ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Veronica*Oz.11更新中&オリジナル募集中 ( No.154 )
- 日時: 2011/02/23 18:46
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 9nPJoUDa)
- 参照: テスト期間だっちゃ
* * *
———!
何かに気付いたレイスは反射的に大剣を盾にして、襲い掛かった"何か"を弾いた。身長一八〇センチという大きな体躯が子供二人と女一人を吹き荒れる風から庇う。三人の中で一番早く現状理解をしたのはメリッサだった。彼女は咄嗟に武器を出現して、大きく振った。掻かれた風はびゅんと叫ぶ。
「な、何ですか……?!」
風に吹かれて尚一層くしゃくしゃになった栗毛を押さえたフォルセティはひょこりとレイスの躰から顔を出した。が、その頭は青年の大きな手によって押し戻される。
明らかになってきた視界。人影があった。風に揉まれ、激しく靡く金の流れ。殺気を纏った緋色の光が此方を睨み付けている。闇に白くぼうっと光っているのは着ている白スーツ。一直線に悪寒がメリッサの背中を走った。
———女の人?
メリッサと同じくらいの年齢の少女の様だ。リュミエールもフォルセティ同様、ひょっこり顔を出して確認した。
少女の目がリュミエールの黒真珠とぴったり合った。———何処と無く深い緋色。殺意だけではない。哀しみ?怒り?分からないが様々な負の感情が秘められているようだ……。
武器を構えながらも、戦意を潜めながらメリッサは少女に言う。
「ちょいとさァ、急いでるから退いてくんないかな?」
「———邪魔?」
淡々とした言葉が出された。その直接的な言い方に、メリッサは言葉を濁しながら返した。
「ん、まぁ……。急いでるってか、ま、そゆことなんだよね」
少女は空を見上げた。小さな顔がふっと上がったと同時に長髪がさらさらと揺れた。色は決して良いと言えない唇が小さく閉口し、何か言葉を紡いでいるが音が小さすぎて聞こえない。
何か分からないので四人は顔を見合わせていた。シルクハットを被った、まるで奇術師のような風貌。カーネリア種に見えるが目の色が少し異なる。しかも、人間ではない、何か他の気配がしてならない。
リュミエールはレイスの腕にしがみついた。立ち上がる彼に構わず、だ。フォルセティは男子たるもの、とでも思ったのか一人で立っている。子供を護らなくてはとメリッサとレイスのアンバー種二人は武器を少女に向けた。
「———ん、——らい」
先程からずっと何か呟いている様だが、全く聞こえない!夜風が声を遮断するようで———。だが徐々にハッキリしてきているのは確かだ。
———え?
まずメリッサが声を全て聞き取った。昔から毎日毎日生きるためにどんなこともやって来ていたメリッサには野生の勘といえるものが自然に備わってきていたのだ。もしかしたらフリッグの次に耳が良いのかもしれない。
「人間キライ、失せろ」
カッと緋色の目が見開かれた!
「危ない!!!」
メリッサは急いでノルネンを振り、レイスの体躯を振り飛ばした。一緒に居た二人も飛ばされ、レイスの上に落ちる。
何をすると怒る前にフォルセティのその感情は綺麗さっぱり消し去られた。霧が目の前を流れたと思えば、それは黒い光を放ち、電柱一本を消し去ったのだ。それを見たフォルセティは思わずレイスの腕にしがみついてしまった。
「何?え、何なの!?」
状況が全く分からない。リュミエールは必死に答えを求めたが、周りの者も分かっていないのだから誰も答えられなかった。
取り合えず此処は子供の安全を優先すべきだ。無言でやりとりをし、お互い頷き合った。レイスは子供二人から手を離し、
「ベテルギウスに戻れ」
と言って二人の背中をとんと押した。
「え?で、でも」フォルセティはちらと少女を見た。「大丈夫なんですか」
「平気だよ、ぶぁかっ」
メリッサはニヒッという笑いを溢して、歯をニッと見せた。仕方無くリュミエールはフォルセティを引っ張って去ろうとした。
———だが。
「逃げる奴は逃がせないな」
冷たい青年の声がフォルセティとリュミエールの躰に突き刺さった。すぐ前にエンジェルオーラ族の青年が立っていたのだ。
水色の瞳にリュミエールと同じ色の天然パーマ。油断した!とレイスはクレイモヤで男に斬りかかろうと踏み込んだがその前にフォルセティの小さな体躯が吹き飛ばされた。
「セティいイッッッ!!!!!」
リュミエールの悲痛な叫びが響き渡る。「てンめえッッッッ!」とがなってメリッサもノルネンを男に振りかぶったのだが男はひらりとかわし、リュミエールの絹の髪を掴み上げる。宙に足を浮かせ、苦痛に顔を歪めるリュミエールを卑しい顔で男は眺めている。
「———邪魔しないでよ」
呆れた顔で少女は青年に言った。ふさふさのファーがついたフードを男は被り、そこから冷徹な目を覗かせる。
「邪魔じゃねえ。上からの指示だ」
そう言って彼は無造作にリュミエールを地面に投げ捨てた。
———二人を逃がすのは無理か。
出現れた二人の姿を見て確信した。何者かは分からないが、恐らく敵だ。メリッサの戦闘能力と自分の戦闘能力を合わせてもフォルセティとリュミエールを庇いながらの戦闘になってしまうので、勝てるという確率はそう高くないだろう。
ジーンズの短パンが履かれた長い足がぼうっとしていたレイスの腹にめり込み、彼を蹴り飛ばした。
「———っっう!?」
咄嗟に剣を地面に突き刺し、飛ばされた躰を飛ばさないように押さえた。居た場所から数メートルは飛ばされたようだ。顔を上げると眼前には緋色の二つの光。種族不明の少女が霧を放とうと手を振りかざす。メリッサは踏み込み、その手を弾いた。だが、少女はまるでそれを望んでいたかのように、唇をつり上げて笑う。
「綺麗に分かれてくれたな」
「———ああ゛っ?」
急いで振り向いたメリッサとレイスがセットで何かに飛ばされる!服が濡れている。飛ばされた、というよりは"流された"という表現の方が正しいのかもしれない。顔を上げる。男の姿が見当たらない———と油断した瞬間、メリッサの振袖がしゅん、と消えた!またあの霧である。今気付いたのだが、彼女の首元ではブラック・オパールの大粒が紐に吊るされてきらきらと光っている。
「何、あんた敵な訳?」
フォルセティとリュミエールという二人の子供のことが心配で仕方ない。だが、レイスと自分の二人でならなんとかこの少女に勝てるかもしれないという思いも同時に在った。
少女は冷酷な光を宿した目は二人をしかと捉える。歪んだ口元から溢れる絶対零度の言葉は二人を恐怖に誘う。
「……話しかけないでよ、情が湧いて殺しにくくなるじゃん」
———やはり殺すつもりようだ。
レイスは仕方無く武器を構えた。竜———ポチに連れていかれたフリッグといい、フォルセティ、リュミエールといい……心配の因子ばかりで駄目だ。戦いに集中できるのか分からない。だが、これは避けられないことだと確信した。
* * *
物陰で小さな何かが蠢いた。そこには闇と同じ漆黒の髪と目、アングルボザの姿があった。彼女は感情零の表情で口を動かした。喋り方にも感情は込められていない。
「ラピス・E・ルーベライト。クロノ・ヘル。人口人類と"永遠の旅人"。
偖、今のうちに殺して欲しいね……。ノルネンの"彼女ら"も邪魔、天命の書版の餓鬼もあの血を継いでる。でもあの餓鬼の死はホズには好都合、か。
神器の奪取とフリッグ関係者の処刑———今くらいしか無いから頼むわ。
………ねえ、【蜃気楼】?」
後ろに人が居るのか、少女はまるで後方から返事を求めているように、ちらりと後ろを見た。暗闇から紫煙が闇に揉まれながらうねっている。
「———あの子は殺さない約束でしょ?少なくともアンタは私より下の立場よ」
「年齢は格段に上の人間に何を言ってるの?
私は【女帝】と【喰狼】の親」
「十二神将の古株って言いたいわけ」
女の挑発するような物言いから直ぐに、再び暗闇から紫煙が吐き出された。
「帝国が極秘に作り上げた、まるで生物兵器ともいえる人口人類。かつてのフリッグ=サ・ガ=マーリンを作り出そうという計画の産物ね。野放しにして殺す力を蓄えさせた……」
「私らの背後には帝国エターナルという大きなバックアップが付いている———そう言いたいわけねぇ」
会話だけが流れている。【蜃気楼】は吸い殻を地面に落とし、それを踏みつけ擦った。紫煙が消える。
「ティアマットは邪魔だから帝国を通して殺せば良い。妾はそう考えて動いただけ。
———あとは世界がどう動くか」ふう、とアングルボザはゆっくりと息を吐いた。瞼を閉じる。長い黒の睫毛が少し揺れた。一呼吸置いてから、また彼女は語を紡ぎ始めた。「北、スノウィンの神器の回収にはロキが行くそう。魔弾の射手ステラツィオのね」
「———ステラツィオ……。そう」
【蜃気楼】の脳裏にある男の顔が浮かび上がる。———白金の髪の、紅と蒼の光を持つ哀しい咎人。アイツの故郷である。
「そろそろ、行くわ」
そう言って、目の前で戦う三つの人影を眺める紫紺の瞳は少し時間が経つと、闇に溶け消えてしまった。
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