ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 【Veronica】 雪国コンビついに登場?致しました汗 ( No.250 )
- 日時: 2011/04/26 20:34
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: rbVfLfD9)
- 参照: 新学期意外な多忙さにもたねえ…。
* * *
深夜。ダブルベッドから起き上がった人影は手探りで眼鏡を見つけ、掛けた。空いた右手でランプを点け、左手で床に置かれたパソコンを拾い上げる。灯りに照らされ、男の艶やかな橙の髪と瞳が映える。そのまま膝に置いて起動。寝台に座りながらノートパソコンを弄り始めた。
「何をしてるの?」
「おや、起こしてしまったかい?」
パソコンの起動音で目を覚ましたらしい女は目を擦りながら上体を起こした。シーツを胸元まで引き上げる。男と酷似した顔立ちに、同じ橙色の瞳と髪。橙の流れは男より遥かに長く、シーツの白い海に色を映していた。男は微笑を浮かべた。
「『近親相姦』について調べていたんだよ」
右手で眼鏡をくいと押し上げ、左手でパソコンを閉じた。よく似た女は男の裸の肩に頭を乗せる。男は左手で女の橙の流れを弄り始めた。
「あら、珍し」
「最近、"彼"に会ったものでね」
「そういえば、彼の父母は異母兄妹だったわね」
女は鼻で笑い、男の手に自身の手を重ねる。男はそっと女を懐に引き寄せた。女は訊く。
「で、どう?何かあったの」
女の橙の河川を軽く甘噛みする。
「近親相姦によってもうけられた子供は遺伝子の異常を来しやすい。長くは生きられないようだ。———つまり、"彼"もそういうことになるみたいだね。アースガルズ王家の正妻の息子と愛人の娘の間の子供だろう?帝胤(※帝王の血統)を受け継ぎすぎているのさ」
「アースガルド王国では、インセストタブー———即ち近親間の性交渉の禁止或いは抑制があるものね。犯した場合は単に違反者に危険が及ぶだけじゃなくて、神の怒りを買い、社会全体が混沌に陥るとも信じられてる。それはエンリル神を絶対信仰するダイヤモンド種や祈り子アクアマリン種も同じね。
だから、アースガルドやダイヤモンド種、アクアマリン種の人間達は違反者に対して追放や処刑など、制裁を加える例が屡々見いだされるわ。
だからアースガルド王国も次期国王候補のバルドルと、ナンナの関係を曖昧にしていた」
二卵性双生児の男女はお互い饒舌に喋っていた。
「よって"彼"も存在自体闇に葬られて生きている訳だ。これは、ホズによる王族狩りから逃げられると読んだバルドルが勝ちだねえ」
そう言って男は眼鏡を外し、ランプの下に置いた。女を抱き寄せ、彼女の躰に絡み付く。女は笑う。
「さあ、どうかしら。お馬鹿さんのホズのことよ。読みが無くても探せられなかったんじゃないのォ?」
よく似た顔に女の細い指が触れた。熱い吐息が紅の唇から漏れる。
「さてね。私には分からないよフレイヤ。
———ファウストの思惑の成功率も、ね」
「そうそう。フレイ———貴方マーリンらと接触したみたいだけど、何を考えてるの?」アゲート種の男の言葉を聞いた女は彼を睨み付けた。「まさか、裏切る気ではないでしょうね」
彼は苦笑した。女の胸に顔を埋め、
「まさか」
と声を漏らした。
呆れ顔で女は返す。橙の短髪が胸部に触れていた。
「あの男の借りを忘れないでよね。———十二神将として私達が成り立っているのを。
もとは一人の肉体である我々を」
「【豊穣】ヴァナヘイムだろう?」自嘲染みた笑みを浮かべる瑪瑙の双眸。「……ふ、これではバルドルらを笑えないね」
状況が語っていた。同じことを考えていたらしく、女も男と同じ表情を浮かべた。
「楽しいじゃないの。
腐った世界での禁忌なんて」
* * *
雪道に足跡と言う名の道を刻んでいく。先程まであった吹雪は消え去っていた。それに安堵したウェスウィウスは口元を緩める。
「吹雪は収まったし、そろそろ到着だな。まだ俺ん家残ってれば良いんだけどよー……」
青年の言葉を聞いたメリッサは爆笑。頭上に竜を乗せて遊びながら、ウェスウィウスを見て喋る。所々に笑いが含まれていた。
「『家残ってれば』って、どんな冗談?マイケル・ジョーダン?フリッグと居て、なんで家が無くなるのさ〜」
「色々あんだよ、バーロッ」
混血の青年も笑う。
その中でフォルセティは何かを見付けたらしく、空気が読めていないと自覚しつつ割り込んだ。
「すみませ……、到着したみたいです、よ」
気まずさが彼の言葉を塞き止めている。詰まり詰まりの言葉に二人は会話を止め、目線をフォルセティの指に集中させた。少年の小さな手から生える、また短い指が前方の看板を指している。木製の朽ちた看板には、"Snowin"の消えかかった文字。
———着いちまったか……。
内心で思わず本音が出た。はっきり言って帰郷などしたくはなかった。忌まれた場に再び戻る理由など、残した唯一の家族を自分の元に取り戻す以外は無かったからだ。スノウィン村長であるバティストゥータの顔を思い返すだけでも虫酸が走る。
「うわー、寂れてる」
アンバーの少女が発した不躾な言葉に青年は現実に引き戻された。そして笑う。確かに人気があるのか無いのか分からないような静閑な場所だ。メリッサの発言も強ち間違っては居ない。しかし、スノウィンに思い込みがある人間が聞けば憤慨しそうな発言だった。
フォルセティもそう思ったのか、ウェスウィウスを気にしながらメリッサに近付き、
「駄目ですよ、そんなこと言ったら」
と囁いた。背の差があるため、少年は背伸びし少女は小さく身を屈めている。
「ホントのコト言っただけじゃん」
メリッサは唇を尖らせた。紫の目は呆れている。
「これだからアンバー種は……。そんなのだから、ミュシェヴヘルのように功績を奪われたりするんですよッ!」
フォルセティはエンジェルオーラ族発見という歴史的功績を奪われたアンバー種の流民の名を刻んだ。
メリッサの額に青筋が走る。
「へーえ、よく知ってんじゃん」
ミュシェヴヘルの話は琥珀玉の種族間でも暗黙の事実だった。いかにアンバー種が他種族から忌み嫌われているのが分かる事実である。奪ったのはカーネリア種———帝国エターナルだった。アンバー種に渡るくらいなら、功績は奪った方が良い。所詮は利用されるだけの哀れな民族なのだ。
「知識だけはありますから。———それに、太古から嫌なくらい付き合いが有りますしね。アルメニ=ミスト協定に於ける領土問題とか!」
「お、おいっ !!」
アメジスト種の少年は声を荒げた!ウェスウィウスが急いで抑止にあたるが止まらない。
「アンバー種建国派代表で協定を結んだミスト=レモンバームといい、その婿養子で王国対抗勢力ヤンターリを組織したS=ラヴァードゥーレといい、どれだけ僕らの国を荒らせば気が済むんですかッッ !?」
「だからって殺す?利用して利用して利用して利用して、最後は殺すってどゆこと !?
それが高貴なる魂を持つ王族がやることだって正当化してんのはアンタ達じゃんっ!」
メリッサが反論。南で起きている種族間の問題は、北の国で若者たかが二人の間でも勃発していた。
「———だからって!」
フォルセティが我鳴り立てたと同時に乾いた銃声。混血の軍人がよく立てる音だ。煙りはフォルセティを向いていた。思わず目を瞑っていた少年の紫紺が見開かれる。
「……外したか」
聞こえたのは男の低い声だった。聞き覚えのある音にウェスウィウスは視線をやる。立っていたのは、動物の毛皮を纏った白髪のラズリ種の老人だった。———スノウィン村長、バティストゥータが邪悪な笑みを浮かべているのだ。周囲には煙をうねらせた銃口を握る屈強な男が数名。嫌な予感にウェスウィウスは硬直した。
「しかし、どうせ撃ち殺す奴なのだから良いだろう」
地面に人が倒れる音。子供の叫び声。倒れたのは焦茶の髪のアンバー種だった。右肩に紅い染みを作った彼女はフォルセティに笑みを向ける。
「ほーれ、借り、つくって……やった、からなー。あ、と……で返し———てもら、う……よ?」
「バッッ——— !!」
思わず憤った。メリッサはフォルセティに放たれた弾丸を察知し、自分で喰らっていた。自らを重んじている筈のアンバー種の行為には思えなかったフォルセティは怒鳴る。
「なんで助けたんですかッッッッ !?」
また銃声。今度はアメジスト種の少年を貫いていた。急所は外していたが、血が溢れ、子供は呻いた。メリッサの上に倒れ込む。残ったティアマットがウェスウィウスに憤怒の焔を宿した目を向けていた。ウェスウィウスの深紅と紺碧の目にも火が宿る。
「テンメェェェエエェェッッッッッ」
ホルダーから銀の筒を取り出し、リボルバーを握る。安全装置を外し、狙いを定めた。咆哮と共に引き金を引くっ!
が、銃弾は届くことなく終わった。スノウィン住民の真ん前まで行ったところで何かの壁に阻まれた。音を立てて落ち、雪に埋もれる。
「なあ !?」
信じられない光景に声を出したウェスウィウスの下腹部に強い衝撃。踞り、呻いた彼の頭が上から押さえ付けられた。そのまま地面に押し付けられる。
ラズリ種のバティストゥータは冷酷に見下していた。ウェスウィウスは紅耀珠と瑠璃の眼を血走らせ、睨む。
「連れていけ。残りは放置だ。
いずれ死ぬさ」
バティストゥータの冷酷な命令に男たちは静かに頷き、ウェスウィウスの四肢を固定した。足掻く青年の口腔に布が突っ込まれる。竜は羽ばたき、阻止したが羽を撃ち抜かれた。
残酷に、凍てつくような風が吹き抜けていた……。
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