ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Veronica -参照500突破!Thanks!- ( No.75 )
日時: 2010/12/23 11:34
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 7Qg9ad9R)
参照: 20XX年、長野県は日本から独立し、信濃国を建国する!

 「え、あ———?」
あまりの豹変ぶりに、思わずフリッグは言葉を失っていた。
 周囲は、静寂を取り戻していた。童女が全て殲滅させたのだ。

「フリッグたちが、倒したの?」
きょとんとした表情で訊ねるリュミエールを余所に、フリッグは近くにいるアンバー種二名の方に視線をやり、さりげなく童女を指差した。

「———今の、何?」
あー、やっぱ訊くか……、といったような表情を浮かべ、嫌そうな雰囲気丸出しのメリッサはリュミエールの頭にポンと手を置き、少年の疑問に答えてやった。

「エンジェルオーラ族ってのは、好戦的なタイプとまったくその逆のタイプ———両極端な者が存在する種族なんだよ。
十歳までは、どちらにも属してるから、ちょっとスイッチが入ると性格が逆になる。つまり、まだ不安定ってこと。その間の、周囲の環境によって十歳以降どっちに属すか決まるんだそうな。
だから、リュミもこう、急に変貌しちゃうんだよ」
メリッサの説明に、レイスは度々(たびたび)頷いていた。

「は、ハァ?!」
いまいち納得出来ていないフリッグだったが、何となく訊けるような空気ではなかったので仕方なく黙り込んだ。そんなフリッグの頭をガブリ、とポチが噛む。どうやら、早く急げということらしい。

「ポチが、早く行けだってさ」
噛まれたときに感じた痛みは口に出さなかったが、相当顔を顰(しか)めていた。ふてぶてしい言い方で痛みを隠し、皆より一足先に先に進み始めた。

「はあ」
よくわからないまま、少年の後にレイスが続き、そしてそのまま女子組二名が続いて行くのだった。

 * * *

 ポンッ、という爆ぜた音を発し白い煙が立ち込める。地面の小石を削り、あまりのスピードになかなか躰が止まらず、予想していた着地場所から数メートル先で完全に停止した。

 リュミエールの白いツーピースが焦げたように少し茶色く変色していた。好戦的な、釣り上げた純白の瞳を蔑(さげす)むように転がっている黒焦げたモノへと向ける。

「所詮は雑魚だな」
背後から飛びかかった蛙に、白のリボンを振りかざす。空気を切り裂くように横一直線に振られたリボンの足跡(そくせき)に存在していた空気は凝結(※気体が冷却または圧縮されて液体になること)され、水となりトードに降りかかった。

 再度白の綬(ひも)を、水をかぶったトードに振りかざすと水は一気に氷結していった。間もなく、水晶の中に蛙が閉じ込められているようなオブジェがリュミールの周囲に形作られた。
 


 頭上から降りかかる魔物———トードが自分の躰に触れさせる前にそれを容赦なく銀の刃が切り刻んだ。銀閃に切り刻まれ、ハムの様にスライスされた肉はボトリと宙から地に落ちた。

 続けて横からやってくる魔物共を造作もなく、レイスは串刺しにする。大剣に躰を貫かれたトード達はまるで命乞いをするかのように泣き喚いたが、すぐにそれは治まり動かなくなった。

「どうやら、トードだけじゃなさそうだ」
すぐ近くで応戦しているフリッグにレイスはそう呼びかけた。少年の応答がすぐさま返ってくる。

 レイスの真ん前に三つの頭が現れ、それぞれ口と思わしき所から三重の歯を剥きだして青年に襲いかかった。———スキュラである。ベースは女体と思われるのだが、足は十二本、六つの頭を持っている魔物であった。いや、魔物というより怪物といった方がしっくりくる外見であった。

「グギャル"ルるっッッ!!!」
三列に並んだ尖ったが、レイスに勢いよく喰らいつく。彼は咄嗟にクレイモヤを横に振り、まず見えている三つの頭を真一文字に斬った。そして、スキュラの躰を地面に押し倒し、踏みつける。が、横から人気(ひとけ)を感じたので直ぐに後ろへ退いた。

 横から現れたメリッサのノルネンが倒れたスキュラに直撃した。通常打撃攻撃形態ベルザンディで巨大化した錫杖に怪物は潰された。ノルネンを通常形態に戻したメリッサは、レイスにウィンクする。

「大丈夫?」
「平気だ」
口元に付いた血を袖で拭ったレイスは会釈し、魔物の群れの中に入っていった。

 進めば進むほど、魔物の数も種類も増えていっていた。洞窟という狭い空間の為、竜は巨大化して戦うことができない。フリッグは魔物の中心で音波を発し、一気に薙ぎ払った。

「数、増えてんじゃん」
激しく言うような感じではなかったが、かなりの苛立ちは含まれていた。隣に飛んできたリュミエールが焔を発しながらフリッグの言葉に反応する。
「知らんッ。おそらく奥に何か親玉がいるのだろう!」

 やはり、"このリュミエール"にはまだ抵抗がある。そう思いながら彼女の横でフリッグは攻撃を続けた。リュミエールの放つ黒炎に自分の波動を絡ませ、焼いたと同時に内部に打撃を与えるようする。


 "追走曲<Canon>"



 頭の中で、輪唱を思い浮かべ"音"を放つ。それを具現化したかのように、音で出来た弾丸はスキュラの躰に穴を空けた。
 氷結した魔物も全てそれで砕き落とす。割れた硝子の様に、それらはバラバラに地面に散らばった。


「誰か、回復呪文覚えてないワケ?」
息を切らせつつも、魔物の猛勢に必死に対応するメリッサが、全員に向けて訊いた。戦闘によって生み出される音に掻き消されつつも、三人は答える。

「僕は覚えてない!」
答えたと同時にフリッグはスキュラに右腕を噛まれた。傷口が激しく赤い液体を噴き出す。咄嗟に着ている衣服を少し破り、きつく傷口に巻いて出血を止めた。———暫く右手は使えなさそうだ。

「習得していない」
焔と氷を同時に操りながら応戦するリュミエールもフリッグに続き答えた。
 リュミエールの真上から、蛙が麻痺毒を存分に含んだ舌を伸ばした。反応に間に合わず、しかもそれに吃驚(びっくり)したせいで一瞬彼女は無防備になってしまった。が、そこにレイスが剣を振るい、舌を斬り、魔物を薙いだ。
「俺も、だ」どさくさに紛れてレイスも返答。「お前は如何だ、メリッサ!」

「アタシは呪文じゃなくてノルネンがそういう力持ってるだけー!」
メリッサの声が、洞窟内によく通った。
 運命聖杖ノルネンは三つの形態を持つ、杖の神器である。

 状態を過去に戻す<ウルズ>———人々の動きを少し前に戻したり、傷付いた体を傷付く前に戻すことが可能だが、死者蘇生や過去に直接戻ることは不可能である。つまり対象のみを現在で"過去の状態に戻す"という能力を持っているのだ。ただし、戻した状態を暫くそのまま継続させることも可能だ。
 特に魔法など特殊な攻撃に関係しないのが<ベルザンディ>である。杖自体を巨大化させ、打撃を中心とした攻撃を得意とするのだ。因みに重量は全く変わらない。
 そして広範囲に及ぶ魔法攻撃を得意とするのが<スクルド>。杖を中心に瞬間的に魔法陣を作り上げ、広範囲への魔法攻撃を得意とする。

 だが、<ウルズ>の使用は使用者に精神的・肉体的にも大きな打撃を与える為、それ程多用出来ない。なのでメリッサは回復呪文を覚えているかどうか訊いたのだが———どうやら誰も習得していないらしい。


 メリッサの質問と、それに対する応答でフリッグはどうしようか悩んだ。
 全体的に体力が消耗しているし、怪我も多い。いつ尽きてしまうか分からない状態である。回復役に回る人間が入れば良いのだが、いないのだから仕方ない。
 取り敢えず、一旦逃げた方が良いのかもしれない。だが、どうすれば良いか思いつかなかった。

 ふと、少年の脳裏にメリッサと初めて会った時の光景が再生された。
 あの時、<ウルズ>で動きを止めていた。———ならば!

「<ウルズ>で一回敵を止めて、とんずらした方が利口かもしれない!
メル、やれる!!!?」
蛙や怪物の攻撃を音で弾き返しながら、叫ぶように声でメリッサに訊いた。暫く金属の交わる音や血腥(ちなまぐさ)さ、肉の焼ける臭いなどだけで彼女からの応答がなく、少しばかり心配に思ったのだが、もう一度声をかけようとした瞬間にメリッサから応答があった。
「オッケ!やれる!!!」


 血の滲んだ服が大きく靡(なび)いた。血液の付着した運命聖杖ノルネンを、岩肌に突き刺す。闇の中から淡い緑黄色の光があふれだし、瞬く間に見ているものの視界を染め上げた!

 光が徐々に消えてゆくと、魔物たちはピクリとも動かない状態になっていた。まるで時間が止まったかの世に、ある動作をしながらの状態で制止している。

 <ウルズ>の使用の所為で、一瞬目眩がしたメリッサはふらつき、倒れそうになる。倒れかけたところで、ポチが彼女の襟を掴んだため、首は軽く絞まったが地面に激突することは無かった。

「大丈夫、メル!?」駆けつけたフリッグは真っ先に彼女の安否を確認した。声で答えることはなかったが、メリッサは白い歯を見せながらピースサインをする。無事であると言いたいらしい。「良かったあ」
メリッサの反応を見て、フリッグは安堵した。思わず息が漏れる。

 フリッグは肩を叩かれたのに気付き、顔をあげた。するとレイスがどこかを指差している。小さな空洞があった。
「リュミエールが確認してきたところ、入口は小さいが中は広いらしい。
暫く其処で様子を見るべきだと思うんだが」
「異論はないよ」
フリッグはコクリと頷いた。

 アンバー種の少女の手を受け止めながら立ち上がらせるのを手伝う。フリッグの助けを借りながらメリッサは立ち上がった。
 そして、戻ってきたリュミエールとともに、三人はひと先ず空洞の中に身をひそめるのであった。

Next>>77