ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Veronica  -オリジナル募集中- ( No.38 )
日時: 2011/01/10 14:39
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 7Qg9ad9R)
参照: We Shoudn't relate to people sepurficially.

* * *


「———賞金…稼ぎ?」


フリッグの頭上にクエスチョン・マークが並んだ。


「今風に言えば、"バウンティ・ハンター"!」
「泥棒じゃないの?」

得意気に白い歯並びを見せ、ピースサインをしているメリッサに、少年は容赦なく言葉を浴びさせた。その言葉にがくっくりと肩を落とす。


「ノット泥棒!アイ アム…バウンティ・ハンターァァァ!!!」
メリッサはフリッグに怒鳴り散らした。何故泥棒だけが日本語なのか———意味不明である。


 賞金稼ぎと言われてもピンと来ない。特に、目の前にいるメリッサ=ラヴァードゥーレというこそ泥のような少女がそれを名乗るとは冗談以外の何でもない。



「アンバー種はそういう人が多いらしいんだよね」
皮肉っぽく、少年は言う。

束縛されることを嫌い、決まった国家も持たないアンバー種は、大半が旅人や商人であることが多い。

今の説明は大まかに二種類に分けただけだが、細かくすれば"旅人"の中には"傭兵"、"賞金稼ぎ"等と言うものも含まれる。

しかし、アンバー種全体に共通するのは、"どれも金絡み"と言うことだ。



 今まで通り、冗談混じりな反応を期待していた。人をこのようにからかうのは悪いことだがフリッグの癖だった。———悪い癖である。


 しかし、少女の反応は違った。


「———そんなの偏見だね。ウチラのコトなんて、何も知らない奴に分かったように言われたくない」

そう言ってから、メリッサは何も喋らなくなった。———まずいことを言った、と反省し謝罪したかったが、とてもそんなことをさせてくれるような空気ではなかった。




 それから数時間、ひたすら一定の機械音がするだけで、何の会話もないまま列車は走っていた。



* * *


 迫害されていた。


 何千、何百年もの長い年月の中、全く敵視されなかったという時間など一回だけである。———ジェイド種に対して全種族一致団結した時のみだ。

———どうして国などという狭いものに縛られるのか。

———どうして種族などという、色水に惑わされるのか。


 人種など、色のついた水に過ぎない。根本的には同じものではないのだろうか。



"世界"に不満を感じていた。



 だから、その種族は自由を欲した。



 だからだろうか。幾度となく、国家に、世界に利用され捨てられた。幾つもの汚名を着せられ、罪を着せられ、迫害された。



 "まるで道具のように"。




「そのうち、アタシらは目に見えるものしか信じられなくなっていったんだよ。———なんか文句ある?」



 閑散とした風景の中に電車から降り立つと同時に、メリッサは言葉を発した。今までの明るい声ではない、。まるで別人のように、背中をフリッグに向けて喋りかけていた。



「暗いのは、嫌いだ———けど、アタシ達にも誇りってのがある。だから…」

「——————ごめん」

フリッグは深く頭を下げた。自分の発言は、謝るだけで拭えるものではない。深い傷をつけたのだ。壊すことは簡単でも、直すのは難しい。元の形に戻ることなんて殆どない。


「軽率…だったよ」
「ごめんですむならポリスは要らないっつの」

少女は足元の小石を蹴り上げる。砂埃が舞った。ぶっきらぼうな言い方に、怒りが見え隠れしている。

「———うん、分かってる。
ごめんでなんか決してすまない———だから、僕、そのお詫びにメルの都合に付き合うよっ……!」

心から謝罪していた。申し訳なくて仕方なかった。頭を深く、深く下げ何度も謝罪の言葉を繰り返した。頭など決して上げずに。

実に軽率であった自分を精一杯嘲笑し、先程までの姿を恥じた。ポチもか細い声で鳴いた後、主と同じように頭を下げた。周囲は、繰り返される少年の謝罪の言葉以外、何も音がしていない、閑静なものだった。








「っくくく………、それ、マジだね?」
「決まってるだ—————………ろ……?」
メリッサの声に反応し、頭をあげた。少女は卑しく唇を吊り上げ、けたけたと笑い声をあげている。

それは、今まであった静寂を一瞬で破壊しつくした。



「付き合うったね、付き合うって!
よし、決定!!このままアンタはアタシに協力決定ね!今言ったこと、忘れないよォ?」
ビシッとフリッグを指差し(※人を指差してはいけません)、不敵に微笑む。

まるで、子供の様な言動と行動だ。先程とは全く正反対な態度である。



「———騙した?」

恐らくそう言い放った自分の目は死んでいるだろう。心の中でそう感じながら、メリッサに訊ねた。

少女はニヤニヤと笑みを浮かべている。そして懐から携帯プレーヤーを取り出し、再生ボタンを押した。すると、先程のフリッグの謝罪の言葉が、全て流れ始めた。———録音していたらしい。


「動かぬ証拠、獲得☆逃げる手段もナッシング!
そんじゃま、宜しくねっ」

満面の笑みを浮かべ、目の前で舞い踊る少女の姿にフリッグは唖然とした。ポチは現状を理解していないようだ。

しかし、そんな彼女の姿だが、恐らく種族意識に対しての反応は本物だったのだろう。気丈に振る舞う姿は、無理をしているのかもしれない。

きっと彼女らは、いや彼女は過去を引きずりながら生きるのが嫌いなのだろう。


「——————ふ」

思わず、フリッグの口元から笑いが溢(こぼ)れた。

「は?何、急に」
目をぱちくりさせたメリッサが不審そうにフリッグを見た。気色悪ぅーと唇を尖らせながら小さな声で聞こえないように言っていたが、全てフリッグの耳の中に入っていた。


「いや、何でもない」笑みを溢しながら少年は首を横に振る。「———さ、行くんでしょ?」

「当たり前じゃん。えーと、道中傭兵とか居たら雇わなきゃかな、一応…。あー…」

懐から出した財布と睨めっこをしながらぶつぶつと言う。そんなメリッサの腕を掴み、フリッグは前に歩き始めた。




「やっぱ仲間は居るべきだよね!一人じゃ殺されるかもしんないしさァ」

引っ張られながら、悠長に少女は言った。半ば強制的———はめたくせに、何を言っているんだとフリッグは不満を募らせたが今更言っても仕方ない。

「行くんでしょ?」
「もち ろんっ!」

ぶっきらぼうに訊ねるフリッグに対し、メリッサはウインクをして答えた。それから暫く周囲は少年少女の喋り声に包まれ、騒々しかったが、やがて二人が森に入ると、それと同時に音は何も無くなった———。




* * *


「アンバー種と、竜族と……エメラルド種———か?」

長身の男が、森に入っていった者たちを見届けたあと、呟いた。黒いコートを纏い、大剣を担いでいる。

———面白そう、だな

 鮮やかな蒼を帯びた黒髪が風に吹かれ、煌々きらきらとしている。



 琥珀が、鋭い光を浴びて、輝いた。


<Oz.2: Norn-運命の女神と混乱の関係-  Fin>