ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Veronica -Oz.5更新中- ( No.79 )
日時: 2011/03/25 18:01
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 9nPJoUDa)
参照: 出逢いが人を強くするの?それとも、別れが人を強くするの?-Veronica-

* * *

———思い出したくない光景が、あった。




 アタシたちアンバー種ってのは、どうも周囲から毛嫌いされてて———特にアメジスト種、アースガルドなんて最低だった。

 何時(いつ)だったっけなぁ。ああ、多分十年くらい前だなぁ。

 未だに絶対王政で、しかも鎖国同然の国アースガルドの第一皇子が殺されたって。
 何が何だか分かんないけど、急にウチら———アンバー種がスパイ容疑をかけられてさ、暗殺したっていう証拠もクソも無い容疑を勝手にかけられて、さ。


 その日から、アースガルドに居たアンバー種の生活は一変した。



 根こそぎに刈られたよ。ウチらだけが、アンバー種だけが。





 種族なんて、色のついた水と変わらないのにね。


 人種なんて区別があったって、皆"生きてるモノ"なのにね。




 何が違うんだよ。何が種族だ何が国家だ何が正義だ何が悪だ何が世界だ何が何が何が何が何が何が何が。

 違うんだよ。



 この、クソったれた世界が。

 こ
  の
   、 
    ク
     ソ
      っ
       た
        れ
         た 
          世
           界
            が
             。



 強制収容所に送り込まれたっけなぁ。いや、送り込まれたんじゃないね。

 "ブチ込まれた"んだよね。

 その中で、アタシと家族は逃げた。脱走した。

 追いかけられて、追い詰められて。逃げれなくなった時、アタシの父親は何したと思う?

 魔法で地面に穴開けてさ。その中にアタシだけブチ込んだよ。

 その後、家族が如何なったかは知らない。皆きっと殺られたんじゃないのかな。だってそうでしょ。あの状況からして、絶対そうでしょ。


 落とされた先で見た光景は忘れない。



 古びてんのに、妙に神々しい———古い遺跡が、アタシの眼の前にあった———


 眼の前に見えた、古くもどこか新しく、妙に神々しい遺跡。それを見てメリッサは幼いころの情景を思い出していた。ああ、全く一緒だ。運命聖杖ノルネンと出会ったあの場所と全く同じだ、と。場所は違えど光景は変わらない。実に不思議だった。

「こんな場所、あったんだね」
天井は破壊されており、光が燦々(さんさん)と差し込んでいた。森の中にぽっかりと開いた穴の様だ。久しぶりに吸う空気に感動したリュミエールは空を仰ぐようにしながらひとり言を言っていた。彼女の言葉には、同感できる。レイスとフリッグは知らず知らず頷いていた。

 近づき、開いている入口から中に入ってみる。所々破壊されていたがある程度綺麗に残っていた。古代ヴィエント文字で書かれている場所が多々あったので少なくとも千年前のものだとレイスは確信する。ヴィエント文字はジェイド種が使っていた文字なのだから———。

「ジェイド種が神器を隠してる遺跡かもね。ヴィエント文字書かれてんなら」文字の前でしゃがみ込みながら考えているレイスの後ろから唐突に声がした。咄嗟に振り向くとメリッサが口元に笑みを浮かべて立っている。「ホラ」彼女は一文を指でなぞって見せた。

「読めるのか?」
「いいや」
レイスの問いかけに即答し、少女は首を横に振る。千年も昔にあったものだ。どんなに高名な考古学者でさえ、誰一人として解読に成功した者はいない。そもそもジェイド種自体、他種族との交わりを嫌っていたのだ。
「神器を隠している遺跡……というのは確かかもしれないな」
"ヴィエント文字で書かれているものはジェイド種のもの"と"ジェイド種は作り出した神器を各地に封印した"という伝承からレイスはその考えをしっかりと持った。恐らく間違ってはいないと思われる。


 ノルネンを手に入れた遺跡も同じような場所だったのでメリッサは此処がすぐに神器のある場所だと分かっていた。あの独特な雰囲気。間違いない、此処には神器が封印されている。
 

「我は翡翠の種。この地にグレイプニルを封印す……。……リ…グ=サ…=マ……ン?読めん」
指で文字をなぞりながら読み進むジェイド種(仮)の少年の様子を見て、他の三人はポカンと口を開け直立不動で居た。

 千年前、千年前である。このヴィエント文字が使われていたのは。常識的に考えてみておかしい。

 頭を掻きむしりながらフリッグに歩み寄ったメリッサは彼の必死で読む横顔を見ながら訊ねる。
「読める、ワケ?」
眼をぱちくりさせ、少年は当たり前のように答えた。
「うん」
 
 唖然、である。

「でも名前の書いてあるとこは薄れてるし。封印した年もおかしい。
ホラ」

 立ちつくしているレイスとリュミエールの方を振り向き、二人を手招きする。三人の視線を自分の指に集めさせた。視線が集中したのを確認すると書かれている文字をゆっくりとなぞり、其れに合わせながら少年は言葉を紡いだ。
「鳳凰歴一七九五年。鳳凰歴はジェイド種が定めて、そのまま今も使ってるんだよね?
この年は十八年前。冗談で記してなければ、おかしいことになるじゃん」

 確かに少年の言う通りである。フリッグの言ったことが正しければ恐らく未だジェイド種は生きていることになる。

 取り敢えずさ〜と言ってメリッサはフリッグから離れ、遺跡内の奥へと突き進む。単独行動は危険だと思い、フリッグ、レイス、リュミエールの順で後に続く。
 奥まではひたすら一本道が続いていた。所々壊れていて歩きにくかったものの魔物の出現、それどころか生物など一匹も居らず、何事もなく進めた。
 カツン、カツンとそれぞれの靴の素材によって異なる音がバラバラに鳴る。大理石の静寂な空間にその音と、よくわからない会話だけがこだましていた。

* * *
 
 進み続け、とうとう行き止まりと思われる場所に到着した。

 やけに広い空間。地面には魔法陣と思われるものが刻まれている。その中央にはそこそこ大きな祠らしきものが聳え立っていた。
「ほーこら、吃驚(びっくり)」
ふざけて駄洒落を言ってみたリュミエールだったがことごとく無視されてしまう。ガックリとした彼女をそっとメリッサが宥めた。ごめん、白けるつもりは無かったんだ、と言葉を付け足して。

 足元の魔法陣をレイスはそっと見た。恐らく神器を封印するための魔法陣であろう。規模からして相当の魔力の持ち主が書いたものだ。古代ジェイド種の魔導師のうち、此処までの力を持っていると聞く男はレイスの知る限り一人しかいない。

「大魔導師マーリンかもしれないな、この封印は」
レイスの呟きに即座に反応したのはフリッグだった。
「———マーリン?」
「ああ」レイスは頷き、続ける。「ジェイド種滅亡間近まで生きていた、歴史上最強の魔導師マーリン。フルネームは明らかになっていない。
弱冠十五歳にして魔導師の最高称号"大魔導師"を手に入れ、それから約五年後に没したと伝えられている者だ。
分かっているのはマーリンという名と、大魔導師というだけだ。若くして死んだため、謎が多い」
何時になく饒舌な青年の姿を眺め、フリッグは唖然とする。殆ど間も開けずに喋るこの男の知識量は半端ないものだろう。



「いっ———!!!?」

 突如童女の叫び声と共に、男子二人の眼前を紫電が奔った。
「「如何した!?」」
二人同時に叫び、振り向き声の方へと走り出す。祠の前で激しい光に包まれるリュミエールの姿が見えた。
 メリッサは其処から少し離れた場所に吹き飛ばされていた。重い体を起き上がらせ、フリッグらと共にリュミエールの躰へと手を伸ばす。

 メリッサはこの光景を見た事があった。ノルネンを手に入れたあの瞬間と同じだ———!

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