ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Veronica -参照500突破!Thanks!- ( No.72 )
- 日時: 2010/12/18 17:06
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 7Qg9ad9R)
- 参照: 20XX年、長野県は日本から独立し、信濃国を建国する!
* * *
「キャッ……キュキュキッキュ———!!!」
「はいはい、染みるね痛いね我慢しろ」
火傷した私の躰にメリッサが消毒液を塗る。消毒液の過酸化水素水(オキシドール)の臭いが眼、鼻、肉体に染みわたる。鼻の良い私には強烈だ。火傷だらけの小さな体躯を見つめるのは、白髪の状態に戻ったリュミエールだった。
「ポチ、どうしたの?」
———この餓鬼は変貌した時の記憶が戻らないみたいである。呆れたものだ。私は軽くリュミエールを睨みつけてやっていた。
「うぅうっ……!」泣きじゃくりそうな顔をして、メリッサにしがみ付いた。泣きたいのは、こっちの方である。
「ハイ、消毒終わり。暫くじっとしてろー。あと、リュミお茶でも飲むか」
長らく続いた消毒が終わり、メリッサは私をそっと寝ているフリッグの枕元へ置いた。この少年、昼寝中なのだ。
「リュミ、お茶入れるね」
「おっ。それは助かるわ」
ニコニコと笑みを浮かべているリュミエールと共に、メリッサは部屋から出て行った。能天気な奴ら、である。
暫くして、硬いブーツの足音が聞こえ始めてきた。レイス・レイヴェントが近づいてきたようだ。ポーカーフェイスで、この男はクールな印象が強いそうなのだが意外にも天然でお茶目な性格の様だ。私個人の意見だが。———この男なら、私の主に向いているかもしれない!
「きゅ———……」
私は首をあげ、レイスに向けた。レイスはそっと私の体を持ち上げ、抱えた。
「丁度、俺も一人で寂しかったんだ。少し、一緒に居ないか?」
「きゅ!」
私の体を抱えたこの青年は、外へ向かった。フリッグは完全に眠っていて気付いてすら居ない。よし、これならば!
かくして、私とレイスは外に行くことになったのだが———。
* * *
外に出て、暫く村周辺の森の散策を始めた我々はそのまま二時間ほどずっと森の中に居た。魔物が襲ってくることは、今のところなかった正直、ホッとしている。
「———俺、寂しがり屋なんだ」
唐突にレイスはそんな告白をした。竜だから言えるのか、そんなこと!ああ、竜で良かった!!人間だったら、こんなこと聞けないものな!
「俺の、相棒になってくれ———何ていうのは、失礼だな。忘れてくれ」
残念そうな顔をし、謝罪したレイスだったが……。
オッケー!私は大歓迎だ!!いや、むしろ待っていました、その言葉!!!甲高い鳴き声をあげながらレイスにすり寄った私だったのだが、次の瞬間!
レイスが背中に背負っている大剣クレイモヤを突然振り上げた。そんなもの予測していなかった私は、衝撃で吹き飛ばされる。そして近くの樹に辺り、体中に衝撃が走った。全く、とんだ厄日だ!
「竜族、か———!」
レイスの眼前には涎(よだれ)を垂らし、何処にも焦点の合っていない眼をした巨大な紅い竜が居た。どうも様子が変である。誇り高き我ら竜族には(以下、略)という誇りがあるのだから、よほどのイカレタ奴でなければ無作為に人を襲うことなどない。自分の圏内に入られた場合は確かに襲うこともあるのだが、私の鼻が臭いを察知する限りこの辺りには竜の住む巣や集落など無いはずだ。
竜が、紅蓮の咆哮をレイスに向けて放った!すれすれでレイスは避ける。私も勿論逃げ———じゃなくて、避けたが。
どうやら、何者かに操られているらしい。私の右翼を撃ちぬいた竜では無いことは確かだ。彼奴(あやつ)はトランプによってジェームズ・ノットマンの傀儡(くぐつ)になっていたのだから。この竜にはトランプなど刺さっていない。恐らく、他のものが操っているのだろう。何故なら、此奴は標的を定めずにただただ暴れるように攻撃をしているのだから。仕方ない。
私も、メタモルフォーゼしてやろうではないか!(レイス・レイヴェントへのアピールだ)
だが、巨大化しようとした結果傷口が開き、出来なくなってしまった。糞が……。
走ってきたレイスがそっと私の体を拾い上げた。そして竜の方を向き、何故か竜の方へと向かったのだ!
大剣を振りあげ———!!!猛スピードで突き進む。風を切り、颯爽と走り!そして竜の眼の前までやってきた瞬間、彼は跳んだ!その瞬間、私の躰がレイスから離れ、私は地へと———……。
アンバー種の振りあげた剣に光が宿り、輝く!そのまま、彼は真一文字に竜を斬った。光の一直線が残像として残る。
「グギャァア"ア"アァア"アアアアアアアア!!!!!!!」
傷口に痛み、苦しみ、もがき———。竜は叫び声を上げながら、ドスンドスンという音を立てながら去って行った。様子からして、恐らく正気に戻ったのだろう。痛みで正気に戻る、か。
突然、私の尻尾に衝撃が走った。
着地したレイスの足が、なんと私の尻尾を踏んでいたのだ。奴は気付いていない———ってオイ!尻尾にも痛覚があるのだぞ、多分……。
「危険な森なんだな、やっぱり。さて、帰るかポチ」
踏んだことにすら気付いていないようである。私を持ち上げ、彼は森の出口に向かった。先程竜を撃退した様子からも、やはり前言撤回。
この人、恐いです。
* * *
家に着いた私は、レイスの手でフリッグの枕元へとおかれた。うむ、女性にもてるタイプであるな。ん?私の性別、だと?想像に任せよう。
「———ん?」
どうやら主の起床の様だ。もう夕刻、随分遅いお目覚めである。
「何だ、ポチか」
私の尻尾(←踏まれたとこ!)が頬に当たっていたようで起きたらしい。ふん、そんなこと絶対謝らないからな。
「キュ」
取り敢えず、一日ドタバタしていてどっと疲れた。体も、心も。———心神喪失に陥って犯行に及んだ場合って罰されないんだっけなあ……。よし、犯行に及んでも恨むな、よ。
フリッグが、急に私の体を撫でた。
「怪我して、お前どうした?」
これから天変地異でも起きるのではないのか?此奴が私のことなど心配するとは———物凄く感激である。
「キュー……!」
私はフリッグのもとに体を摺り寄せた。うむ、やはり主はフリッグが一番なのかもしれない。こんなに恵まれているのに、我儘を言った自分にきっとばちがあたったからこんな一日になったのだろう。きっとそうである。
求めているものよりも、きっとそこにある物の方が自分にとって大切なものかも知れないのだろう。
大切な物は、失ってから気付くものだ。何が大切かなど、失って初めて気づくのだ。
愚かな自分を恥じた。私はなんて愚か者なのだろうか。これからも、私はこの少年に忠誠を尽くして生きていくべきなのだな———それが、誇りだ。
「何、ひっついてんだよ、馬鹿」
何、ひっついてんだよ、馬鹿———
何、ひっついてんだよ、馬鹿———
何 、 ひ っ つ い て ん だ よ 、 馬 鹿
私の躰が、つまみあげられ床へと投げられた。べしゃり、という音がし、激痛が走る。先程まで温かい感触の布団の上という状況から一気に冷たく硬い床の上という最悪の状態に———。
「寝難(ねにく)い。どっか行ってろよ、全く」
そう言ってフリッグは再び眠りについた。私に背中を向けて!オイ、オイ!!!
やはり、主人は変えるべきなのかもしれない。
この物語の裏では、私が新たな主を探しているというコトで———駄目か?
<Oz.Biography1: OtherEyes-とある竜のとある日常- Fin.>