ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 【Veronica】参照2000・返信200突破! ( No.210 )
日時: 2011/03/30 21:47
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 9nPJoUDa)
参照: 【無邪気】のキャラ原案はウチの次女さん(=妹)がやってくれたという


* * *


 小柄な躰を狭く暗い空間に転がせ、息をひそめた。入り込んだ場所はショッピングセンターだと思われる。勝手に入ったことを詫びるべきだと思ったのだが、今はそんなことを考えている暇など無かった。


「ねえ…セティ———」
「しっ!静かに!」

隣で話しかけてくるリュミエールの口を瞬時に封じたフォルセティは眼を細め、入ってきた自動ドアを見つめる。横の少女は潤んだ瞳を向けて躰を震わせていた。


 男から逃げていた最中にリュミエールを見つけ、そのまま彼女を連れてきた。結局アンバー種の二人組を見つけられず、またベテルギウスに戻る前に男らしき物陰を見つけてしまったが為に現在進行形で隠れ潜んでいるのだった。


 自動ドアを開け、男は中に入ってきた。顔は暗い為に見えなかったが恐らく殺意は剥きだされているだろう。フォルセティは軽く舌打ちをした。リュミエールを連れながらでは、どうも戦い辛い。しかし、幸いにも此処はショッピングセンターで、しかも品揃えの良いところであった。自分の頭脳と此処にあるものを駆使すればなんとか相手に応戦できると思ったのだ(自分の頭に自信があるらしい)。


「———おい、どこに居るんだよ。出てこいッ」


エンジェルオーラの男の罵声に思わず二人は震えた。びくん、と大きく躰を揺らした所為で、リュミエールの躰が棚に当たり、並べてあった物が一つ落ちた。それが暗く閑静な空間に、コト————ンという音を立てたので、男は二人が潜む方を見て、舌舐めずりをする。

「なんだ、そこに居たのか」

そう言って赤々と燃える刀を二人に降り下ろした。それをすれすれで避け、フォルセティはリュミエールの手を引きながら走る、走る。男は続けてもう片方の剣を床に刺し、二人の足元までを水を滑らせた!それにリュミエールが転ぶ。
「あ゛い゛たっ!」
ごちんという鈍い音を立てて床に伏すように倒れ込んだ。水で濡れた床に滑って転び……頭をぶつけたらしい。
「り……リュミ!!」
駆け寄った時には彼女の髪と目の色は反転していた。眉間に皺を刻み、青筋を立てた彼女は男に向かって焔を放つ!
「頭をぶつけたでは無いかァッ」

 ごう

 紅蓮の焔が男に降りかかる。が、それは一瞬にして水の剣により消火。男は服にプリンとしてある髑髏に似た笑みを浮かべ乾いた笑いを出している。
「ック———ハハハ!同族のエンジェルオーラにしてはまだ未熟者なんだな!!」
性格が一変したリュミエール———エンジェルオーラ族は戦闘を好むものと好まないものの対極的なものに別れる。十までの環境によってどのような性格になるか決まるのだ。だから、十までは不安定で二つの性格を持っている———に男は焔を纏った剣を代わりに返してやった。が、刀は彼女に斬りかかる前に何か大きな袋に邪魔された。それに斬り込みが入り、中から白い粉が溢れだした。それと焔が反応し、男の前で激しく爆発した!男は叫び声を上げる。

「ッア゛———アアアアアアッッッ!!?」

 ———粉塵爆発である(※粉体爆発ともいう)。可燃性物質の微粒子が空気中に飛散しているとき、一定温度以上に熱せられるか、火炎や電気火花等で点火されると燃え、条件によっては激しい爆発を起こすことである。

「な?」
「粉塵爆発です」
爆発にきょとんとするリュミエールにフォルセティは歩み寄り、説明を始めた。

「粉塵爆発とは、空気中の可燃性物質の固体粉末が火花等の点火源が与えられて生じる激しい爆発のことを言います。
炭坑の炭塵爆発が最も有名ですが、砂糖や小麦、茶、プラスチック等非常に多くの物質で起こるんです」

 今回彼が投げたのは砂糖の袋であった。粉塵爆発は、気体爆発に比べ焔の伝搬速度は小さいが、気体発生量が多いため、最大圧力が高く破壊力も大きい。条件等は一定でないが、今回使った砂糖の下限界は空気一ι(リットル)あたり〇.〇〇一g(グラム)、上限界では一三.五gと言われる。

「とにかく、此処に有るものを駆使して」
「よくもまぁやってくれたな?」
新たな袋を取り出したフォルセティの背後から低い声がした。咄嗟に振り向くと、顔半分に火傷を負った男が立っている。急いで軽く開けた袋を投げたが、男は水の剣でそれを斬り裂いた。水に濡れてぐちゃぐちゃになった砂糖が地面にべたべたと落ちる。
「っは——!?」
急いでフォルセティは天命の書版を出し、魔法を放とうとした。剣を振りかざそうとする男の背後にリュミエールが回り、蹴りを食らわした。が、男は平然と立ったままだ。

———まずいぃっ!!

焦りが込み上げてきて、書を持つ手が震え始めた。何だか喉から何かが込み上げて来るような感じもする。そんな役立ちそうにないフォルセティに感付いたリュミエールは黒のリボンをしゅるりと鳴らし、男を縛るようにそれを掛けた。もう一本のリボンで床を凍らせる。

黒のリボンから火が出る前に男はそれを消化した。
「鬱陶しい餓鬼どもめがッ!!」
そう怒鳴り、リュミエールを斬り付けた。
「ッッ!?」
斬られた場所から血が吹き出し、白のツーピースを紅く染める。まるで何かを求めるように彼女は空中で手で何かを掴むような素振りをしながら倒れ込んだ。白い目から涙が溢れている。だが、まだ生きてはいた。

「リュミ!」
急いでフォルセティは回復呪文を繰り出そうとした、がその前に男が立ちはだかる。
「次はお前だ。一緒に逝けェェェッッッ!!!」

怒鳴り声と同時に剣が降り下ろされた。まるでギロチンの刃のように、フォルセティの目にそれは写っている。一瞬死を覚悟し、同時に目を瞑った。






「だーめじゃないかぁ、クロノ・ヘル」



聞き覚えの無い少年の声と、いつまで経っても降りてこない刃に疑問を感じたフォルセティは目を開けた。

 男———少年はクロノ・ヘルと呼んだ———の剣を人差し指と中指の二本で止めた少年が微笑んだ顔をフォルセティに向けていたのだ。

「……【無邪気】!?十二神将が何故」
驚くクロノに【無邪気】と呼ばれた少年は口を尖らせながら返す。
「戦うのすとーっぷ。やーめよ、やめよ。
べっつにー、理由なんてあんま無いけどさぁー、ただボクは天命の書版を持つ天才少年が気になっただけだしぃ。くろのん(=クロノ)が殺しちゃあ、十二神将のボクがつまんなくなっちゃうからさァ。それに殺したら【蜃気楼】が本気でキレるから☆十二神将がキレると怖いのは、分かるよね?」
"十二神将"、"蜃気楼"。訊いたことのないワードだった。淡々と言葉を吐き出す少年の発言の中にあるキーワードになりそうなものを一個一個フォルセティは頭に押さえていった。

「てかくろのん。その火傷どーした?」
空気を読まないようで、唐突に彼は話を変えた。
「この餓鬼にやられただけだ」
「あれま。ハンサムな顔が傷物になっちゃったね。貸してよ」
にこにこしながら【無邪気】はそう言って、火傷を負ったクロノの顔に手を翳した。不思議なことに、徐々に傷が無くなり、あっという間に消え失せ、綺麗な皮膚に戻る。

「……例を言う」
傷が消えたと認識したクロノは軽く頭を下げた。
「いーよいーよ。ついでに、その子も治そうか」
【無邪気】はクロノの感謝の意を軽く受け流し、今度は倒れているリュミエールに歩み寄っていった。彼女の胸から腹を一直線に走る傷口を指でなぞりあげる。……なぞった箇所から傷口が塞がっている。そして、これもあっという間に治ってしまった。

フォルセティはその場で呆然と立ち尽くしている。半ば放心状態の彼に【無邪気】は話しかけた。
「大丈夫、フォルセティ。リュミエールは寝てるだけだよ」
ダイヤモンド種特有の薄桃色の瞳を此方に向けた少年は相変わらず笑っていた。年齢は見る限り、フォルセティと変わらないようだ。

「どうして、僕の名・・・・・・」
「ボクはカルディナーレ。十二神将の一角【無邪気】のカルディナーレ。ヨロシク、フォルセティ君♪」
カルディナーレと名乗った少年はフォルセティが良い終わる前に喋った。その不愉快な気持ちにフォルセティは眉間に皺を寄せる。喋っている最中に勝手に喋られるのは、不愉快だ。

 カルディナーレはクロノに手招きし、フォルセティ達が居る方と逆の方角に歩みだした。フォルセティは天命の書版をばれないように持ち直し、開こうとした。その瞬間、急にカルディナーレが振り向き、フォルセティの紫の双眸を離さないようにじっと見た。




「今回は逃がしてあげる」

そう言った少年の言葉にフォルセティは思わず聞き返した。
「・・・・・・はあ?」
「だから、今回は逃がしてあげるけど次は無いよーって事だよ。分かってね。それじゃ、行こうか。ボザのオバちゃんも集まり悪くって怒ってるとか、ウェルが言ってたからさ」
「———チ」
クロノは軽く舌打ちをした。それを聞いたカルディナーレは頬を膨らます。が、直ぐに元に戻し、フォルセティに向かって右手を挙げ、其れを振った。


「それじゃ」


フォルセティは返さなかった。———訳が分からなかったのだ。
彼が手を振り返すのもそうしないのも見ずに、カルディナーレは風に吹かれて消えた。カルディナーレに服を引っ張らていた、クロノも一緒に。





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