ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Veronica*Oz.11更新中&オリジナル募集中 ( No.170 )
日時: 2011/02/23 18:48
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 9nPJoUDa)
参照: 解放感に入り浸りたい日々で御座います。



 怒り、と言う訳でもない。

 その感情は、言葉にするとあまりにも抽象的になってしまうみたいだ。自分をかばったメリッサが傷ついたことに対しての怒りなのか、それとも何も気付かず守られたという己の無力さに対する呆れなのか、何なのか全く分からない。が、自分が何を考えず、ただ無意識に———己の潜在意識が呼びかけているのかそれとも自分の中に眠っている獣が体を奮い立たせているのか不明であるが———金糸の少女に向かって剣を振りかざしているのは事実だ。猛進していく躰を自分では止められないようである。


「ブァカッ、危ないっつーの!!!」
額の血を拭い、新たに手についたそれを舐めてから、もう一度ノルネンを握り直したメリッサはレイスの後を追う。メリッサの中にあった感情に一途と言った表現からほど遠く思われていたレイス・レイヴェントと言う人間像が今砕け散った。意外にも感情に正直な人間らしい。まあ、その辺が男性脳と言われているのだから仕方ないかもしれないが。

 少女はニヤリ、と口元を歪ませて笑う。真っ直ぐ向かってくる剣等、そんなもの彼女にとっては子供の玩具と同等の存在なのである。霧を出して消し去ろうとしてみせた。

 空気が斬れる。黒い霧に掛かれば消えることは頭では理解している。レイスは今の状態でも奇跡的にそれだけは覚えていたようで、瞬時に霧からクレイモヤを遠ざけ、自分の着用している黒いコートを代わりに捨てた。黒コートが霧に覆いかぶさる。勿論それは消滅したが、霧も同時に消え去った。


 その直後、すぐにメリッサがノルネンで少女の体躯に打撃を与えた!内臓まで行き届く痛みに思わず口から吐血させてしまったが、すぐにノルネンを少女の足が蹴り飛ばす。

「まっだまだぁ」ノルネン、<ベルザンディ>発動。大きくなった杖を振り回し、続けて少女に打撃を与えてやる。「だっっつーの!」
吹き飛ぶ彼女を見て勝ち誇ったような笑みを浮かべた。口元から「にひっ」という独特な笑い声が漏れている。

「早くぶっ倒して合流しなきゃジャン?」
そう言ってメリッサはレイスにウインクを投げた。
「———まあ、そうだな」
相変わらずの動作になんとなく呆れてしまう。まあ、これがメリッサ=ラヴァードゥーレという人間なのだから仕方が無い。
「取り合えずぶっ倒さなきゃっしょ」
まだまだ笑みを浮かべながらメリッサはノルネンを担ぐように持った。



 が、その平穏な風景は直ぐにことごとくく打ち砕かれた。

 煉瓦道に叩き落とされた少女は肩を震わせながら弱々しく起き上がる。金糸から突き出ている二本の角は月光に当てられて不気味に光っていた。

「———痛いな」

———思い出した!

少女の声を聞いた途端に今まで停滞していた靄が消え去った。少女の正体、と思わしきものを思い出したのだ。

———ラピス・E・ルーベライト。二億プラッタの超高額賞金首。

罪状は無差別大量殺人である。それを思い出すと、今まであった不気味な感覚は消え去ったがその代わりに正体を知ったことによってその事実の恐怖がレイスの足元を彷徨き始めた。———これはメリッサに言うべきだろう。レイスはそっとメリッサに耳打ちした。伝えたのは勿論ラピスの名との正体だ。

聞いたメリッサは目を見開いた。まるで琥珀の眼球が飛び出てくるのでは無いかと思うくらいだ。……それが普通の反応だろう。

「超高額賞金首……ねぇ」

目の前に佇むのは二億プラッタの塊。如何に強かろうともどうだろうが関係ない。今のメリッサの頭の中には金の事しか無かった。


「何、にやけてんの」
埋もれるように倒れていた躰を起こしきった彼女は手で服の汚れを払った。無愛想でぶっきらぼうな物言い。ハッキリ言って"アイツ"にそっくりである。 金しか無かった脳内は、ラピスの様子を見てから一瞬で他のものに上書きされた。


———女版フリッグだな、こりゃ。


心の中で小さく笑ってしまった。この無愛想でぶっきらぼうな物の言い方といい、死んだような目をしている部分と言い、本当にそっくりだ。「生き別れの兄弟です」という言葉も真に受けてしまいそうな気もするくらい。メリッサは笑った。竜———ポチに連れて行かれたアイツとこの眼の前の少女がダブって見える。ただ、二人が違うと言える部分は"目"であろう。彼女は殺意に満たされた目をしている。それは底が見えないくらい、暗く淀む不気味な瞳だった。


「べっつに。巨額の富を齎(もたら)してくれる幸運の女神サマが眼の前に居るからついつい口元緩んじゃってさァ」
「ラピス・E・ルーベライトが幸運の女神か、はたまたその逆かまだ分からないけどな」
二人、顔を見合わせてニッと笑った。
「やっぱりアンバー種はお金が一番な訳なんだね」
自分には理解できない、とラピスは小さく吐き捨てた。


「ま、あれだよ。アンタはお金になる運命。パッパと倒して、糞餓鬼どもでも助けに行かなきゃならないんだな、これがッ」
と、メリッサ=ラヴァードゥーレ。

「とっとと倒して進みたいんだ。———頼む」
と、レイス・レイヴェント。


 冷たかった筈の夜風は、何故か温かくなっていた。もしかしたら、二人の琥珀の目をした若者の何かが、それを温めたのかもしれない。その温もりを感じたラピスに謎の圧力がかかる。そのプレッシャーに似たモノは、彼女の胃をキリキリと痛めつけている。何か檸檬(れもん)に似たような酸っぱいものが込み上げて来ているのも分かった。が、戦(おのの)く訳にはいかない。———十二神将の一人である自分が"人間"如きに恐れを抱くというのは、自分の自尊心(プライド)が許さない。

 自分は、恐らくこの二人よりもひ弱だ。そもそも元来そういう躰の作りであったが、それを補うために身に付けた、頭脳と能力で敵を屈服させて来た。自慢の脳は、この二人を打ちのめす方法を探っている。


———全く、お喋りな連中。


「喋ってないで、早く掛かってくれば?」
無意識に彼女の口は挑発の言葉を紡いでいた。本当に無意識。何故そんな言葉を発したのかなど、脳は記憶していない。
その言葉を聞いて、メリッサは口元をニッと吊り上げた。



「そんじゃま行かせてもらおっかなッ♪」


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