ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 【Veronica】 雪国コンビついに登場?致しました汗 ( No.247 )
- 日時: 2011/04/17 16:56
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 9nPJoUDa)
- 参照: 冒頭のイメージは"有心論"
「別れましょ」
唐突な君の言葉に俺の思考は停止する。君は涙で潤ませた紫紺の擦りながら続ける。
「ウェスに、飽きた……の」
「はァ!?」
俺は思わず声を荒げた。君は怒ったようにもう一度言う。
「だから、貴方に飽きたって言うのよ!!」
「じゃあ俺は遊びだったっていうのかよ!」
「そうよ!!」君は俺に鬼のような形相で怒鳴る。「遊びよ、遊びに決まってるでしょ!!」
それから暫くの静寂。
「———だから、別れよう……」
打ち破るように君は声を出した。お互い交わした婚約指輪に、手をかける。抜こうとして、止めた。
君は泣いていた。俺は仕方無く笑いかける。歳上の癖に、彼女は俺よりも泣き虫なのだ。
「『別れよう』って言ったのは、お前だろ?」
「———そうだね」
目元を擦りながら、君は笑顔を作った。今度はそれをみた俺の涙腺が崩壊し始めている。崩れ落ちた涙腺から涙が抽出。絶え間なく流れるそれを隠すように拭き取った。が、君にはお見通しの様だ。
「今度はウェスが泣いてどうするの」
君の柔肌に覆われた手が俺の涙を拭く手に触れてきた。君はそっと俺の手を退かし、変わりに涙を拭いた。
「泣き虫に言われたくないな」
「あら、その泣き虫に慰められてるのよ?」
彼女はくすりと笑う。
……いつもと変わらないやり取りだった。ただ一つ、"別れ話"という事実を除けば。
俺は声を絞り出す。その行為は雑巾絞り以上に難しく思えた。
「…………やっぱり、別れなきゃか?」
我ながら未練がましいと思う。が、正直俺は納得がいかなかったのだ。唐突な別れ話を持ち出され、意味が分からなかった。普段から気に入らない点があったのかもしれない。なら、それを聞きたかった。
「うん」
君は珍しく俺に目を合わせなかった。よく、耳にタコが出来るくらい俺に「人と話すときは目を合わせなさいっ!」と叱っていた人間なので、これは何かおかしいと俺は直感する。
「どして?」
そう訊くと彼女は一瞬躊躇った。が、そのあとに俯きながらひどく小声で呟く。
「言えない」
君は立ち上がり、俺の掌を強く握った。そのまま紫水晶を真っ直ぐの双眸に一致させた。一筋の流れを溢しながら、涙声で。
「さよなら、ウェスウィウス・フェーリア=クロッセル・アリアスクロス、
———生涯で私が唯一愛した男」
躊躇いを見せながら君は部屋を出た。最後に響いた扉の閉まる音がひどく長いものに感じられた。
君の姿が消えてすぐ、俺は掌を開いた。中には彼女が渡した紙切れ。それをゆっくり開いていく———………。
<Oz.15:Cruel-雪は白く、全てを消していって…->
『———ェスさん!』
真っ白な世界に声が響く。ウェスウィウスはゆっくりと瞼を開け始めた。微睡む中で、栗毛と紫紺の珠を見つける。
「エイルッ!!?」
恋人の名を叫びながら、青年は飛び起きた。が、眼前に居たのは萌黄色のベストを着た齢十の少年だった。
彼はウェスウィウスを心配そうに見つめ、
「……夢でも見てたんですか」
と言いづらそうに訊いた。どうやら魘されて居たようで何度も言葉と呻き声を発していたそうな。青年は苦笑いを浮かべる。
「昔の、な」
白金の髪を掻きむしりながらフォルセティを見て思う。エイルに似ていた。顔立ちも何処か妙に似かよっている。紫紺の双眸と栗毛———彼女と付き合っていた時期、ウェスがエイルにフォルセティのことを、『実は、禁書図書館にお前みたいな栗毛のアメジスト種が居るんだよ』と溢した時だった。
エイルは声を上げて笑いながら
『あら、それはそれは面白い冗談。
栗毛のアメジスト種だなんて、アースガルド王国の王族———アースガルズ王家の血筋にしか出ないわよ。前、一回帰ったけどそんな小さい子居なかったな。皆結婚してても子供いないし、一番下の弟でも十五歳だもん』
と言っていた。それを思い出したウェスウィウスの中に疑問が浮かんだ。———なら、フォルセティは一体何だ?しかし、その答えを知っている人は居ないのだろうと同時に思う。取り合えず、今は忘れた。
ふっと窓の外に目をやる。フリッグと離れた彼らは謎の男に言う通りにスノウィンへ向かっていた。スノウィン行きの列車の中で眠りについていたらしいウェスウィウスは思わず苦笑する。帰郷のくせに全く嬉しくない。スノウィンは故郷ながら"スノウィン"には良い思い出が無かった。家族の居ないその地に帰るのには気が退ける。
『間も無く、終点———。間も無く、終点———エリダナ—————』
よく伸びた機械音の女声が微睡みからウェスウィウスを現に引き戻す。スノウィンに最も近い駅、エリダナ。そこからひたすら歩いていけば故郷に着く。
「じゅーんびっ♪」
ピョンと椅子から軽やかに飛び降りたメリッサは鞄を振り回し、二人を見た。ウェスウィウスは頷く。
「さて、準備な」
それから直ぐに列車が音を立てて止まった。
先にメリッサが駆け降り、重たい旅行鞄を持ってふらふらのフォルセティが続いた。最後のウェスウィウスが切符を駅員に渡す。冷たい雪国の風が頬を掠めた。———懐かしく、嫌な感触だ。
「帰郷かい」
切符を受け取ったラピス種の男は混血の青年に唐突に訊く。突然だったウェスウィウスはどぎまぎした。
「あ、まぁ」
「それはそれは」
男は笑う。こんな辺鄙な場所に観光目的の旅行者など殆どいない。帰郷する人間以外はあり得なかった。やはり当たり前の答えだったと予想的中でもしたのか、男は笑っていた。
遠くで子供らが急かす声がする。ウェスウィウスが姿勢を低くし「では、これで」と会釈して足早に去ろうとした時だった。
男の口から笑いが消えた。だけでなく、空気が一気に冷却される。
「家族と愛した女を殺した男に安息は無いよ」
男から出た凍りつくような言葉が、ウェスウィウスを貫いた。振り向く。身体中に衝撃と恐怖が走り、彼の細いながらも逞しい体躯は震えていた。
……先程まであった駅員の姿は変貌していた。子供が一人居てもおかしくないくらいのラピス種の男は、目がぎょろりと飛び出た歳を食った男に変貌していたのだ。そのまま乾いた笑いを響かせて、風の中に消えていく。ウェスウィウスは呆然としていた。
彼の脳裏には、血だらけの女と夫婦の姿が映し出されていた。
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