ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Veronica*Oz.11更新中&オリジナル募集中 ( No.165 )
- 日時: 2011/02/19 21:32
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 9nPJoUDa)
- 参照: 解放感に入り浸りたい日々で御座います。
* * *
「———ッンにゃろぉォ」
地べたから跳躍し、細い腕に似合わない大きな鎚のような錫杖を振りかぶった少女はそのまま下へと落下する。
「邪魔くさいなあ」
金髪の少女は易々と振り落とされたノルネンを素手で止めていた。そのままメリッサを振り落とす。杖とアンバー種の少女が引き離された。メリッサの細い躰は固い煉瓦道に打ち付けられ、離れた場所で虚しい金属音がこだました。淡い金に光る運命聖杖ノルネンが余韻を残しながら地面に倒れている。
———ノルネン!
心の中でメリッサがそう叫ぶと杖は白金の光の粉と化して消えた。そのあと直ぐに伸ばされていたメリッサの右手に杖が現れる。それを見て少女は呟いた。
「神器……運命聖杖ノルネン?なんで持ってるのさ。アースガルドのノルンに封印されてたはずなのに」
「メリッサだからな!」
普段比較的小さな声のレイスにしては大きな声を発し、大剣を少女に向かって振りかざす。斬りつけはせず、微妙な力加減で傷付けずにまだ発展途上の女体を吹き飛ばす。少女は静止せず一直線に宙を滑るようにして飛んでいき、コンクリートの建物の前に積み上げられていた木箱に突っ込んでいった。木の乾いた音と大きなものが落ちた音など複数の音が同時にハーモニーを奏でていたが決して綺麗なものではなかった。
一部始終を目の前で見た後、メリッサは立ち上がって埃を払い、レイスに「さんきゅ」と短く礼を言った。が、そのあと言うことを思い出したのか、青年の長い黒コートを掴み、彼と自分を離れられないようにした。
「さっきさぁ……『メリッサだからな』って言ったけど、アレどういう意味?」
「…………」
琥珀の目をがんつけ、強い口調のメリッサに対し、彼は沈黙を貫いている……。
「アタシがノルンから盗んできたってコト……では無いよね?」
レイスは目を逸らした。———彼の癖だ。嘘をつくのが下手な為、彼は嘘をつくと直ぐに目を逸らし、決して合わせない。
「逸らすな、目逸らすな!!」
首根っこに掴み掛かり、激しく上下に揺さぶった。変わらずレイスは名にも言わないでぼんやりしている。……こんな夫婦漫才紛いのことをしている暇など無いというのに……。
ふざけたやり取りをしあう空間を壊すように、不気味な瓦礫の音が響いた。咄嗟に二人同時に振り向く。
まるで地獄から甦ってきた者の様に、それは現れた。シルクハットは取れており、それは彼女の人間では無いことを証明している。
「余裕こきすぎた」
目に掛かる前髪を振り払う。頭から出るのは人間が決して持たない二本の"角"。所々破れた服や、開いた傷口を気にかけながらも確かな殺意は流民の二人を捉えて離していない。神々しいというよりは禍々しい雰囲気の少女は、産声を上げたばかりの赤子の様だ。そんな新鮮な殺意に思わずメリッサはたじろいだ。
「あら、言葉遣いも生まれつきなワケ」
冷や汗が頬を伝う感覚は確かである。———ジェームズ・ノットマンとは違う。この目の前が殺してきた数は比べ物にならないものだろう、と賞金稼ぎとして踏んできた場数が推測している
この少女の姿に、妙にレイスには思い当たる節があった。気のせいなのだろうか、と思っていたが恐らく気のせいでもない。 緋色の眼をした金糸の女子。どこかで顔を一度は拝めた記憶がある。何だろうか、とずっと詮索するのだが見つからない。この「分かっているようで分からない」という靄の掛かった不愉快なモノは心の底辺りから込み上げて来て、ずっと心臓の辺りで停滞している気がする。それと眼前の少女が仄めかしながら見せつけている黒い霧が重なって仕方ない。
「ちなみにズボンの折り目も生まれつき!」
少女は右手で空気を斬った!びゅん、という風斬り音は自分たちに向けて放たれたものではない。圧倒され、それの反応に遅れていたのだが自分たちに向けられていたのではないと知ると一瞬安堵して気を緩めてしまっていた。が、そんなもの単なるブラフであるのだから、相手の策略にまんまと嵌ってしまったという訳である。物質を消滅させる能力を持っているのだから、そんな便利な力、何にでも使えるのだ。
背後からしたぐらりという不気味な音に先ず気付いたのはメリッサであった。咄嗟に体勢を低くし、レイスの足に向かって水面蹴りを打ちだした。唐突過ぎ、其れに加えて素早かった彼女の動きに反応しなかったレイスの躰が一瞬で蹴り飛ばされた。
「メリッサ、何を……!」
そう彼女に罵声を浴びさせようとしたのだが、そんなもの"アレ"を見ては一瞬で消滅してしまうものだ。先程、いや一秒前まで居た場所に崩れ落ちてきたのは、自分たちの後ろにあった筈のコンクリ製の建物だったのだから。四階建てぐらいのそれは二階から上は全て地に落ちて砕け散っていた。破片は、と焦ったのだがこれまたレイスは唖然とする。
「あーぶね、あっぶねえ……」
額の流血を露わにしながら錫杖を構え、彼女はレイスを守るような体勢になっていたのだ。運命聖杖ノルネンの<ウルズ>で一時的に時間を止めることで盾を作り上げ、瓦礫や破片からレイスを守っていた。勿論自分を守るつもりでもあったのだろうが、明らかに彼女は傷を負っており、無傷のままであるレイスを守ろうとしたのは確かだった。
無理するな、という言葉が喉仏まで込み上げられてきたのだが、何故か其処で止まって、言葉が出なかった。その代り躰が勝手に動き、あの少女に剣を振りかざしていた。
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