ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Veronica -Oz.5更新中- ( No.82 )
日時: 2010/12/26 12:42
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 7Qg9ad9R)
参照: 出逢いが人を強くするの?それとも、別れが人を強くするの?-Veronica-

 クリスマス———俗に言う、キリスト降誕祭である。この日は家族でクリスマスディナーを食べ、眠りについた子供達の元にはサンタクロースがやってくる———………

「んで、なんでそんなコトするのさ」
緑の紙で出来たラメ付き三角帽子を被り、豪勢に並べられているディナーを目の前にしたフリッグは不服そうな表情で言った。

「ジングルジングル♪」
「ジングルベェ——————ルッ!」
が、彼の言葉に答えるものは誰も居らず、全員部屋の飾り付けを続けているのだった。


 「お゛いっ!!!!」


<Oz.Biography2: Noel-聖夜->


「フリッグ、知らないの?クリスマスっていってぇ———」
「いや、知ってるから」隣で喋るリュミエールの口に手を当てて塞いだ。もごもごと彼女の口が動いているが、気にしない。「そうじゃなくてさ」少年は近くでクリスマスツリーの飾り付けをしているメリッサへと視線を送った。「おかしいでしょ、この展開は」

 そのフリッグの言葉に指を振りながら舌をならしたメリッサが答える。
「チッチッチ……。君は分かってないなぁ。
タイトルからして、違うでしょ。今回、明らか違うでしょ。
外伝だよ、が・い・で・ん。世界観的にクリスマス無さそうだから、作者が無理矢理作った結果こうなったね!」
ああ、そう……と、フリッグは呆れた目線を彼女へ無意識に送っていた。

 背の高さを存分に生かし、ツリーのてっぺんに大きな星の飾りを取り付けたレイスは無言を貫きながら着々と作業を行っている。その様子をみてフリッグは完全に呆れた。こんなつまらないことに付き合ってる暇何てない。

「皆暇だなあ。なー、ポ———……」
頭に乗っていた筈のポチに語りかけたが、竜はいつの間にかメリッサと共に飾り付けを楽しんでいた。それを知り、愈々(いよいよ)つまらなくなったフリッグはそっと、外へと出て行った。———必死にしがみつくリュミエールを無言で振り払って。

 その様子を、突っ立って見ていたメリッサは溜息をついてから作業を再開した。



 * * *

———クリスマス、か。
 そんな楽しみの染み込んだ"家族ごっこ"など要らない。フリッグは足元の小石を蹴り飛ばした。

 カラカラカラカラ——————。音を立てて転がり、最後には近くを流れる小川にポチャンと落ちたその姿が滑稽で仕方なく、少年は小さく笑った。

 アリアスクロス家ぐらいでいいのだ。家族の様な存在など。
 あんな風にまだあって然程経たない奴らと気安く関わりたくなかった。関わってくるのは、いい迷惑に感じた。

 友達、少ないんだよなァ。そう思うが自分はそれで満足している。必要以上の交友関係は望んでなどいない。




「フリッグ!」
リュミエールの声が自分に迫って来ていることに気付いたフリッグは咄嗟に振り向いた。———放っておいて欲しいのに。
「何だよ」
「い、一緒にやろうよ、パーティ。クリスマスパーティ」
ぜえぜえと荒い息を立てながらその少女は一心にお願いした。だが返事すらしないフリッグ。しょうがなくリュミエールは彼を力ずくでも連れて行こうとする。

「何するんだよ!」
振り払おうと、腕を大きく振ったが依然としてリュミエールはしがみ付いたままだ。

「フリッグはいっっつも一人なんだもん!皆と一緒にやる気にならないの?ねえ、ねえ!!」

振られながら訴える真摯な姿に一瞬フリッグは心を奪われた。幼い子供が必死に訴える。冷めていた自分の心が馬鹿らしく思えてきた。

 はあ、とフリッグは息を吐く。
「仕方ないなァ…。つまらなかったら、出て行くから

ぶっきらぼうな言い方ながらもなんとか参加してくれる気になってくれたようでリュミエールは嬉しくて仕方なかった。
「それじゃ、行こ行こ!!!」
スキップと鼻歌を交え、リュミエールはフリッグの体を引っ張った。そのテンポとずれながらフリッグの躰はよたよたと引き摺られていったのだった。


* * *

「なーんだ、結局リュミに連れられて来たわけ」
眼の前で仁王立ちし、にやにやと笑うメリッサの腹をフリッグは拳で殴った。殴られたメリッサは声が出ないくらい痛いようでその場に蹲(うずくま)る。その姿に少年は嘲笑してやった。


 無駄に豪華な飾り付けのされている部屋。

 二メートルぐらいのクリスマスツリー。紙で作った環の飾りが壁に掛けられている。大円のテーブルには白い布が被され、上には即席であろうクリスマスケーキが一つ置かれていた。赤、白のシャンメリーが其々三本ずつ置いてある。

———暇だなア。
市販のスポンジケーキに生クリームをべっとりと塗り、買ってきたデコレーションで飾り付けがされている。汚い字で"Merry X'mas"と書かれている文字は恐らくメリッサのものだろう。彼女の字体は独特で、お世辞にもきれいとは言えないものなのだから。

「フリッグは炭酸飲めるか?」
唐突にレイスが背後から声をかけた。突然過ぎてフリッグは吃驚(びっくり)したので声が出ず、取り敢えず首を縦に振った。———炭酸は苦手なのだが、ついやってしまったのだ。

「おし。じゃ、皆炭酸飲めるんだねー。オッケェ、オッケェ」メリッサはそう言いながら紙コップに赤のシャンメリーを注いでいく。フルーツのいい香りが漂った。
 紙コップは四つ。どうやら、リュミエールの養父は参加しないらしい。

 背の低いリュミエールが必死にケーキを五等分にし、其々皿に乗せて配る。気のきいたことに(?)ポチにまで分けてあるのだ。それを見たメリッサが焦ってシャンメリーを新しくコップに注いだ。

 各々座席に腰をかけ、メリッサの掛け声で紙コップを手に取る。
「そんじゃま、メリー・クリスマス!(一日遅れ)」
阿呆作者の所為で一日遅れになってしまったのだ(本当申し訳ありません)。

 メリッサの掛け声で同時に完敗をする。リュミエールはすぐにケーキに突入、レイスとメリッサは静かにシャンメリーを飲む。ポチはケーキを突いている。フリッグは何もしていなかった。

 レイスがケーキを口に頬張った。奮発出来なかったので植物性の生クリームだったが味はそこそこ良い。自分が泡だてたものだった。味にまあまあ満足しながら食べ進む。
「……サンタとかって来るの?」
フリッグが此処に居る面子の中では最年長のレイスに突然訪ねた。レイスは首を横に振る。プレゼントなんてないしな、と。

「いや、プレゼントあるよ!」声を上げたメリッサが、手に持っている小包を掲げた。「アタシは用意周到だからね!全員分有るんだぜぇ!!」
「凄いや、おねえちゃん!」
リュミエールの眼がきらきらと輝いた。意外にも気のきく彼女に男子二人もさりげなく感動する。うん、いい奴だ。

「取り敢えず、配るか」
手伝おうとしてレイスが立ち上がり、メリッサの元から包みを二つ貰う。隣に居るフリッグに一つ渡した。メリッサもリュミエールに手渡しする。童女は嬉しそうな満面の笑みを浮かべていた。
「わーぁ、有難う!」そしてアンバー種の少女に抱きつく。「おねえちゃん、本当に有難う!!!」

 そんな感謝の言葉にあふれる空間なのだから、普段冷めている二人も自然と乗せられた。いや、感謝の言葉はとても大事なのだが。
「有難う、メリッサ」
先ずレイスが言う。彼はにこりと笑っていた。
「あ、アリガト」
ぺこりと頭を下げ、フリッグが言う。恥ずかしそうにしていた。

 今すぐに包みを開けようとした時だ。
「ちょ、タンマ!!!」
メリッサが声を荒げてその行為を止めさせる。両手を前で振り、必死に"止めろ"というサインを出した。取り敢えず三人はその行動を止めた。

「———何?」
不服そうにフリッグがメリッサを睨みつける。彼女は冷や汗をかきながら言った。
「あ、ホラ……。開けるのは終わった後のお楽しみ〜みたいなさ〜〜」

———怪しい。
怪しさ全開だ。仕方ないので彼女に従って開けるのを止めた。


 自分のコップのシャンメリーが切れたリュミエールは注ごうと白シャンメリーに手を伸ばした時だった。

 レイスが赤と白のシャンメリーをミックスして飲んでいる。アセロラの様な色の液体であった。

「………」
無言で、馬鹿みたいにポカンと口を開けているリュミエールに気付いたレイスはコップの中身を見せた。
「……美味いぞ」 


 結構、このような場では意外な一面が見れたりするものなのかもしれない。


* * *

 さて、部屋に戻ったフリッグが先ず行った行動は次のうちどれだろうか。



1.寝た

2.プレゼントを開けた

3.P○Pを弄り始めた


 そんなもの、展開的に勿論2である。早速プレゼントを開けたのだ。———中には何が入っているのかな、ああ。楽しみだ……!そんなことを思うところはまだ"少年"だった。

 開けた箱の中には、白い一枚の紙切れ。

———手紙か何か?

 折りたたまれていたので、取り敢えず開いてみる。




『請求額三十五万プラッタ』




「……………」

 ハイ、何だか分かりますよね。請求書ですね。

 請求先にはちゃあんと"Melissa=Loverdoule"の文字が。

 そりゃあ、阿修羅の如く、羅刹の如く。怒りに身を任せてフリッグはメリッサの部屋まで行こうと部屋を出ましたよ。
 出ると偶然なのか必然なのか、黒髪になったリュミエールの姿と普段の冷静さの欠片もないレイスの姿が。二人とも武器を構えて立っていた。

「———如何やら、目的は同じようだな」
くっくっく……と乾いた笑い声を上げたリュミエールの言葉に、二人は大きく頷いた。



 その後の出来事は大方予想がつくので割愛。


* * *


『昨夜、エターナルとネージュの国境付近にある森の奥地で大規模な爆発があり———』
プレッツェルを口に頬張りながらフレイはニュース画面を見つめていた。

「クリスマスにも、とんだ凄いことをする輩が居るんだねえ」

他人事のような物の言い方だが、この事故を起こした輩と後に関わることになるのは、まだ知らない。


 なにはともあれ、メリークリスマス(一日遅れ/汗)!!


<Oz.Biography2: Noel-聖夜- -Fin->