ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Veronica -オリジナル募集中- ( No.31 )
- 日時: 2011/01/10 14:30
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 7Qg9ad9R)
- 参照: We Shoudn't relate to people sepurficially.
「いやー、いやいやいやいや」
人に見つからない、狭い路地に入りこんだ二人と一匹。少女は漸くフリッグから手を離した。
「一体、何なのさ」
眉間に思いっきり皺をよせ、睨みつけるようにしてフリッグは訊ねる。
「ホラ、『旅は道ずれ、世は情け』っていうでしょー?あの場に居合わせたんだから、一緒に行くってのが普通じゃん?」
ふふん、と得意げに少女は鼻を鳴らした。身長一六〇センチのフリッグに対し、彼女は五センチほど背が高いようで、妙に彼を見下したように見ている。———実に不愉快だ。
「アタシ、メリッサ。メリッサ=ラヴァードゥーレ!
名前長いからさ。<Melssa>を略して、<Mel>———メルでいいよ」
宙にスペルを書いた後(のち、)メリッサはウインクし、一回くるりと回った。しかし、依然としてフリッグは眉間に深く皺を掘ったままである。
「……マイクロウィルス?」
「何でそうなるのさ」
メリッサは舌打ちした。
「By the way…ところで、何で僕を巻き込んだわけ?」
眼の前で子竜と戯れる少女に、ぶっきらぼうな言い方で訊いた。少女は軽く無視したので、怒ったフリッグは少女の腕を思いっきりつねる。
「痛いっ!ったく、乙女の体に触るとか失礼極まりないなぁ」
失礼極まりないなど、此方の台詞(セリフ)だ。一体奴の行動に何度苛々させられているのか。
「少し黙れ!ポチも遊ぶんじゃない!」
まるで怒り狂う子供のように、顔を真っ赤にした。フリッグはポチの尻尾を掴むとそれを思いっきり引いた。
ポチが悲鳴を上げる。そんなことなどお構いなくフリッグは尻尾を掴んだまま自分の方に引き寄せたポチを睨みつけた。
流石にポチも怒ったらしく、フリッグ目掛けて一筋の紅い炎を吐いてやった。それは彼の髪の毛の先を焦がした。フリッグの負けず劣らず、掴んだポチを、鞄を振り回すかのように振り回してやった。 暫くして、眼を回したポチはぐったりと首を垂らした。
「こっぇえー…。イヤァ、大人しい奴ほど怒らしちゃイケナイってのはこういうコトかあ」
その光景を見ながらメリッサは勝手に感心していた。が、流石にフリッグに睨まれると黙りこみ、姿勢を正した。
「何で僕を巻き込んだのさ。君は……泥棒?」
「うーんっとねぇ…」少女は急いでフリッグから眼を逸らす。「巻き込んだのは、ホラ…近くにいたからで〜……。泥棒じゃなくて、そこにお金があったから…」
痛い言い訳である。
「ホラ!『我思う、故に我あり』って言うじゃん?だから、アタシは『我盗む、故に我あり』ってのをモットーとしていて…』
———それは泥棒だということを認めているんじゃないのか。
外見では見下されているフリッグだが、心の中では思いっきり彼女を見下してやっていた。
そういえば、先程逃げる際に彼女が出していた<運命聖杖ノルネン>というものは彼女の手から消えている。逃げている最中に、ふっと消えていた。それも、もしかたら盗品なのだろうか。そう思い、フリッグは訊ねた。
「さっきの杖———運命聖杖ノルネンって言うのは?」
「ああ、コレ?」
メリッサは右手に杖を出してみた。
「………それも盗品か」
ふっ、と見下したかのようにフリッグは嘲笑する。メリッサは顔を真っ赤にし、
「違う、それは……多分違う」
と叫んだ。その反応を見る限り———恐らく盗品だろう。
「普通に市場で売買出来るような物じゃないようだね」
「んー。そうだねえ。こーやって自由に出したりしまったり出来るってのは市場に売ってるものじゃあり得ないし。ちょっとしたところで手に入れた、アタシの相棒、かな」
手から杖を消すと、メリッサは再度フリッグにウインクした。どうやらこの少女はそのような行為を非常に好むらしい。
「———見る限りさ、アンタも唯の少年って訳じゃなさそうだよね」
急にメリッサはフリッグの姿をじろじろと見始めた。
「何さ」
「よし、決めた!」
フリッグなどにお構いなく、彼女は自分のペースで進めているようだった。腕をポンと鳴らし、フリッグの顔を改めて見て、言った。
「アンタ、暫くアタシに付き合ってよ」
* * *
———まただ。
隠れるように寝転がっていた大樹の根から、男は起き上がった。額には汗が滲んでいる。銀髪を掻きあげ、ぜえぜえと荒い呼吸を整えた。
———またあの夢だ…。
鬱蒼とした森林の中、周囲に響き渡る魔物や鳥、動物の鳴き声を耳にしながら男は眼をあける。カーネリア種独特の深紅の瞳が鋭く光った。
「———我輩はどうしてあの夢ばかり見る。関係など無いのに…な」
低い声で男は呟いた。毛布代わりに体に掛けていた皮ジャケットを着て、森の奥深くへと歩き出す。
「——————やぁーっと、見つけたわ」
軽快だが、何か不安のある青年の声が森に響いた。男はその声に瞬時に反応し、振り向く。
「ジェームズ・ノットマン。カーネリア種、二十二歳、えぇーっと…」
ウェスウィウスだった。くしゃくしゃのメモ用紙を見ながら頭を掻き、男をちらちらと見ながら独り言のように喋っている。
「やっぱりお前がそうだよな、ウチんとこの兵士殺って回ってる奴ってのは」
ウェスウィウスは銃を、ジェームズと呼んだ男に向けた。銀の銃口がジェームズを捉えている。
「ああ、俺も名前名乗った方が良いか…?俺は———」
ウェスウィウスが名を言いかけた瞬間にジェームズから一枚のトランプが投げられた。それはウェスウィウスすれすれの、顔のすぐ隣の樹の幹に刺さっていた。
「———帝国の奴に興味などない。取り敢えず死ね」
「マジかよ」
殺意むき出しの男にウェスウィウスは焦りを隠せないでいた。出来れば奴は殺したくないものである。
「止め、だ!」怒鳴るように声を上げ、青年は銃をホルダーにしまった。「お前とは戦えない!」
「貴様は…何だ。言ってることやっていることがコロコロと変わって不愉快だ」
ジェームズはトランプを持ち、投げようと構える。
「———どうせ、お前みたいな奴を説得する奴が現れると思うからさ。ソイツに無理矢理まかせてみようかと思って」
ウェスウィウスはジェームズに二コリと笑って、もと来た道の方を向いた。背中を向けながら言う。
「じゃ、また会えれば良いけどな…今度は出来れば味方同士、で。
—————————殺さないでくれよな」
「意味不明な奴だ」
仕方なくジェームズはトランプをしまう。別に自分に敵意を向け、攻撃してこなければ殺す必要もない。自分だけ良ければいい、というのが彼のポリシーなのだから。
ウェスウィウスが立ち去ったのを確認すると、ジェームズは森の奥深くへと入って行った。
「あ"ーっ…死ぬかと思った」
ジェームズと別れた直後にウェスウィウスから漏れた第一声は、これだった。
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