ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 【Veronica】 *参照3000突破、有難うございます! ( No.298 )
- 日時: 2011/07/03 11:49
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: rbVfLfD9)
- 参照: ジ ー プ = は く り ゅ う (゜Д゜)
* * *
————我々が完璧であるという道理は何処に有る?いや、そんなもの何処にも無いのだ。
人は常に不完全である。
其故、人は貪欲に完璧を求める。
そして、我々が完璧で無ければならないと言う道理は何処に有る?
否、そんなもの何処にも無いのだ。
それでも人は完璧を求める。
それは無いものを貪欲に求める、
まるで欠けた部分を埋める虚しさのように。
「珍しい本を読んでるじゃないですか、お嬢」
良く通った声にピクリと肩を震わせる。リーゼロッテは振り向いた。艶やかな紅色の髪が靡く。
「やあ、ビスマルク。久しぶりに本を漁ってみたら、昔読んでいた本を見つけてね」
彼女は苦笑する。手に持った古く分厚い本を叩いた。頁に挟まっていた埃が舞い、光を浴びて輝く。綺麗だったが、正体が埃だというと非常に残念なものになる。
「賢者の言葉ですか」
人狼ビスマルクがリーゼロッテの開いている頁を覗きこんだ。彼女は笑いを漏らして答える。
「ああ、有名な者のだ。幼い頃に読んでいたのを思い出してね」
最期に小さくケイロンの、と付け足した。スピネル種の女性は再びをそれをまじまじと読み込む。横で狼は静かにその姿を眺めていた。
自分に有る最古の記憶を思い出す。
会ったばかりの少女は、年齢とは不相応なくらい大人びていて、自律していた。休む間もなく、背伸びをして。
今、彼女が読んでいる本を当時の彼女も彼に見せたもので、
『別に完全や完璧じゃなくて良いんだ。お前はお前らしく、"お前"を創っていけばいいのだから』
という言葉をいつも繰り返し呟いていた。
ふと思い出に耽っているビスマルクを現実に引き戻す呟きが聞こえた。リーゼロッテは本を棚に戻し、窓を開け、外を眺望し始める。そして、もう一度似たような言葉を誰かに言っていた。それは、今此処にいる者に向けられている言葉では無かった。
「ウェスウィウスは欠けているものを埋める何かを探していたんだと思うんだ」
彼女の真紅の睫毛が伏せる。北へ、故郷へ向かった友の顔が脳裏に横切っていた。しかし、それは非常に靉靆(あいたい)とし始め、まるで彼の存在がこの世から消え去るのではないかと言うくらい曖昧になっていっていた。
「埋めるものは、"愛"だったのかもな」
遠くを見つめる。尖晶石の双眸は、哀しく風景を見つめていた。
* * *
「ここまで来れば安心だろ」
更に薄暗さを増した狭い坑内に落ち着く。クラウドは担いでいたのを下ろした。
「何がだよ!」
復活直後でまだ傷口も塞がりきっていないメリッサが苦い顔をしながら声を上げた。途中で意識を取り戻していたフォルセティも同じ顔をしている。
「良いじゃねぇか、別に。村人に捕まったら殺られてた————そんな可能性も零じゃねえだろ?」
今のメリッサとフォルセティはただ与えられたものを有無を言わせずにこなすように命じられているとしか思えなかった。ネージュに到着してからまずフリッグとはぐれた。スノウィンに来てすぐ襲撃され、ウェスウィウスの行方も分からない。
フォルセティは恐る恐るクラウドに訊く。
「クラウドさん……は何か知ってるんですか?」
「いや、俺も詳しくは知らない」
ハッキリ言われ、メリッサが荒ぶる。
「それじゃ何が起きてるのか誰も分かんないじゃん!!」
クラウドは目を閉じた。彼の藍の髪が目元を隠すように流れる。
「そうだな」
少女の琥珀が陰った。フォルセティもその場にしゃがみこむ。場所とリンクして二人は闇の中に居た。模索する気力すらもがれた感じだ。行方知らずのフリッグとウェスウィウスを探す前に、どうにかこの状況を打開せねばならなかった。しかし諦めが発生し、蝕んでゆく。その所為で気力が失われつつあった。
それを読み取ったのか、クラウドはいつの間にか口を開いていた。
「スノウィンの村長バティストゥータを始め、村人が変貌したのは最近のことだ。噂によれば、神器を手にしてネージュを支配するつもりらしいんだけどな。————俺も調べに来て捕まった」
「バッカでぇ〜」
それを聞いたメリッサが小馬鹿にしてけたけた笑う。失礼なことに指を指して。その横にいるフォルセティも肩を震わせていた。笑いをこらえているのは、丸分かりだった。
隠すのが下手くそすぎて、面白くも腹立たしい。思わず怒鳴った。
「うるせぇ!!」
少しでも哀れみを感じたクラウドは自分が馬鹿らしくなった。一秒でもそう思ったのを後悔。黒歴史と刻まれたのを一秒でも早く削除、削除!
「とりま、ウチラは何かややこしいことに巻き込まれたっちゅーことだよね」
そう言ってからアンバー種の少女はその場で右手を振るった。美しい金錫が現れる。運命聖杖ノルネンを地面に突き立て、不敵な笑みを作る。クラウドは唖然。思ったより早い立ち直りである。
「思ったより早い立ち直りだな」
言われたメリッサは頭を掻く。
「なんつっか、"慣れ"だよね。今まではそんなに無かったんだけど、ある奴に会ってからドーっと色々起こったからさ」一呼吸おき、丸で今までのことを思い出すよう目を閉じた。「指名手配犯やら、伝説級の竜やら、大魔導師やら」
フォルセティも笑って立ち上がった。手には天命の書版を抱き抱えている。
「有無を言わさずに呑み込むしか無いですし。————まるでいきなり免許もないのに車に乗せられて運転させられてる感じ」
何を考えているのか、メリッサはそのままノルネンを振るって天蓋を破壊し始めた。一気に孔から光が差し込む。光が反射した雪がきらきらと光っていた。
「おい!!」
怒鳴りを散らすクラウドを総無視し、メリッサは天上へと跳躍した。フォルセティも続こうとしたらしいが、登れないらしい。なので声を掛ける。
「メルさん、僕は貴女みたいに猿のような跳躍力は秘めてませんよ」
すると上から「なら登ってこい」という無茶な要求が送られてきた。呆れ顔になったフォルセティはクラウドを見る。ラピス種の青年は蒼透石の目をぱちくりさせていた。
「クラウドさん、掴まっていただけると嬉しいのですが」
そう言って左手を差し伸べる。右手では書を開いていた。銀灰色の淡い光が灯っている。
クラウドは取り合えず手を取った。しかと握る。間も無く少年の幼い喉が震われた。
「氷雪系第四階位……"氷結舞踊"っと」
途端に二人の足元か凍結する。氷は下にどんどん土台を作り、階段のように連なっていった。数秒でメリッサの跳んだ場に届いた。
————氷雪系なら俺も使えるんだけどな……。
内心そう思ったが、封じておこうとクラウドは誓う。
集まり、顔を合わせる。が、そんな間はなかった。瞬時に感じた殺意に戦闘準備、体勢に入る。先陣を切ったのはやはりメリッサだった。雪の積もる繁みにノルネンを振るう。同時に返された銃撃を容易にフォルセティが盾を作って防ぐ。
「何が居るんですか?」
フォルセティの問いにメリッサは鼻を鳴らして答える。
「もち、村人だよ」
構えた運命聖杖ノルネンが形状を<ベルザンディ>から<スクルド>に変える。魔法攻撃に特化した<スクルド>はメリッサが——魔法系であるがゆえに——あまり使わない形態であった。だが、今は全体攻撃を要するとして変化させたのだ。ひょいと持ち上げ、くるりと舞う。振袖が風に靡き、まるで巫女のようだった。幻想的な舞いから最後にノルネンを天に掲げる。
「————運命聖杖ノルネン<スクルド>、"ムーン=ルミナ"!!」
声を張ったと同時に、太陽を覆っていた雲の上隙間から何故か月光が漏れ出し始めた。昼間とは思えぬ幻想的な景色だ。それを怪しく感じた輩が物陰から姿を晒す。晒した老若男女の村人が次々に苦鳴をあげた。
————"レ・ラクリスタル"同様<スクルド>専用魔法である"ムーン=ルミナ"は月光を呼び出し、邪なるものを浄化する。同じ聖なる魔法、第四階位に位置していた。つまり、"レ・ラクリスタル"とほぼ同位の上級魔法なのだ。
苦鳴をあげた村人が次々に光に包まれ、爆ぜる。一瞬で光の粒子となり、空気中の塵となって消え失せた。一秒も無い、本当に刹那的なものだ。
「やっぱりな」様子を見たクラウドが声を漏らした。「村人はもう人じゃねえってことか」
言った矢先に、眼前に穂先が飛び込んできた。クラウドは左手を伸ばす。目掛けてきた槍を瞬時に刀で弾き返した。大気が凍る。お下げのラズリ種の少女が凍結し、落ちた。
「"ムーライト・グローリー"!」
ノルネンを頭上で旋回させる。御来光の太陽の光が月光に変わり、燦然と降り注ぐ。凍った少女が光で溶けた。フォルセティは吐き気を催した顔をしている。嘔吐の呻き声を漏らしながら、口に手を当てている。
「シャキッとせい!!まだまだだよ!」
メリッサが青ざめたフォルセティの背中を強く叩いた。同時に草葉の陰から無数の人間が飛び出す。クラウドが二等銃から弾を発車、同時に左に持つ刀を振るう。大気を凍らせ、華麗に剣戟を繰り出す。隙からメリッサがノルネンで突く!顎鬚の大男が覆い被さってきた。少女はブーツで腹部を蹴り上げ、バク転、着地と同時にノルネンを<ベルザンディ>に変え、よろめいた大男の躰を振り払った。
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