ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Veronica  -オリジナル募集中- ( No.32 )
日時: 2011/01/10 14:35
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 7Qg9ad9R)
参照: We Shoudn't relate to people sepurficially.

* * *

『どうしてあんたなんかに付き合わなくちゃいけないのさ』


不服そうにし、去ろうとするフリッグをメリッサは彼の服を掴んで止めた。

『アタシの本職に付き合ってよ〜!追われてるしさぁ…。困った人を助けるのは、ホラ…道理じゃん?』
 


 数十分前、突然メリッサは遠出する支度をして来いとフリッグに命じた。

訳も分からないまま、ベテルギウスに戻り自分のリュックサックを持ってきた。コレットには取り敢えず出かけておくとだけ伝えておいた。

ウェスウィウスが来ようが来なかろうがもうどうだっていい。ウェロニカと接触したのだから。



 彼女のことなどどうだって良かったのだが、どうも断る気にはならない。何か、彼女は知っている気がしtならなかった。少しぐらいなら付き合ってもいい気がする。



 そして少年と子竜は、メリッサに自分の名前を名乗ったのち、強引に駅へと連れられ、列車に乗せられた。




 * * *



 永雪戦争。帝国エターナルとネージュ王国による二次にわたる戦争の事だ。

国境にあるネージュのスノウィンという集落に帝国が攻撃を仕掛けたことにより勃発し、十五年前に漸く終結した。その戦争が人々に残した爪痕は大きい。ウェスウィウスが受けている傷もその一つだった。


「一般的には、産業革命で飛躍したネージュに危険を感じてたたきつぶしに行ったとか、スノウィンの領土が欲しかった———って言うでしょ?
でもねえ、ほんとは違うらしいんだよねぇ」
にやにやと黄褐色の瞳を光らせながら、メリッサは喋っていた。

「スノウィンには、古代に繁栄していたジェイド種の残した強力な武器があって、それを使って世界征服を企んでたってワケ。だから、二度にまで渡って侵攻したんじゃないかって一部では考えられてるらしい」
「ジェイド種?」

眼の前の席に座り、饒舌に喋るメリッサにフリッグが訊いた。


「翡翠の種とも言うんだって。翡翠の様な瞳に暖色の髪を持っていて、最大の特徴は"絶対音感"っていう、聞き取った音を武器化する特殊な能力を種族全員が持っているってことらしいの。

その能力のおかげで古代では世界の覇者として君臨してたんだけど、流石に不満を募らせたジェイド種以外の種族が一致団結して、戦争、弾圧———最終的には種族根絶やしにされたらしいんだよねえ。滅びたのは———今からえっと、大体千年くらい前かな?」




 "何故なら我ら翡翠の種が再び繁栄する時代が来るのだから"



 "我ら翡翠の種が再び世界に君臨するのだ!"



あの日の"オジサン"の言葉が、フリッグの中で何度も繰り返して再生された。リピートを切ろうとしても流れ続ける。



「アレ?そういえば、フリッグってエメラルド種?
今、ジェイド種について話してたらどうも特徴が似てるような気がして…」

メリッサの言葉に、はっと現実に戻された。頭の中の声が止む。


「メル………。実は、分からないんだ」

俯きながら、低く小さな声でフリッグは答えた。

「———は?」
「今、メルの言ってたジェイド種の特徴全部に僕は当てはまる…。エメラルド種とは違う、深い緑の眼だし、橙色のかかった金髪だし———聞いた音を操る能力がある」


「なっ、何いってんのさ!生き残りなんて確認されてないし、滅びたのは千年前!!そんな訳無いじゃん、気の所為だよ、気 の せ い!!!」

声を荒げながらも、メリッサは優しくフリッグの肩を叩いていた。

「———強力な武器って…何?」ふとフリッグは訊ねた。「メルはそれを探しに行くのに、僕を連れていくの?」


「先ず第一の問いの答え。強力な武器ってのは、アタシの持ってる運命聖杖ノルネンもそう」
メリッサはノルネンと呼んだ杖をまた出した。


「ジェイド種の"絶対音感"で作りだした、人の常識を軽く超える武器———"神器"の一つ。
コレは、帝国の南方にあるアースガルドっていう国のとある遺跡から入手したヤツ。全部で三つの形態があるらしくてさっき逃げる時使ったのは過去の状態に戻す<ウルズ>って形態。気付いてなかったと思うんだけど、動けなくなった人たちは動けなくなる直前の行動に戻って止まってたんだよねぇ」


思い返してみれば、あの者たちは止まった時に一歩程度下がっていたような気がする。
「それじゃあ、アンタはその"神器"っての探しに行くんだ」
「いーや、違うよ」
琥珀の瞳が怪しげな光を纏った。




「アタシの正体は賞金稼ぎ。とある賞金首を追ってる。
一人じゃ倒せそうにないから、偶然会ったアンタを連れてくのさ!」

 つくづく、とんでもない女であると思う。


* * *


———『来るなっ!忌み子(いみご)が!!!』

投げられた石礫(いしつぶて)が頬を掠めた。妙にそこがすーすーするのは血が出ているからだろう。

『お前みたいな奴が此処にいるんじゃねえ!!!』
力強い拳(こぶし)で強く躰を殴られた。宙に飛んだ小さな躰は雪の中に埋もれる。

『帝国人が此処に居る場所なねえんだよ。早く消えろ!!!』

そう罵った後、辺りは静かになった。子供の躰は雪の中に埋もれていたため、音しか聞き取る術は無かった。



———なんで?



起き上がった子供は、灰色の雪空を見上げた。

『なんで、みんな僕をなぐるの———…』
———ああ、コレの所為だ。

子供は右目に血のにじんだ両手をやった。


『この紅い眼の所為なんでしょ!!!!!!』

あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!獣のように咆哮した子供は右目を抉(えぐ)ろうとした。


———こんなもの、要らない!


同じような紅い眼をしていた人が、自分の周囲の者たちを殺していた———。同じなんだ、自分はそいつらと同じなんだ!!!

父さん、父さんそうなんでしょ!?僕も同じなんでしょ!!!!






『ウェス!!!止めなさいッッ!!!!』



 女性の叫び声がした。その声に気付き、子供は先程までの行動をぴたりと止めた。

 子供に近づいた女性は、子供の小さな両手を持ち、その後そっと躰を抱きかかえた。

『だめでしょ…ウェス。そんなことしちゃ……』
『母さん——————』

子供の両目から、涙が流れた。抉ろうとした右目は無事だった。


『ごめんね、ごめんね———』

母と呼んだ女性は、抱きしめながら泣いていた。


 "ごめんね、ごめんね、ごめんね——————"





———右目が、痛い。

ふと右目に痛みを感じたウェスウィウスは起き上がった。ジェームズ・ノットマンを逃がした(逃げたとも言う)後、彼は自分の家に戻って寝ていた。痛みを感じる右目を右手で抑える。


 昔の夢を見たようだった。自分を嘲笑するように、笑みを浮かべた。嗚呼、あれから一体何年経つんだろうか。


「———くそったれ」

 思わずそんな言葉が零れた。

 多分、それは自分の"故郷"に向けて放った言葉だった。


———ウェル、お前今どこに居る…?お前今何してる…?


 父母を同時に亡くしたあの日、強く握りしめた妹の小さな手のぬくもりは忘れない。これから自分は、この小さな妹を守ってやらなくてはならないのだ。


 そして、何も言わず、泣きもせず、ただ真っ直ぐと現実を見ていた"弟"の躰を引き寄せ、頭を撫でた事も忘れない。———お前は、迷惑をかけないようにとこらえていたよな。

 フリッグには、話さなければならないのだろう。ウェロニカが如何なっているのか、そして彼女と自分たちとの関係を。
 

 いつまでも、逃げているわけにはいかなかった。

 明日、また明日と自分はフリッグに会うのを先延ばしにしている———早く言ってやらねば。

 彼(か)の賢者、アルヴェルド=ケイロンはこう残している。


 "真実は、時に残酷である。
  
 しかし、それを受け止めるものと受け止めないものによって大きく運命は変わるものなのだ"、と。


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