ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 【Veronica】 *参照3000突破、有難うございます! ( No.325 )
日時: 2011/09/19 17:10
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: .WzLgvZO)
参照: 相当久しぶりに更新。


 シギュンの水晶が停止するメリッサを捉えていた。すぐに【愚者】も目を向けた。悪寒が背中を一筋に走る。指先が小刻みに震えている。

————ああ、もう!

またか、と本当に呆れるのだ。ノルネンを握り締めた。巨大化させ、<ベルザンディ>を構える。ブーツを奏で、後ろへ下がった。
 同時に起き上がったシギュンが急接近する。二刀流から繰り出される斬激を、再度杖の柄で防いだ。<ベルザンディ>の巨大化した尖端を振り下ろす。が、突如現れた壁に阻まれていた。
「ウッそ!」
驚嘆の声を上げたと同時に、壁から現れた柱に躰を押し飛ばされ、堕ちる。十二神将————【愚者】のロキが目映い光を放つ指輪を嵌めた手を、地面につけて厭らしく笑んでいた。

————どや顔ウッザ!

人を見下すようなほくそ笑んだロキの顔に強い嫌悪感を感じ、舌打ち。瞬時に手を付き、体勢を立て直した。
「おー、おー、おー」ロキは拍手をしながら口を立てに開き、賞賛。「なかなかやんネェ」
「嬉しくないっつの」
半目でメリッサは返す。相変わらず不愉快だ。ロキの周囲で羽ばたいていたポチがメリッサの元に帰る。彼女の肩に降り立ち、紅い眼光を飛ばした。【愚者】は涼しげな顔で流す。

 ぜえぜえという荒い呼吸をまき散らせながら、メリッサはじりじりと後退する。ハッキリ言って——認めたくないのだが——今の状態では明らかに此方が不利であり、勝ち目はない。十二神将【愚者】とその手下であるシギュン二人を相手にするには、無理に近かった。そう思えてくると、段々背中が心細くなってくる。巻き込まれながら、何だかんだ言って今迄一緒に行動してきた"アイツ"の居ない状況が、此処まで寂しさを生み出すなどメリッサは考えても居なかった。首を横に振り、振り払う。しかし、背中の不安さは取り除かれない。

————なんで、居ないのさ。

知らず知らずのうちに頼っていたのだ、と。眼もとに涙の国が生まれようとしていた。が、堪える。ぎゅっと歯をかみしめ、堪える。涙ぐんでいたメリッサの背中に衝撃が走った。攻撃か、と振り向くと、其処には栗毛の少年の姿とフードを被った青い青年が居るだけで、敵の気配は無かった。その姿を捉えた事に、ほっと安堵し、気が緩む。メリッサの背中に激突して落ちた二人に手を差し伸べた。——フォルセティが苦痛にゆがんだ表情をちらつかせながら、手を取る。

「なあんだ」立ち上がった二人を一望し、少女は腰に手を当てた。「これで形勢逆転に回るじゃん」
「————ハァ?」
メリッサの妙に上から目線な物言いにクラウドは怪訝な表情になった。

 フォルセティにクラウドと、これでメリッサを入れれば三人になる。ついでにポチことティアマットが入ればプラス一匹と、二人の相手には優勢になった。先程まで諦めかけていた顔が一瞬で不敵になる。振り向き、ロキとシギュンに琥珀玉の煌めきを飛ばしながら、
「これでちょいとアタシんとこに優勢になった感じだよね?」
と挑発交じりの言葉を飛ばした。その表情、言動にロキは可笑しくなり、腹を押さえて哄笑し始めた。一人、爆笑する彼をその場にいる彼以外の全員がそれぞれの眼で見つめている。クラウドとフォルセティは来たばかりでまず周囲の状況が分からないので、ただ見つめているだけだ。メリッサは不審な目で見た。ポチは、この男なら仕方ないと郷愁に当たりながら呆れた目でいる。シギュンは何を考えているのか分からなく、ただ茫然と彼を見ているだけだ。

「なっにがおかしいのさ!」
爆笑して居るロキに腹を立てたメリッサが罵声を浴びさせた。が、ロキは手を上下に振りながら、涙ぐんだ翡翠の眼で、まだ(笑)に浸りながらメリッサに返す。
「いやいや、本当に自由奔放な人間だなって思ったわけよ」
ロキの返事に少女は不快な気持になった。ボコ殴りにしてぶっ殺す!と心の中で掲げ、運命聖杖ノルネンを握る。形状は<ベルザンディ>————撲殺するには打ってつけだ。
「それで<ベルザンディ>と来たもんだ!」
ロキは<ベルザンディ>に指をさしてげらげらと下品な笑い声を上げる。その言葉はポチに飛ばされていたようで、彼女は呆れ顔のままロキに律義に帰してやった。
『性格もベルザンディに似ているだろう』
「ああ、そっくりだ」目尻の涙を拭き取り、ロキは続ける。「まさかあの年数単位で、此処までアイツに似ている餓鬼がノルネンを使うなんて思わなかったわ」
『ウルズやスクルドに比べると、メリッサは断然ベルザンディに似ているからな。生まれ変わりではないかと一瞬思ったわ』
「俺もそうじゃねえかなーって思い始めた。どうも昔の姿にダブりやがる」
何故か二人、妙に仲良く会話にのめり込んでいる。会話の中心に誰が居るのか分からないが、兎に角あまり気分のいい会話をされていることは無いと思ったメリッサは足に力を入れ、跳躍。ロキの頭上に舞い上がり、ノルネンを下に向け急降下した。重力に従い、スピードを上げる。位置エネルギーの作用によって威力が倍増——という理論まで彼女の頭になかったのだが、兎に角降下した。動作は素早く、秒単位の世界だ。

 メリッサの動きに気付き、ロキが指環を光らせる。地面に手を突き、彼女が降りてくるより前に壁を作った。彼とメリッサを阻んだ壁は、<ベルザンディ>の増加した破壊力によって打ち砕かれる。そのままロキの頭蓋間近まで攻め寄った。
「マジか!」
壁で防げると思ったロキは誤算を悔やむ。彼は今どう頑張ってあがいても、メリッサの打撃攻撃を防ぐことは出来ない。
「うるっせぇやい!」
子供の様に怒鳴り散らしながら、メリッサの攻撃がロキの頭蓋に激突した。骨が砕け散る音がし、彼の耳孔、鼻腔、口腔、眼孔からは液体が噴き出す。血液に脳漿に砕かれた頭蓋の破片が含まれ、飛び散る。

 地上にとんと足を突き、どうだと言わんとばかりの表情で倒れゆくロキとそれを茫然と見ているシギュンを見た。が、シギュンの表情は何も変わらない。彼女の心の水面は波紋さえ無かった。静まり返った水面で、メリッサに向かい、
「————余裕でいる暇はありませんよ」
と静かに言った。その言葉はあまりにも謎めいていて、メリッサに理解は出来ない。「なんで?だって死んだでしょ?」と心の中で抗議する。その言葉は口から外へ出る事は無かったが。

 シギュンは落ち着いた表情のまま、メリッサの後ろを指差した。その先を見るよう、彼女は振り向く。倒れていたロキの死体に、飛び散った血液やらなんやらが戻っていき、彼の中に落ち着く。その異様な光景に唖然としているうちに、ロキの躰が起き上がった。彼は肩に手を当て、回しながら欠伸をする。
「一回ヘルの件で体験してるから分かるもんかと思ったけど、そもそも知らなかった見てえだな。——なんで教えなかったんだ、ティアマット?」
肩まわしをしながら、ポチに振る。ポチは複雑な顔で俯き、低く唸った。
『忘れていた訳だ』
「ま」【愚者】は実に軽々しく繋ぐ。「そりゃあ、おばあちゃんだから仕方ねえか」
また二人の間で会話が展開している。置いてけぼりであるフォルセティもクラウドも、メリッサと同じように茫然自失としていた。が、メリッサは先程の光景に似たものに見覚えがある。——マックールでのヘル。彼女もまた、貫かれても平然としていたのだ。そしてそのヘルの名前がロキの口から洩れている。

 琥珀玉をいびつに輝かせ、悔しさをかみ殺しながらメリッサは訊ねる。
「アンタ、ヘルの事知ってんの?もしかして十二神将っつーのは、不死は訳?」
十二神将【ロキ】は舌を鳴らしながら、立てた人差し指を左右に振った。音を二、三回奏でた後、人を小馬鹿にした様な目でメリッサの問いに答える。
「うちの娘だ。でも十二神将全員が不死って事ぁネェ」
「むす……————」
唐突な真実に一瞬たじろいだが、踏み切る。足をより深く地面につけるつもりで力を込め、整然と立った。

「つまり巨人族か何かという訳ですね」

少年の声がその場の空気を貫いた。その言葉にロキは目を見開いた。フォルセティが整然とした態度で、メリッサの隣に着く。
「今の現象は不老不死を特性とする巨人族の再生時に起こるものだと思われます。貴方と、その娘であるヘルという十二神将は世界三大人外種族の一つである巨人族に違いが無いと思われます」少年はポチにつなげて訊く。「違いますか、ティアマット?」
竜は、わっぱに呼び捨てされたのが妙におかしかったのか、低く笑いながら答えた。
『そうだよ』
「うっそ、聞こえんの?」
メリッサには聞こえないポチの声がフォルセティに聞こえるようなのが、彼女には気になって仕方ないらしい。今の状態でも、そちらの方に驚いている。フォルセティは白い眼でメリッサを見た。
「何となくわかるだけです。——人が竜と意思疎通なんて。そうそう出来ないでしょ」
「あ、そ」
大人な対応で返すフォルセティに、メリッサは項垂れる。まるで年齢が逆転したような状態にクラウドは笑いをもらした。幸い、それは二人の耳に届かなかったらしい。


「ま、そういうこっとで」鼻歌交じりのロキは、両手から十字に組まれた双杖を出現させる。「俺には攻撃が利かないってわけよ」
「オカマみたいでキモいんだよ」
不敵な表情のロキに対し、メリッサは嫌悪を露わにして怒鳴った。ロキはそれに対し、平然としている。
 シギュンもナイフを構えた。少女一人に敵は勿論任せないので、クラウドとフォルセティも戦闘態勢に入る。ロキは双杖を重ね、金属音を奏でた。


「さあて、この劫焔者レーヴァテインで丸焼きにでもなって貰おうかね!」


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