ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 【Veronica】 *参照3000突破、有難うございます! ( No.342 )
- 日時: 2012/01/07 17:43
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: ikU9JQfk)
- 参照: 貯めていた分を一気に更新(おい)
* * *
乱暴に体躯が雪面に叩きつけられる。喘ぐような悲鳴を上げ、ユールヒェンの華奢な体が雪の白に紛れた。それを見下すように、二人の男が仁王立ちで居る。すぐさまに、少女は上体を起こし、琥珀の眼光で二人を睨みつけた。
「何の用事」少女の青白い唇が微量の音量で言葉を奏でた。「即急に言って」
「誰に物を言っている?」
二人のうちの一人であるラピス種の男は卑しい笑みを浮かべ、彼女の灰色の髪を掴んだ。ぐい、と顎を引きよせ、顔を急接近させる。威圧感を出していたつもりだった。が、ユールヒェンはその顔に唾を吐き捨てた。その態度は凛としていた。あごひげを生やした逞しい肉体のその男は、青筋を立てたが、それ以外は一切怒りをあらわにしなかった。掴まれたままのユールヒェンは冷静に淡々と言葉を紡ぐ。
「殺すなら殺して。何をするか知らないけど、早くして。……時間がかかることは嫌いだから」
「良く言う女だなァ」
「……゛無駄゛と言う二字熟語が嫌いなの」
そう言ってユールヒェンはふい、と顔をそらした。その態度に男は再度顔を向けさせる。眉を顰め、不愉快な気分を丸出しにしたユールヒェンが
「淑女(レディ)に対して名を名乗ることはしないのね」
と挑発的に言う。男は大きく笑ってから、
「淑女なんてお前の様な小汚い奴が言うなよ」
と大きな声で答えた。それでも彼は律義なようで、言葉の尾に「ザグレヴだ」と付け足した。
「そう」
少女は淡とした言葉だけを返す。ザグレヴは彼女の態度が気に食わないようで、また少女を雪中に叩きおろした。今度は先程よりも強かったようで、衝撃が走った体を直ぐに起きあがらせることは出来なかった。少しして、体が感覚を取り戻してきたところで起き上がろうとした彼女をザグレヴの巨体が覆いかぶさった。彼女の黒いインナーを乱暴に掴む。一瞬動揺したように眼球が揺れたが、少女は直ぐに気持ちを落ち着かせ、また冷静に言い放った。
「殺すなら早くしてよ」
むっとした表情の彼女には恐怖の色が無かった。それがつまらないザグレヴが少女の頬を殴りつける。それで小さく呻いた彼女を、もう一発殴った。頬を赤く腫らし、口元から一筋の血液を流しながらのユールヒェンの上に馬乗りになる。
「可愛げが無いな!」彼は銅鑼声で罵った。「他の女はまだ泣き叫ぶぐらいはしたのによお」
「ザグレヴ、それは死神だから常識は通じねえよ」
ザグレヴと一緒にいた男が苦笑いをする。彼はこけた頬を温めるように手で擦りながら、大男の下にいるユールヒェンを見た。ザグレヴとは対照的に、細い男だった。
「それでもアグラム……」
ザグレヴが一瞬下品な笑みを浮かべた。と同時に、彼女の黒い衣服を引き裂く。
「ッ————!」
予想だにして居なかった事態に彼女の顔に焦燥と恐怖が現れた。露わになった少女の白い肌は、周囲の雪と同化するくらいに白かった。アグラムと呼ばれた痩せ男は察したようで、無言で顔をにやつかせながらにザグレヴに近づき、ユールヒェンの頭を手で押さえた。彼女に身動きできないようにしたのだ。
「゛極寒の白い死神゛と謳われていても所詮は女に変わりねえ」
そう言って彼は更に彼女の纏う衣服を引き裂いていく。流石に危険を感じたユールヒェンが叫んだ。
「殺すんでしょ !? 何をするの!」
「そりゃあ、勿論殺すが、その前にお前が人間の女かどうか確かめるんだよ」
土の様な肌のアグラムが唇を吊りあげた。
「どうせ殺すんだ。その前に凌辱して孕ませたって誰も文句は言わねえさ」
ザグレヴも卑しい笑みで言う。抵抗しようと少女が激しく体を振った。が、大人の男二人の力によって抑えつけられる。それでも抵抗を続けた。体に触れようとしてくる、自分に覆いかぶさっているザグレヴの局部目掛けて折り曲げた膝をぶつけた。上手い具合に当たったので、彼は痛みに悶えた。そのすきに逃げようとしたが、頭を抑えるアグラムに殴られ、そのまま雪中に浸かった。
「ンの餓鬼ィイィイイ」
阿修羅のごとく、酷く憤慨した形相のザグレヴが少女を抑え込み、首を絞めた。圧迫された喉が呼吸を困難にさせる。苦しむ彼女の腹を、ザグレヴが折りたたんだ膝で蹴った。それだけではない、アグラムも彼女の顔を殴りつけた。二人による暴行は絶えることなく続く。
————死ぬなら、これで良い。
遂に走馬灯が見えるのではと思えるくらいに意識が薄れていた。ユールヒェンには、きっとこれは自分に与えられた末路だと感じられた。殴る蹴るだけの暴行の末に死ぬのなら良い。凌辱の様な事をされて死ぬよりはましだった。
「死ねよ、死ね、死ね、死ねええええ」
口から涎を垂れ流しながら狂ったようにザグレヴが連呼する。しかし直後、その動作を拒むように何かがザグレヴとアグラムの体に衝突した。その衝撃はあまりにもすさまじく、彼らの体をユールヒェンから引き離し、雪中へと叩き落とした。——げほげほと咳き込みながら起きあがった少女の眼に入ったのは、翡翠の眼をぎらつかせながら立つ、飴色の髪の少年の姿。
「大の男二人で抵抗も無い少女を犯そうとして暴行するなんて情けないじゃないの?」
フリッグは不敵な笑みを浮かべて立っていた。ユールヒェンの様子を見て直ぐ様に彼は彼女に駆け寄り、自分の上着をユールヒェンに掛けた。そのまま彼女を護るように前に立ち、二人を見下ろす。
「てめえ、あのときの…!」
そう言いながら二人は散弾銃を手におさめる。そして一斉にそれを乱射した。が、フリッグの前になると何故かそれらが反射して、地面に落ちる。まるで少年の前に何か見えない防壁があるようだった。
「————掴まって」
フリッグがユールヒェンに手を伸ばす。恐る恐る伸びた彼女の手をフリッグはしっかりと掴み、それから流れるような動作で彼女を背中に背負った。予想してなかったユールヒェンは動揺を見せたが、抵抗する気力は残っていなかったので彼の背中に大人しく収まった。
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