、いつの間にかほどけてボサボサになっていた。着ている服を所々焼け爛れている、が不思議と皮膚———いや肉体に損傷は全く見当たらなかった。

 急いで何があったかを思い出す。頭の中にある記憶を遡らせた。だが思い出すよりも先に、彼の躰を支えていた竜が経緯を語った。

「私の焔を喰らって倒れたのだよ。そのまま倒れていても困る。怪我を治しに連れてきただけだ。悪いことは言わぬ、早く帰れ」

そう言ってそっぽを向いた竜を見、フリッグは小さく会釈した。
「———ありがとうございます」

「別に礼など要らぬ」竜は目を合わせようとしない。「早く帰れ。貴様に私は止められん。私の気が変わる前に、消えろ」
まるで脅し言葉だ。フリッグに罵ってやったが、彼は顔色一つ変えずに竜を見詰めている。

「人を、殺す気か」
「………何?」
今まで穏やかだった声色が一変した。軽い羽のようだった声は鉄の塊のように重くなり、威圧感を纏う。その威圧感に気圧され竜は思わずフリッグを見た。流れていた風も変わっている———!

———何者だ、この餓鬼はッッ!?

魔物との混血と言ったが。だがこの威圧感はそれだけではないだろう。先程と立場が逆転している。今は竜の方が焦りを隠していた。

「一族皆殺しだぞ?許せるか?否、許せぬだろう!!同じ目に遭わせなければ気が済まんのだッッッ!!!」

竜は声を張り上げた!大気を揺るがす轟音に周囲の草木がざわめく。が青年は顔色を全く変えず、直立不動で竜を見上げていた。彼は口を開き、少しだけ大きめの声を紡いだ。

「それは貴女の虚無感を埋める破壊以外なんでもない。貴女は"一族の仇"という理由をこじつけ、破壊によって得る快感の為だけにその行為を行っている哀しい怪物だ」

「黙れよ餓鬼が!」
竜は紅に燃え上がった焔をフリッグに放った。フリッグは右手を前につきだしてそれを簡単に弾き飛ばす。

———無理ですか。

竜は聞く耳すら持ってくれないようだ。止めるにはあれしかない。彼は小さく呟いた。

「武力行使、実行ですね」


>>Next