ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Veronica*Oz.11更新中&オリジナル募集中 ( No.161 )
- 日時: 2011/02/17 19:16
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 9nPJoUDa)
- 参照: てすと終わった\(^p^)/復活!
* * *
事態はそれほど悪くないように思えた。吐き出される火焔。それは竜に余裕が無くなったのを物語るように赤々としていた。赤い焔は不完全燃焼———。
———どうにかしなければですね。
フリッグは考える。これ以上の破壊行為は国を巻き込むだろう。どうにかして止めなければならない。が、殺してはならぬ。"和解"が一番望ましい解決法なのだが恐らく無理だ。力を以て屈させるのは野蛮な手段である、が。
「これでは仕方無い」
武力行使という漢字四字を以て挑まなければ此方が死ぬ。今自分が止めなければどうなるか、大方予想が付いた。
そっとフリッグは両手を前につきだす。そして鼻唄を唄うように、何かを奏でた。絶対音感によるものではない———"大魔導師"が使う、魔法だ!
「"美女の空中牢(ヴィヴィアン`ズ・エア・プリズン)"ッッ」
竜の居る蒼空、何もない場所から鉄の槍が出現し竜を閉じ込める牢屋を一瞬で作り上げた。
「大地系第五階位、か」
竜は呟く。焔を吐いても決して破れることはない、最高の鉄格子に閉じ込められた巨体は窮屈極まりない。
その姿を見てフリッグは語りかけるように言う。
「———このままウィンディアに連れていきたい」
「どうせ、許可を貰う気もなかろう」ふん、と荒い鼻息を吐き出し、躰を力ませた。膨張した躰に、鉄格子が叫びを上げている。「それにこのくらいは壊せる」
竜がそう言うと、空中牢の鉄格子は張り裂け、破壊された。乾いた金属音が虚しく鳴り響く。
竜の為といって、通常よりも弱めに作ったのが仇となったようだ。仕方無くフリッグは応戦することにした。最初からそのつもりだったが気持ちが踏み込めなかったのだ。
とんっ、と彼はバックステップで後ろに下がった。飛んできた竜の巨体が躰を掠める。地面に手を付きフリッグは一回転。手を中心に魔法陣、展開!
"雷晄閃彈"
何か打ち出された彈のような光が激しい閃光を放った!竜の目は眩しさで閉じられ、躰はよろめいた。揺らぐ巨体に水が滴る。唐突に降り始めた雨———では無い!!
"吸収天雨(ギガド=レイン)"
フリッグはノーモーションでもう一つの魔法を発動させていた。空から降り注ぐ雨は竜の体力を奪っていく"毒"だ。雷撃系第三階位"雷晄閃彈"と旋風系第四階位"吸収天雨(ギガド=レイン)"の時差発動。上から三番目と、上から二番目の強さを持った魔法だ。時間をおいての発動は難易度が高く、時間がかかるのだがこの男はいとも簡単にやってみせた。竜は確信する。———この男は、"大魔導師"フリッグ=サ・ガ=マシーン本人だと。
だが、竜も負けてはいない。ひ弱な人間から竜という絶対的な強さを秘めた存在に昇華した彼女は、同時に"傲慢さ"も手に入れていた。人間だった時の彼女にはなかったものだ。力を手に入れたことにより、それに頼り、人間を見下す傾向に走ってしまったが故、彼女は傲慢になった。こんな状況下でも、まだフリッグを見下している。
牙が並んだ口が開かれる。涎が垂れた。草木に落ちたそれは、草木を一気に枯らす。枯渇したというよりは、染み渡った毒に殺されたといった表現の方が的確かもしれない。
咆哮!
まるでモーセが起こした奇跡———紅海の水を分けたこと———のように、周囲の空気が真っ二つに切り裂かれた。いや、それは単なる比喩である。しかし、そう表すのが素直な表現な仕方だ。
切り裂いたのはまたあの透明な焔。焔によって焼かれた有機物は赤々と不完全燃焼の火を起こした。火に囲まれる前にフリッグは手から水の渦を出現させて振るう。渦によって鎮火された草花は黒いもの変わり、吹かれた風によって全て飛ばされた。水分を多く含んだ地面は緩い。ぐちょり、という音にフリッグの右足が入り込む。革サンダルを履いた素足に茶色がこびりついた。
焦げの付いた萌黄色の袖がひらりと弧を描く。その姿、舞姫の如し。踊っているのは青年だが、女に似た顔立ちの所為か、それとも長い金糸の所為か舞姫のように見えた。
———くるり。
吸収天雨の水溜まりにフリッグの足が侵入する。
飛沫、上がる。と、同時に駆け出す。
竜の体躯がうねった。大口を開け、食いかかる。ひらり、とかわしたと同時に素早く手を振り指揮した。
追走曲<Canon>
目と鼻の先にまで迫った竜の目に弾丸が飛んだ。右目は血液の赤で染め上げられる、が竜もフリッグの脇腹に爪を食い込ませていた。食い込んだ爪からは人間と魔物が混じった血液が滴っている。
「———っうぐゥッ」
低く短い唸り声をあげ、急いでそれを引き抜こうとした。しかし鉤爪は深く食い込んでいるためヒトの力では抜くことが出来ない。
「大魔導師と言ってもこの程度か」奴は嘲った。「つまらんな」
「そう、でしょうかね」
フリッグは小さく笑った。この状況で、笑ったのだ。
「何———?」
嫌な気がした。これは頭で思っているのではない。躰中が「駄目」「危険」と叫びをあげている。が、竜は逃げない。その場に留まって、フリッグの命を絶つべくと彼の頭に食いかかった。
咄嗟に青年は防壁を張り、竜の頭を弾いた。絶対音感から成る音の防壁。弾かれた頭は暫く空中でしなっていた。
それを機にフリッグは竜の足を蹴った。爪が食い込んでいるのはどうにかしたい。下から躰を押し上げて抜くつもりだ。どんっ、と蹴る。躰は自分の頭の方向にそのまま上がる感じだ。爪に食い込まれた肉はキリキリと叫びをあげている。と、同時に気絶する程の痛みに襲われたが、必死に耐え抜く。
次なる痛みに反応した竜は手を握ろうとした。フリッグを握り潰す気らしかったが、手が握られるより先に爪から彼の躰が抜け落ちた。ぽっかりという訳ではないが、孔が空いている。ボタボタと赤黒い液体がそれから流れ出ていて、地面を染めて行く。
———短期集中決戦、と言うべきかな。
下手をすれば意識が飛ぶ。そんな感覚に陥っていた。……相手を殺さないようにという加減は生憎持ち合わせていなかったのでいつも以上に苦戦している。"最強"を殺すより、"最弱"を殺さない程度にいたぶるほうが断然困難に思えた。
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