ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Veronica -オリジナル募集中- ( No.17 )
- 日時: 2011/03/10 16:52
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 9nPJoUDa)
- 参照: We Shoudn't relate to people sepurficially.
ウェロニカが何を考えているか理解できなかった。
そもそも人間の思考を完全に理解するなど不可能な事だが、それでも少しぐらいは理解できるものだろう。召喚魔法は危険だ。
魔法が発動される前に、なんとしてでも止めなくては!
フリッグは一旦立ち止まり、"音の違和感"を探る。僅かな空気の振動までも、精神を集中させれば少しだけだが聞き取れる。彼はそれに賭けた。
一瞬、何か違うものを遠くで感じた。ベテルギウスの方からだ。しかし、恐らく発動前迄には着けそうに無い———嗚呼、こういう時に何故ポチを連れてこなかったのだ、と軽く後悔する。だがそんなことしている暇など無い!フリッグは走るのを再開した。
* * *
「———あれ、これ何かなあ」
ふとコレットは床に浮き出た蒼白い光の何かを見つけた。好奇心が先に走り、ついつい其れに近付いてしまう。よくよく見ると、魔法陣だ。何かなあ、と言って彼女は其れに指先を触れさせた。
触れたと同時に今迄ぼんやりと光っていただけの魔法陣がはっきりとしたものになり、激しく光を発した。とてつもないほど眩しい、失明するのではないかというぐらいの光が放たれている。
「な、何、ナニコレッ!!ちんひゃッ———」
珍百景という言葉を言おうとしたが、言い終わる様な心の余裕がなかった。この状況下、ギャグを言おうとする彼女のサービス精神は拍手ものだろう。(というか、言って良いものなのか、ナニ●レ珍百景。)
暫くして徐々に光は止んでいった。漸く目を開ける程度になったところでコレットは目の中に入った光景に、恐怖のあまり声も出せずただ立ち竦んでいた。
頭に雄鶏の様な鶏冠と角。翼が左右に一つずつていており、尻尾の先は槍の穂先のようになっている。まるで、蛇と鶏が合体したような、自分の背の高さよりも全長は遥かにでかい怪物がコレットの目と鼻の先に居た。
「あ………あ゛あ゛…………」
あまりの恐怖に足が凍りつき、逃げ出せない。怪物は天井を見つめていた。今、ここには誰も居ない。父母は食材等を買いに出掛けに行ったばかりなのだから。
コレットの声か、それとも臭いか。怪物はコレットに反応したようで、彼女の方を、下方を見ようと首を動かし始めた。
———その時だ!
二階から、物凄いスピードで何かがコレットに向かってきた。それは彼女の襟首を素早く掴み、そのまま彼女を外へと連れ出した。
「ポチ!」
緑の子竜はこくりと頷いた。———怪物は民宿内を這いずり回っているようだ。まるで、餌を探しているかのように。見つかるのは時間の問題かもしれない。即急に帝国軍へと連絡しなければならないが、肝心の連絡する道具等は全て民宿内、しかも怪物が這う一階のロビーにある。走っていっても、どうだろう———かなりの時間がかかる。近所から電話を借りることに決定した。
「此処かっ!!」
突然頭上から、聞き覚えのある声がした。
キャウ、という甲高い鳴き声を発したポチはコレットから遠ざかり、上に飛んだ。暫くして何かが彼女の眼前に着地した。
「ドーモ」
それはフリッグだった。彼はコレットの前に歩きだし、怪物を見る。
「藤崎さぁん!!」
鼻水と涙で顔をぐしょりと濡らしたコレットはフリッグに抱き付いた。
「フリッグ、ね。———静かに。隠れて」
フリッグはそっとコレットの口に手を当てた。
「どうして…?」
「奴はバジリスクという怪物。体内に猛毒があるだけでなく、相手を見ただけで相手を殺せる能力を持ってるんだ」
「………どう、するの…?」
コレットのか細い声は不安だけで満たされているようだった。
「先ず、厄介な目を潰す。鼻が良いから、僕だけを追わせるようにして———この辺に、周囲から孤立したような、どんぱちやっても平気な場所は?」
フリッグの質問に、暫くコレットは周囲を見回してから答えた。
「チェヴラシカ大草原…ここから一キロぐらいの場所で、魔物出没地域だから立ち入り禁止になってるけど」
うつむきながら答えたコレットに、フリッグは叫びながら命令した。
「じゃあ、そこまで僕がコイツを誘導するから、君は軍の人を呼んできて。
———頼む!」
頼むと叫んだと同時に彼はバジリスクに向かって勢いよく走りだした。
「———は、はぃいッ!!!」
そしてコレットも返事をしたと同時に、彼とは逆方向に走り出した。
* * *
ウェスウィウスは不愉快極まりなかった。
自分が"嫌いという"範疇にある、評議員の男と二人きりでいることに嫌で仕方なかった。
「今度、西方のアイゼン共和国との軍事訓練があるだろう?
そこの、これがかっわいい女性がねえ、凄い銃の腕前をしているそうなんだよ。まぁ、軍人じゃなくて、軍人ネルソン=ルーデンドルフの一人娘なんだけどね。美しい女性と、君の銃の腕前はどちらの方が優れているか…ってのを、一万プラッタ(一プラッタ=一円)で君の上官と賭けているんだけれどもどうかい?」
橙色の髪と眼をし、眼鏡をかけた青年フレイ=ヴァン=ヴァナヘイムは所々に嫌味を込めながらウェスウィウスに一方的に喋っていた。
「———お前はどっちに賭けた?」
「女性の方」
呆れ顔で訊ねたウェスウィウスに当然のごとくフレイは答えた。思わずウェスウィウスは銃をホルダーから取り出し、数発フレイを撃った。弾はそれほど彼の体を貫かなかったが。
「嗚呼、上官は君に賭けていたよ。君とS&W M10との相性は抜群だからってね」
「鬱陶しいわ!つか、お前みたいな奴が俺のS&Wの名前をやすやすと呼ぶんじゃねえ!!!」
怒鳴ったと同時にバキュンと一発、フレイのコートに鉛の塊を撃ちこむ。
橙色の瞳と髪を持つアゲート種のフレイは種族の特有の"中立的立場を好む傾向"にあり、帝国内で政治を行う評議員の一人だ。評議員の殆どがカーネリア種の中で唯一と言っていいアゲート種の彼は、若いながらも国政に携わっている。女好きでナルシストな性格の彼は、必ず国を交えた会議等の際には女性が居るかどうか確認するそうだ。人を小馬鹿にしたような行動と言動が、ウェスウィウスは嫌っていた。しかし、フレイはしつこく彼にちょっかいを出し、付きまとう。
「そういえば、よくない男が出没しているそうなんだよねえ」
ウェスウィウスは突然話題を変えたフレイに、再度弾を撃ちこもうと構えた。
「まーまーまー」流石に命の危険を察知したのか、フレイは必死に彼を宥める。「ソイツは銀髪に紅い瞳をしているそうでね。トランプを使うらしい。兵士が何人かソレで死んでる。
恐らく、カーネリア種でありながら軍の方になにか恨みを持っている奴だ。そ、こ、で」
「俺が倒せってことだろ」
白けた眼で言うウェスウィウスにフレイは嘗めたように「当たり」と言った。
「蒼のイルーシヴと、緋のウェスウィウスで悩んだ結果、男性である君にお願いしようと思ってね」
「結局は女、かよ…」
ウェスウィウスはガックリとする。イルーシヴは女性だが、女性ではない。あれは生物学的に男とする方が正しい……と彼は思う。二十年という人生の中であれ程恐ろしい女を見たことは無かった。アイツを女性扱いするのは、間違っているとものすごく思う。
「それじゃあ、詳しくは上官から!君が死ねば、賭けにも勝つしね!!」
そう言ってフレイは明るい声で手を振りながら去っていた。
「世界の為にアイツ殺して俺も死ぬか…」
残されたウェスウィウスは何も持ってない左手でフレイに向かって引き金を引く素振りをして呟いていた。
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