ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Veronica -参照500突破!Thanks!- ( No.73 )
- 日時: 2010/12/18 21:17
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 7Qg9ad9R)
- 参照: 20XX年、長野県は日本から独立し、信濃国を建国する!
"もし、私の身に何かあったら、ナンナを———、
いや、ナンナの身にも何かがあれば、この子をお願いしますね"
———ええ、分かっているわ。そんなこと。
腕の中で寝息を立てる赤ん坊を抱え上げ、立ち上がった。蒼の長髪が静かに揺れる。
"私の、一番信頼できる方が、貴女なんです。
多分、私は死ぬでしょう。私は死んでも構わない。だけれども、この子だけは。この子だけは生きていなくちゃいけないんです。
すみませんね。こんな私情貴女に押しつけて。でも、信頼できる方が貴女しかいないんです"
———謝る必要なんて無いわ。恐らく私が生涯唯一愛し、慕った男の"頼み事"だもの。命をかけて、やってやるわよ。
———この身が朽ち果てようが。
片づけを怠った子供たちの去った後の遊び場に散乱している人形のように、動かなくなった者たちがそこら中にあった。人形遊び直後の場と違うのは、赤黒い液体が何処にでも流れているところだろうか。そんな死屍累々とした場所で、女は太刀を握り直した。
抱えている赤ん坊の顔をそっと確認した。———良かった、生きている!
『生き残りが居たぞッ!!!』
剣を、銃を、斧を———武器を構え、鎧をまとった兵士たちが溢れ出てきた。
『全く、孵化直後の蟷螂(かまきり)なのかしらね』
如何やら、自分の出血が激しい。このままでは、まずい。いざとなれば"アレ"を使うしかないと思いながらも、その様な事をさせてくれそうにない様子だ。仕方なく、女性は太刀を構えて突き進んだ!
『ッらあ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッッッ———————————!!!!!!!』
錯乱としているような。狂戦士(バーサーカー)の様に。視界が赤く染まっていこうが、何だろうか関係ない。蒼い長髪を徐々に鮮血で染めながら、女性は一直線に走りぬく!
———この子だけはッ!!!
* * *
「セティ、———セティ」
自分の名を呼ぶ声に気付いた少年は、梯子から降りた。広い室内。天井も見えないほどの棚は隙間なく本で埋められている。地上十数メートルから梯子をつたりながら、栗毛の少年は返事をした。
「ちょっと、待ってて———!」
かれこれ十年近く自分は此処で仕事をしている。師匠から聞いた自分の年齢が十歳だったので、本当生まれながらいして働いているという感じだった。
魔導書という、魔法を使う際に使用者の魔力を増幅させる、またはそれほど魔法の道に進んでいる者でなくても本を読みながらであれば魔法が使えるようになるという優れ物の書物のうち、あまりにも強大な力を持ち、危険だと判断された魔導書———禁書を世界で唯一扱ってるこの禁書図書館で働く少年フォルセティ。
アメジスト種特有の紫紺の瞳と、茶色の毛を持つこの少年は先程まで本の整理をしていた。自分の愛称である"セティ"と呼ぶ声を聞き、彼は"あの人"という確証を持って直ぐにおり始めたのだ。
途中、踏み外して落ちそうになるが、意地でどうにかした。漸く地上に降り立った彼は、胸の開いた露出の高い改造した帝国の軍服を纏った蒼髪のアメジスト種の女性へ一直線に走りだした。
「イルーシヴッッ!!!」
女性の名を大声で呼び、飛びついた。太刀を腰に下げた女性———イルーシヴはフォルセティの柔らかい栗毛を撫でた。
「久しぶりね、セティ」
帝国エターナルで、兵士の中で"蒼のイルーシヴ"という異名を持ち恐れられている女性とは思えないくらい優しい笑みを浮かべていた。
イルーシヴは、ウェスウィウスと共によくこの禁書図書館に来ることが多かった。ウェスウィウスは数年前に任務で来た際、フォルセティに懐かれたので来るようになったのだが、彼女は違う。その前からずっとこの図書館に出入りしていた。そのため、フォルセティは母の様に慕っている。
「さっき、館長とも話してきたけど、暫く良いかしら?
久しぶりに、外———とか」
「本当!?」
紫の眼を煌々(きらきら)とさせた少年は嬉しそうに飛び回った。その様子を見て、イルーシヴはほっとする。———元気で良かった、と。
「じゃあ、館長のとこもっかい行くんだよね?ボク、先行ってるね!!」
フォルセティは陽気なステップを踏みながら、室内から出て行った。
<Oz.5: Potholing- 一樹の陰一河の流れも他生の縁->
フリッグら四人は、マックールの近くにあるカルデラ洞窟へと向かっていた。リュミエールの育て親、マックールの村長の話によればこの周辺で遊んでいた子供が相次いで行方不明になっているそうだ。リュミエールも一週間ほど前に友人とそこで遊んでいたらしいのだが、彼女は途中で荷物を取りに一旦家に戻ったため、友人だけが行方不明になったそうだ。戻ってきたときには誰もいなかった、と。
「マックールから、カルデラまで大体歩いて十分なの。あまり魔物も居ないし、あんまり危ない場所じゃないからリュミとか結構遊びに行くんだけど……」
フリッグに手を握られながら歩くリュミエールが言った。
「最近、なのか?」
レイスの問いに彼女はこくりと頷き、付け足した。
「二週間くらい前から」
「結構最近じゃん」
一旦伸びをした後でメリッサが言った。マックールにきてからまだ一週間経っていなかった。その一週間前から失踪事件が起きていたとは知らなかった。聞けば、丁度フリッグらが発見される前日にリュミの親友が行方不明になったらしい。
「恩を返すには、丁度いいけどさ」
フリッグはちらとリュミエールを見た。七歳の女児が自ら行きたいと志願したものの足手まといでしかない。村長も連れて行ってほしいと願い出ていたのだが、どうも理解し難かった。明らかに戦闘能力が無い様に見えるのだ。何故かメリッサとレイスは反対しなかったので同行したのだが———。
洞窟の冷えた空気で身を冷やしながら進む。足場がだんだん危なくなってきた。凸凹(でこぼこ)としている所為で歩きにくいし、危険だ。
ふと、フリッグの頬に何か滑(ぬめ)ったものが当たった。咄嗟に構える。レイスの大剣が貫いたのは、大きな蛙だった。一メートル程の躰———洞窟や沼地で多くみられるトードという魔物だった。麻痺毒を持っているものが居るため、それ程安全な魔物ではない。
「居るじゃんか」
吐き捨てるように、フリッグは童女に言ってやった。リュミエールは必死に少年へと抗議する。
「ふっ、普段は居ないもん!」
「あ、そ!」
圧縮された"音"の球を蛙にぶつけ、弾く。トードは飛ばされ、岩に激突した。そしてそのままピクリとも動かなくなった。
だが、トードは洞窟の奥から溢れ出てくる。
「いつもはほんとにほんとに居ないんだよ!」
リュミエールは叫びながらメリッサの後ろにひっついた。メリッサのノルネンが、五匹ほどのトードを一気に吹き飛ばす。が、数は徐々に増すばかりだ。一匹が、リュミエールに触れた。
「リュミッ!?」
メリッサは咄嗟に武器を向けたが、すぐに止める。恐らくこの後リュミエールの行う行動が予測できたからである。
「何で助けないのさ!」
リュミエールを助けようとしないアンバー種の二人に、フリッグは怒鳴った。そしてトードを退かし、リュミエールに近づいたが
「止めておけ」
とレイスが制止した。とうとう、リュミエールの姿が見えないくらいにまでなってしまった。
———やっぱ足手まといか。
フリッグが呆れた瞬間だった。
空気が急に、物凄く冷たくなったのだ!そして、何処からか焔が吹き出始め、肉の焼けた臭いが充満する。
「退け!!!雑魚共がッ!!貴様らなどに構っている暇は無い!!!」
白と黒のリボンを操る、黒髪の少女が暴れていた。まるでリュミエールの色を反転したように、彼女の白髪は黒髪に、漆黒の瞳は真っ白の瞳に変わっていた。表情も、完全に変貌している。おどおどしていた童女は、争いを好む殺戮者(ジェノサオダー)へと化していた。あまりの変貌ぶりに、フリッグは唖然とする。
間もなくして、襲いかかって来ていた蛙は全て倒された。殆どがリュミエールに、だ。
「ほへっ———?リュミ、なんかしてた?」
数々の焼けた蛙の肉、凍てついた蛙の中心でポカンとしていたリュミエールの色は、あのおどおどしていた時のものに戻っていた。
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