ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Veronica ( No.64 )
日時: 2010/12/17 21:41
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 7Qg9ad9R)
参照: 黄身のそばに居るよ、それが優しさなら

* * *

「———やあ☆」
薔薇柄のティーカップを片手に高級そうなソファーに掛けているフレイが扉を開けた瞬間に眼に入ってきた。ウェスウィウスは嫌悪感丸出しの表情だ。

「何だよお前。急に俺呼んで」
「いやいやぁっ!ツレないなぁっ、もう☆
出番久しぶり過ぎて嬉しいんじゃないの?」
肘でウェスウィウスを小突きながら、妙に高い声でからかう。ウェスウィウスの肩は、小刻みに震えている。現在進行形で、だ。

「確かに、久しぶりだけどよぉ……」
混血の青年の顔に青筋が立ち始めてきた。だが、構わずフレイという名の変態は続行する。
「確か、最後の出番が〜えっとぉ?Oz.2のPart4だったかな?それ以降名前がちらつく———といっても一回ぐらいしか出て無かったよねぇ。
いやぁ、いや。メインキャラ(仮)で作者にもお気に入り発言されてるのに一体如何したんだい?」
「何で知ってんだよ!!!」
フレイの発言の中に引っかかるキーワードがあったようで、とうとう我慢できなくなったウェスウィウスは変態の首根っこを掴んだ。ちなみに、身長は二人とも同じくらいである。(厳密にいえばフレイの方が二センチほど高い)
 フレイの手から、ティーカップが落ちて割れた。中に入ってた熱い紅茶は全てその男の足にかかった。ばちがあたったようだ。
「あっっつ!」流石に、これとばかりは我慢ならなかったようでフレイの表情が苦痛に歪む。「嗚呼っ———僕のホット☆ティーが!そしてカップが!あーあ…。まあ、仕方ないかァ……。
ウェス君久しぶりの出番だからね」
「だから……」
「作者情報」
ぶりっ子し、フレイはウィンクをして見せた。が、その顔に銀の筒が押し当てられる。ウェスウィウスの愛人———じゃなくて愛銃S&W M10(スミス&ウェッソン ミリタリー&ポリス)である。殺意にまみれた、阿修羅の様な形相の男は、右の深紅を少し見せながら静かに安全装置を外した。

「世界の為だ、許せ」
そう言って、引き金を引こうと指に力を込めた瞬間だった。


 眼前のフレイ=ヴァン=ヴァナヘイム(変態)が、勢いよく飛んだ。何かに飛ばされたかのように、それは飛んでいき、壁に激突して落ちた。眼鏡に皹(ひび)が入っている。割れればよかったのに、とウェスウィウスは舌打ちした。
 

 ウェスウィウスの前に、紅い流れが見えた。
 紅の髪と瞳、白いブラウスと対極的な黒のロングスカートを纏った華奢な女性———リーゼロッテ=ルーデンドルフだ。右足が上がっていたことから、恐らくフレイを蹴り飛ばした本人だろう。

「久しぶりだな、ウェス」
凛とした声が室内に響いた。鋭い紅の瞳が優しく微笑む。
「先日会ったばかりですけど、ども」
ウェスウィウスはリーゼロッテに頭を下げ、笑った。それを機に二人はにこにことし始める。

 暫く他愛のない会話をしようとしていたところに、起き上がった、復活したフレイが猛ダッシュで二人の中に強引に乱入。
「いっやぁー!私を置いて二人で仲良くするなんて、は・ん・そ・く、だよ」

 この後、二人が何をしたかは想像がつくであろう。

 素早く二人同時にホルダーから銃を抜き、標準をフレイに定め———




 



「お嬢!如何か致しましたか!!?」
乾いた銃声を聞きつけたビスマルクが血相を変えて部屋の扉を乱暴に開けた。リーゼロッテの身に何かあったのだと勝手に思い込んでいたのだが、室内に居るウェスウィウスとリーゼロッテの二人は悠長に自分の銃に付着した埃(ほこり)を拭いていた。

「………」
まさに、ビスマルクは"眼が点"だった。ポカンと馬鹿みたいに口をあんぐりと開けて、眼の前の光景をただただ眼の中に入れている。

「うむ……、やはり君の銃の腕前は素晴らしいな」
「リーゼロッテ、貴女も相変わらず凄い。尊敬します」
「はっはっは。誉めても何も出ないぞ」
「あっはっは、そうっすよねぇ」

二人とも軽快な笑い声を出していたのだが、表情が全く笑っていなかった。
 足元には、ダイイングメッセージと思わしき、"ウェスウィ…"と"リーゼロ…テ"という文字を書いているフレイが倒れこんでいた。

* * *

「撃ちこむことは、普通無いと思うんだけど」
体中に包帯を巻かれ、ミイラ状態になっているフレイは不機嫌そうに茶をすすっていた。意外にも生きていたようだ。いや、死んでしまうとこの小説の存亡にかかわるので(割愛)
 しかし、白々しく二人のガンナーは紅茶を飲んでいた。流石にその様子に変態はがくりと肩を落とした。

「しっかし、何でリーゼロッテが此処に?」
ウェスウィウスが隣に座るリーゼロッテにさり気無く訊ねた。彼女はティーカップをそっと置き、優しく微笑みかけるような表情で彼の問いかけに答える。
「うむ。合同練習で君と腕試しをしてからこの変態に呼ばれてな。そもそも、出会いというものが私がまだ共和国に居る時———つまり合同練習の前日に来ていてそのままストーカーの様についてきたのだ。そして此処に誘拐———といった感じに連れ込まれてな。
まあ、ウェス。君ともゆっくり話がしたかったものだからちょうど良い機会だったよ」
リーゼロッテのすぐ前にいるフレイの顔が引きつっていた。リーゼロッテは、ティーカップに口を付け、中身を飲み干す。空になったカップをそっと彼女の後ろに居たビスマルクが受け取り、紅茶を注いだ。さり気無く、同じく空になったティーカップを持っているウェスウィウスのカップを手に取り、注いで渡す。フレイは貰おうという素振りをしていたが完全にスルーされていた。

「ウェス君。スノウィンに戻れって言われて、休暇取ったんだって?」
フレイの唐突な発言にウェスウィウスはハッとする。そのまま、取り敢えずこくりと頷き、肯定した。フレイの顔に厭らしい笑みが浮かび始める。
「そうなのか、ウェスウィウス?」
女性の後ろに居た、人狼が低い声で訊いた。
「まあ」
ニカリ、とウェスウィウスは笑って返す。唸るような声を、ビスマルクは出していた。


「丁度いい。

君たちに、頼みたいことがあるんだ」

そう言ったフレイは、パチンという音を指で鳴らして見せた。鼻で笑う声と共に、閉まっていた扉がゆっくりと開き始めた———。

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