ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Veronica*参照700突破嬉しくて昇天しそう ( No.90 )
日時: 2011/01/10 14:43
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 7Qg9ad9R)
参照: 出逢いが人を強くするの?それとも、別れが人を強くするの?-Veronica-

 北の大国、ネージュ。さらにその北、大陸最北端の極寒の地。万年吹雪と呼ばれる吹雪が、その名の通り一年中吹き荒んでいる。人が住むにはあまりにも酷な地だ。そのため、人など住んでいなかった。

 そんな真っ白の白銀の世界の中に、小柄な何かが一つだけぽつんと立っている。よくよく見ると女性だ。

くすんだ白色の軍服の様なロングコートと、防寒帽子を身に着けている。背中には大きめな狙撃銃を背負い、肩からは散弾銃を提げ、まるで軍人のような出で立ちだ。防寒帽子から食み出る、癖のある灰色の若干長めの髪。青白い顔。アンバー種特有の琥珀色の瞳は沈んだように暗かった。


 ザクザクと足を雪に埋めながら進む。彼女のひざ下は完全に雪の中に埋もれていた。


 ふと立ち止まり、そのままぼーっとその場に立ちつくす。雪が躰に降り積もり、数分もしないうちに彼女の頭と肩に降り積もった雪が盛り上がる。彼女はそれを払い落しもせず、逆になにもしないで立ちつくしていた。

  ———琥珀が鏡の様に雪を映す。


「雪は、何もかも消し去る」

深々と降り積もる雪は音を消す。小さな呟きはすぐに消された。

ネージュは———、消し去ってしまう」
彼女の目は、ひどく悲しかった。



* * *



 さく、さく、さくっ



 スニーカーが雪の白に足跡を作って、白を他の色で蝕ませていく。
厚手の、フード付きのコートを着込んだ、まるで細身の雪男の様なその男は漸くスノウィンにたどり着く。

「結構遠かったな」

ふぃーっ、と深く息を吐く。黒フードを被った頭から僅かに顔が現れる。ラピス種の蒼透石サファイアの様な目が静かに寂れた集落を見つめた。

 二度も紅耀珠の支配する国に襲われた哀れな村。

 焼かれ、殺され、傷つけられ。村人の受けた傷など我々が易々と口にすることではない。
簡単に「可哀想だ」と哀れむのは、村人にとっては寧ろ侮辱に近いのかもしれない。その痛みも苦しみを味わっても感じても無い人間が簡単に悲観的に彼らを評価し、変に同情めいた言葉を吐くのは恐らく罪だ。
 
 この男がスノウィンに来たことには理由があった。

ここ数年、スノウィンが見せる不穏な動き。ニュースをよく見る彼は自分でそれを確認したいと思っていた。

———スノウィンに近付いたものは死ぬ。
この謎の噂は事実だ。最近、スノウィンに行って帰ってきた奴は居ない。

そしてスノウィンの村人は村から出ず、国内でも孤立している。

実に妙だ。

そして、独自に調べた末に知ったこと。

"千年前、大魔導師マーリンが、ウィンディア最後の巫女クリュムを此処に葬り、神器を封印した。"


「神器が関係してんのかも、な……」

気になることだ。"百聞は一見にしかず"。聞くよりもその場へ行って、体全体で感じる!だから彼はスノウィンに来たのだった。



<Oz.6: Hallelujah-神様っているのかなあ->



「あらあらっ。結構あっさり逝くわね〜」

若紫のツインテールを揺らし、俗にいう″ゴスロリ服″を纏った女性が破壊された集落のちょうど中心に立っていた。

 白髪の、皺の刻まれた老人の髪を掴み、無造作に投げる。投げられた人間はぐったりとし、動かない。それを当たり前のようにヒールで蹴り飛ばす。———もう、老人はこの世から消えていた。

 頬にこびりついた血液を舌でぺろりと舐めた。

「任務完了かしら。これで天使の亡骸———エンジェル・ダストも生成つくれたしっ♪」

髪と同じ若紫の瞳が妖しい光を灯す。女性のてのひらから、白く、発光を放つ半透明の石が現れる。どうやら、エンジェル・ダストと言うもののようだ。


 すぐ後ろで何か光った。女性は後ろを向く。



 小さな魔法陣の上に二人のアンバー種とエンジェルオーラの童女、一匹の小竜、そして女性のよく知るあの男によく似た少年が立っていた!


「随分と久しいお顔が見えるものね〜。
久し振りぃ、フリッグ」
女性がフリッグに向かってにこやかに手を振る。無論フリッグには面識がなかった。

「誰」
フリッグのあっさりとした応答に女性はハァーと呆れて息を吐く。
「ヤァだ。ヘルよ、ヘル。久し振りじゃないのよ」
ヘルはそう言ってフリッグに歩みより、彼の顎をくいと上げた。妖艶な雰囲気を纏うヘルにフリッグは唾を吐き捨てた。

「止めてよ、オバサン」


『止めてくださいよ。貴女に興味はありません』

鋭い緑の光を放つ男の顔をヘルは思い出す。全く変わっていない。そのことに軽く彼女は笑った。

———やぁねえ、態度は変わらず……か。

 そんなヘルにリュミエールが声をかけた。

「おねえさん、なにしてたの」

何か嫌な気配を感じたリュミエールはおそるおそるヘルに歩み寄った。この、変に静寂を保つ空間から思いたくもない感覚を感じる。

「やだ、まだ残ってたの」
にこにこと微笑みながらリュミエールを向くヘルだが殺気を帯びていた。


右掌が若紫の光を発し、掌から短い刃が生える。それを勢いよくリュミエールに向かって刺そうとした。姿勢を低くし、彼女の心臓を目掛け、一突きしようとする。

 速い!

閃光の如く放たれし一突きにリュミエールは全く反応していなかった。何も気づかずただ立つ。その童女の左胸の少し上に刃が刺さる———!


キィンッ

金属同士が重なりあう音が響いた。ヘルの体が何かに飛ばされる。飛んだ体は咄嗟に右足を地面に突き刺し、土煙をあげながら無理矢理体を止めた。

「やーね、邪魔者お?」

 何事もなかったように平然とし、土煙を手で払う。「何よぅ」唇を尖らせて言う姿は不服そうな子供の様だ。

「うっせーよ」
メリッサのノルネンがヘルに向けられる。

彼女の隣で怯えているリュミエールのツーピースに小さく血が滲んでいた。まだ心臓には届いていなかったようだ。その小さな体をレイスが受け取った。

ノルネンの形状をベルザンディの形に変えたメリッサはヘルへと飛ぶように向かった。ヘルの後ろへはフリッグが竜を携えて向かう。二人で挟み撃ちにするという寸法である。

 

 運命聖杖ノルネン、スクルド。
聖属性魔法の最高位呪文レ・ラクリスタル、発動。



 ヘルの足元に淡い黄色で光る魔法陣が展開された!平面の円であるレ・ラクリスタルの魔法陣はだんだんと円錐状になり、ヘルをその立体の中に閉じ込める。

閉じ込められつつも彼女は平然としていた。
———暗黒系の敵に有利な聖属性魔法はその名の通り闇に属する者を葬る呪文である。

禁呪———あまりにも力が強大で習得には禁書を読む必要がある呪文———聖なる審判ホーリエスト・ジャッジメントが事実上聖属性最強魔法であるが、そのすぐ下に属するレ・ラクリスタルは習得上聖属性最高位の魔法とされている。

 魔法は、まず一番弱い第一階位の魔法を覚え、それを使っていくうちにその上の第二階位、第三階位と自然に習得していき最終的に最高位———第五階位の呪文を習得する。

だがそれは魔道書を使わない例であり、魔道書を使えば人によっては読むだけで習得可能だ。第一階位から覚えるのでは最高位習得までに果てしないくらいの時間がかかる。

 メリッサの場合、ノルネン自体がそれを使えるようにされていたので魔道書を読んでいないが。

 レ・ラクリスタル。円錐の中に閉じ込めた標的を容赦なく、面から突き生やした鋭利な水晶クリスタルで刺す。

ヘルの肉体に次々と刺し込まれ、彼女の体に余裕がないほどにまで水晶が刺さる。避ける間も与えず、そして水晶から逃げれなかったヘルの体にはまるでそれから生えているように水晶が刺さっていた。

 女体から紅いものが吹き出す。まるでスパッタリングでもされたように、吹き出したそれは水晶でマスキングされた円錐の面に飛び散って模様を描き出す。

それはたいへん綺麗だったが、人の生き血で描かれた物だと言うのだからなんとも賞賛出来るものではなかった。

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