ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 【Veronica】 雪国コンビついに登場?致しました汗 ( No.249 )
- 日時: 2011/04/24 18:53
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 9nPJoUDa)
- 参照: 新学期意外な多忙さにもたねえ…。
「起きたんだ」
凍てつくような、冷たい言葉が投げ掛けられる。雪のように白い肌、灰の髪、そしてアンバー種独特の琥珀玉がボサボサの髪から覗いている。同じ性別、種族のメリッサとは対極的な雰囲気だ。———メリッサが太陽なら彼女は月のよう。年齢はあまりフリッグと変わらないくらいだろうが、大人びて見えた。手には湯気が立っているシチューがあった。
「良かったね、生きていて」少女はそう言いながらフリッグの手から冷めたシチューを取り、代わりに暖かいシチューを渡した。「冷めてたでしょ?はい、暖かいの」
「あ、ありがと」
渡されたシチューの暖かさがフリッグの冷えた手に広がっていく。少年の食べる姿を見ながら少女は訊いた。
「君は、何処の人?」
口に放り込んだ肉を噛みくだき、飲み込んでから答える。
「生まれ育ちはスノウィン」
「ここはネージュ王国最北端。そんな辺境に、君は何か用でもあったの」
「いや———……」
フリッグは吃る。
「服装からして、あり得ないよ?そんな軽装で雪国ネージュの最北端、即ち大陸、世界最北端の極寒の地に来るなんて気狂い以外考えられないから」
少女の攻め。流れ的に彼女に助けられたのは明らかになっていた。命の恩人には返しきれない恩が生まれる。
正直に言うべきだろうが、
「貴女が、助けてくれたんですか?」
という会話を逸らすような言葉がフリッグの口から漏れていた。
「ほっておけば死ぬと思ったから……。あと、私はユールヒェン・エトワール。長いからユーで良いよ」少女は軽く自己紹介した。「で、何で?」
人当たり良く話しかけてきてくれる気がするのだが、非常に取っ付きにくかった。取っつく難さはフリッグもあったのだが、彼女程話す量は多くない。
「どうして」
ユールヒェンは斬り込む。氷で作られた刃のような言葉の刃先が、突き付けられている気がしてならなかった。
「スノウィンに向かう途中、謎のヤンキーに襲われて、ここに送られた感じで」
かなりアバウトな説明だった。しかし、正直な話、フリッグ自身も状況理解出来ていない状態だったのだ。言い終わった後で名を名乗っていないことに気付いた。
「へえ」
アンバー種は髪を弄りながら小さく声を漏らした。納得と疑いの割合が掴めない。取り合えず食べ終えたシチューの、空になった皿を置き、ジェイド種の少年はリュックサックとヘッドフォンを探り始めた。長居はしていられないからだ。
案外近くにあった二つを装着。布団を整え、立ち上がった。マットと地面の境目にある靴に手を伸ばす。ユールヒェンは静かに見ていた。ふと何かを思ったのか、彼女は口を開く。
「エメラルド種か何か?珍しいね」
風貌を見ていて思ったのだろう。
———確かにネージュでは珍しかった。と、いうかネージュという大国は主に二つの種族でしか形成されてないからだ。このネージュ王国という北に聳(そび)える大国の大半を占めるのが、蒼透石の眼を持つラピス種という種族だった。この国の人口のおよそ七割と言っても過言ではない。残り二割を同じ血統を持つラズリ種が占め、残りの一割はその他の種族が占めていた。ラズリ種自体数は少なく、最近発見されたばかりのエンジェルオーラ族と張り合っても良いものだという。
彼女の様なアンバー種は基本的に世界中に広まっている種族だ。なので、大して不自然ではなかった。どの国にもアンバー種が居るくらいなのだ。しかし、大半の種族は住む場が固定されている。だからエメラルド種のような種族が此処にいるのには違和感を感じたのだろう。
しかし、フリッグはエメラルド種では無く、ジェイド種だ。知っている人は少ない———という以前に滅びている古代の種族だ。
「違うよ」靴紐を締め終えた彼は振り向いた。「僕はジェイド種だ」
「そう」
案外素っ気ない。少しばかりつまらなかった。これがメリッサやその周囲の人間なら声を上げて驚いていたものを。
「案外素っ気ないね」
残念そうに少年は言った。ユールヒェンは軽く欠伸をしてから真っすぐと彼に視線を返す。
「別に珍しい種族なんてそこらじゅうに居るもの。
それに、君は早く此処を出て行った方が良いよ。……と言っても、もう出ていくみたいだけど」
「介抱してくれて、有難う。僕も僕で、親類や仲間を置いてきてるんだ。申し訳ないけど、出ていくよ」
言ったフリッグの脳裏にウェスウィウスやメリッサ、フォルセティにティアマットの顔が浮かび上がる。ウェスにはスノウィンに良い思い出は無かった。だから、彼一人帰郷させるのは流石にフリッグでも気が引けたのだ。
フリッグが立ち上がったその時だった。轟音が轟き、"家"全体が激しく揺れる!床に置かれたシチューの受け皿とスプーンが音を奏でる。棚等の家具が軋んだ音を立てている。
「———なあ!?」
揺れに対応できなかった少年の躰が地面に倒れた。大きく尻もちをついた彼の元に素早くユールヒェンが駆け寄り、彼の両肩を支える。そして呟いた。
「また、始まった……!」
「一体何が、何だか!」
おさまらない揺れの中、フリッグは完全に混乱していた。状況が全く理解できない。ウェロニカと再会してかたこのようなことばかりだった。混乱する少年の肩を支えながら、少女は壁に立てかけてあった大きな狙撃銃に手を伸ばす。手が触れ、其れを自身に引き寄せた。
「もう少し早ければ逃げれたのに、ね」
フリッグの躰を掴んだまま、少女は部屋の奥に進む。クローゼットらしき木製家具の中からくすんだ白のロングコートや防寒帽子を引き出した。素早く装着してから、奥に置いてある散弾銃を取り、肩に提げる。クローゼットの前に置いてある軍靴をスムーズに履いた。手に持っている狙撃銃も肩に掛ける。
「説明を求めても良い!?」
少女に連れられたままの少年は小さく挙手した。ユールヒェンは足早に彼を掴みながら、洞窟の出入り口を目指している。翳(かげ)った琥珀の眼を、出入り口から差し込む僅かな光に向けながらアンバー種は呟くように言う。
「私はアンバー種、呪われた血筋」
その言葉を聞いたフリッグは思わず反論したくなったが、止めた。そんな暇は無いと思ったのだ。———メリッサやレイスと二人のアンバー種に会ってきた。が、彼らは決して血筋に囚われることなく生きていた。
自分の運命を受け入れ、其れを主張して生きている。そんなの全く他の種族と変わらない生き方、いや下手をすれば自分たちよりもよっぽど崇高に生きている。太古から迫害の歴史を持った流民の彼らを"呪われた血筋"というのは個人的に許せない。しかし、これもメリッサとの出会いが無ければ思わなかったことなのだろう。
アンバー種は本当に崇高な種族だろう。同じように迫害の歴史を持っていたダイヤモンド種は迫害の中で絶対神エンリルに対する狂信的な信仰心と選民思想を抱いている。エンリルを信じていれば、最終的に救われるといった考えなのだ。同じような選民思想を抱いてもおかしくない程の歴史を持っている筈のアンバー種は不思議と抱いていなかった。———"神"等と言う目に見えない物を思想に持ちたくないというものがあったのだ。だから彼らは常に「自分の眼で見」、「自分の耳で聞き」、「自分で決断を下して生きている」。そんな生き方を出来るような自信は、少年には無い。
フリッグの思考に構わず少女は続ける。
「特定の国を持たないアンバーはスパイ容疑をかけられやすいの———戦時中は特にね」
「戦時中……?其れは一体——————」
フリッグが声をはねあげたと同時に大きな轟音が鳴動した。
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